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act1-3

東京福生市

航空自衛軍横田基地

September 19.2021



 東京西多摩福生市に存在する航空自衛軍横田基地には、航空自衛軍の戦闘部隊の司令部である航空総隊司令部が所在していた。武力攻撃事態に際し、基地全体は厳戒態勢となり、航空総隊司令部では要員らが登庁してからは人の出入も厳しく制限されていた。実弾を装填した小銃を携行した歩哨が立ち、普段通り自販機の補充に入ろうとした業者等は追い返されて面を食らっている。


 その航空総隊作戦指揮所(COCC)では航空総隊司令官の大羽賀空将の下、武力攻撃事態に伴う南西方面防衛作戦の指揮が執られていた。


 時刻は、早朝五時を過ぎたところだが、未だに指揮所内は騒然となっている。居並ぶ指揮官達の表情は思いつめたもので、喧噪はその度合いを増していた。


「IP」


 南西方面の上空に新たな航跡が現れるたび、報告が飛び交う。


「細部状況を整理して報告せよ」


 中国軍の行動は、南西航空警戒管制隊で生き残っている伊良部島レーダーサイトからの情報と情報収集衛星、攻撃前に嘉手納から飛び立ったE‐767早期警戒管制機及び電子測定機等の偵察機から判明している。


「現在判明している最新の敵情です。沖縄方面に展開している敵航空戦力は約二個連隊……六十機程度です。そのうち、那覇空港には二個中隊約二十機が展開しています」


 作戦指揮所に隣接する会議室で市ヶ谷を経由したために遅れて登庁した大羽賀に対し、ブリーフィングが行われていた。


 会議室にはセンタースクリーンとその両端に一つずつサイドスクリーンが設けられていて、左端のサイドスクリーンに情報収集衛星からの衛星写真の画像が表示される。海に面する民間空港の写真だ。しかしそれには不釣り合いな軍用機が多数、映っていて、それを鮮明にした拡大画像も表示される。


「現在の那覇空港の様相です。多数の中国軍航空機が離着陸しているのが確認できます。敵は空輸によっても装備を沖縄に運び込んでいると思われます」


 説明する若い三佐を大羽賀が見つめて続きを促す。


「東シナ海上を空中哨戒している中国戦闘機は常に十機以上。二機編隊ないし四機編隊です。いずれも中国が指定している防空識別圏内で行動しています。また早期警戒機も展開しており、電測機からの情報では二機のKJ‐200早期警戒管制機の存在が確認されています」


「東部戦区海軍(旧東海艦隊)の空母《遼寧》を中核とする巡洋艦三隻、駆逐艦七隻、フリゲート艦六隻からなる仮称、《遼寧》空母戦闘群の艦載機三十機は宮古海峡付近に展開中です。また、南部戦区海軍(旧南海艦隊)の空母《山東》を中核とする巡洋艦四隻、駆逐艦八隻、フリゲート艦五隻からなる《山東》空母戦闘群は東シナ海へ北上しています。こちらも艦載機四十機余りを運用している模様」


 東シナ海におり、最も沖縄に近いのが東部戦区海軍の空母戦闘群、そして太平洋側から沖縄に向かっている南部戦区海軍の空母戦闘群。この両艦隊に同時に対処しなくてはならない。


「我が方のCAPは?」


「305飛行隊及び307飛行隊の一部を奄美大島周辺まで進出させています。双方の進出限界の境界が沖永良部島となっています」


 第305飛行隊はF‐15戦闘機を運用し、第307飛行隊は唯一艦上航空隊以外でF‐18戦闘機を実戦運用する飛行隊だった。


 いずれも二機編隊で東シナ海及び太平洋に分かれて戦闘空中哨戒(CAP)を行っている。さらに嘉手納基地所属で、嘉手納基地に対する巡航ミサイル攻撃の難を逃れていたE‐767早期警戒管制機も新田原基地を拠点に、その後方で警戒管制を実施していた。沖永良部島の南西航空警戒管制隊第55警戒隊のレーダーサイトは健在で、このレーダーサイトと早期警戒管制機との連携により航空自衛軍の戦闘空中哨戒は敵の進出を食い止めている。


「第五護衛隊群は第二護衛隊群と太平洋上で合流し、統合任務部隊を編成しました。航空護衛艦《かが》及び《きい》の第101飛行隊、第103飛行隊は現在、艦隊の防空任務に当たっています」


 日本は四隻の航空機搭載護衛艦を保有するが、四隻すべてが稼働状態にあるわけではなく、ローテーションで運用されており、残りの二隻は長期整備と短期整備に分かれてドック入りしている。海上自衛軍が実質、投入できる最大の戦力が現在、太平洋にいた。


「奄美大島には現在、即応可能な高射部隊を空輸中です。また、陸上自衛軍第十二旅団の一個連隊がヘリにより、沖縄への進出に備えて待機中。また水陸機動団の展開に備え、輸送艦《あつみ》及び《しもきた》、《くにさき》が佐世保に到着しました」


「最終的にはこの陸自部隊を沖縄に投入しなければならない。防衛出動下令を待たずして敵の航空優勢を崩す必要がある。取れる手段を尽くしてくれ」


「現状では空戦に至らないまでも非常に緊張した状況が続いています。敵機が向かってきた場合、海上警備行動の範囲では敵対行動を認めなくては武器の使用ができません」


 そもそも海上警備行動は、海上における治安維持に関する出動であり、対象は艦船だ。


「細部の交戦規則(ROE)を詰めなくては、現場では混乱が起きると思われます」


 大羽賀は当惑した。中国軍の侵攻が始まってからまだそんなことすら整理できていないとは。


「領空を侵犯している時点で敵対行動と判断することは出来るか?」


「充分、敵対行動としての要件を満たしていると思われます」


「では必要な武器使用についてはすでに領空を侵犯している敵戦闘機に関しては無制限だ。防空識別圏から接近する機に対しては無線による呼びかけを行い、回答が無ければ攻撃を認める」


「よろしいのですか」


「政府は外交での解決を目指している。防衛出動を発令するのは最後の手段として、現状は海上警備行動の範囲で沖縄の敵部隊を孤立させ、補給を断つよう指示した。航空優勢を確保するためにも躊躇ってはいられない」


 航空優勢を確保し、増援部隊を沖縄に送り込めなければ沖縄は占領される。大東亜戦争の悲劇を繰り返す訳には絶対に行かない。もしそうなれば本当に県民感情は独立に傾きかねないのだ。






千葉県船橋市

習志野駐屯地

September 19.2021



 日本で唯一の空挺部隊である第一空挺団が駐屯する習志野駐屯地。その駐屯地内の一角にさらに隔絶され、厳しい機密管理下に置かれた『区域』が存在する。同じ自衛軍内の隊員達でも近づくのを憚るその『区域』には、陸上自衛軍陸上総隊直轄部隊、特殊作戦群(SFGp)の群本部が置かれていた。


 特殊作戦群とはその名の通り、陸上自衛軍の特殊作戦専門部隊だ。その任務は対テロなどの不正規戦といわれているが、徹底的な作戦機密保持性のもとにおかれており、情報を部内外にまったく開示しない秘密部隊で、一般人はおろか部内のほとんどの自衛官ですらどのようなことをしているのか、またその存在についても詳しくは知らない。


 その本質は自衛軍内で唯一、卓越したミリタリーの技能と知識を使う事の出来る政治的作戦部隊ポリティカル・オペレーション・ユニットである。単に戦術的に事態に対処するのではなく、政治の求めに応じて「情勢」に対応して無理難題とも思える任務を遂行する柔軟な運用思想によって設立された戦略部隊だ。


 彼らに与えられるであろう任務(ミッション)は多岐にわたる。例えば、海外で人質となった邦人を、敵を殺さずに救出せよ、国際紛争に於いて軍事力を一切行使せずに政治的混乱を引き起こす事によって解決せよ、国内に潜む重武装した秘密工作員を発見し隠密裏に制圧せよ、第三国のミサイル計画そのものを根底から排除せよ――いずれも外交、警察の能力を超え、しかも自衛軍の一般部隊の出動は政治的に不可能だが、それでも解決しなければいけない――等といったように、命じられるコンディションとその任務は複雑怪奇である。そして特殊作戦群はその困難なミッションを完遂する能力を求められており、実際にその能力を備えている。


 これが日本の有事において、動かない道理はない。すでに彼らは、静かに気配もなく動き出していた。


 陸上総隊付隊所属の高機動車十二輛が一斉にその『区域』を出て、隣接する習志野演習場へと向かう。彼らが習志野演習場に到着するや否やのタイミングで六機のCV‐22Jオスプレイ多目的輸送機が習志野演習場に滑り込むように着陸し、並んだ高機動車のすぐそばで一列縦隊に並び、エンジンを回したまま止まった。


 高機動車からは一斉に整然と完全武装した男達が降りてきて、CV‐22J機体後部の開け放たれたランプドアを乗り越えて機内へと乗り込んでいく。


 全員の収容が終わると、CV‐22Jはエンジンの回転数を上げ、短距離離陸滑走してすぐさま離陸していった。


 習志野演習場を離陸したCV‐22Jはすぐさまティルトローターエンジンの角度を変え、垂直の垂直離着陸(VTOL)モードから水平の固定翼(APLN)モードへと移行し、そのまま一路、佐賀空港に新設された佐賀駐屯地へと針路を取った。


 赤い機内灯が照らす機内の両側のトループシートに座った特殊作戦群の隊員達を見やった霧島鋭一(きりしまえいいち)一等陸尉は普段と変わらない慣れた様子を見て満足した。


 特殊作戦群の隊員達が身に着けている戦闘服こそ空挺戦闘服だが、装具類は大きく異なる。そのものに防護性がある防弾チョッキではなく、陸自の迷彩2型を退色させたような、明るいブラウンとカーキ、ライムグリーンのマルチカム迷彩が施された、抗弾プレートを携行するための軽量なプレートキャリアと呼ばれるベストを身に着け、ヘルメットもまたOPSCOREの軽量防弾ヘルメットだ。全員が目出し帽(バラクラバ)で顔を隙無く覆っている。


 各々が手に持っている武器もまた、陸自の一般装備とは異なり、ドイツH&K社製のHK416短銃身小銃(カービン)が標準的な武器となっていて、レッグホルスター等を介して今では陸自の制式拳銃となったSIG社製の9mm拳銃P226やH&K社製の9mm拳銃USP、11.4mm拳銃HK45Tを携行している。


 陸自の精鋭部隊である特殊作戦群でさえも実戦を経験している者はほとんどいない。中には米特殊部隊との研修中に「偶然、貴重な体験」をしてきた者もいるが、それは稀だ。普段の訓練を通して部下たちの能力を霧島は信頼していたが、ここで浮き足立つような者がいないという事実が再びその自信を裏付けるものとなった。


 一瞬の観察で、隊員の心理状態を知ることが出来るのも長年の訓練で培ってきた意思疎通によるものだ。


 軽口を叩き合うような者もおらず、ただただ落ち着いて静けさを保っていた。


「読谷村にいる情報中隊からの続報は?」


 霧島は副官であり、右腕である進藤誠司二等陸尉に尋ねた。


 陸上自衛軍の改編に伴い、予算がさらに増えたことによって増勢された特殊作戦群は特殊作戦中隊一個と諜報活動を行う情報中隊一個が新編され、五個中隊編成となっていた。情報中隊は偵察任務や現地での諜報活動の他、中央情報隊隷下の現地情報隊の支援を行う部隊だ。


 米軍の残したトリイステーション及び沖縄の恵まれた訓練環境から読谷村分屯地には部内にも秘匿して展開していた情報中隊は現地において浸透し、すでに情報収集に当たっている。


「敵が投入しているのは東部戦区の部隊で確実です」


 東部戦区は南京に司令部を置き、台湾と東シナ海方面の状況に対応する。経済的発展が目覚ましい地域を背景地に控え、最新の装備が整っている。対日作戦でまず表立つのが東部戦区だが、同時に東部戦区は台湾侵攻の際の主力部隊でもある。


「台湾方面には南部戦区も一部投入されているが、東部戦区主体で二正面作戦を実施しているということか」


 中国人民解放軍の南部戦区の担当は南シナ海方面だ。南部戦区海軍の空母艦隊は日本と台湾に対する作戦に投入されていた。


「均衡を崩すことが出来れば敵の二正面作戦を頓挫させることが出来るかもしれないな」


 そう誰に言うまでもなく独りごちた霧島は、この戦争の結末をどう持っていくべきなのかを考えていた。


 CV‐22Jの六機編隊はやがて佐賀空港へと到着した。


 佐賀県佐賀空港には、陸上自衛軍佐賀駐屯地が存在し、飛行場を官民共同で運用していた。二〇一九年に新設された佐賀駐屯地は第一ヘリコプター団機動支援ヘリコプター群司令部が置かれている。約七十機の自衛軍機が運用可能な佐賀駐屯地は木更津駐屯地に次ぐ規模だった。機動支援ヘリコプター群はすでに水陸機動団を展開させるためにその羽を羽ばたかせる準備を整えており、ヘリ以外の整備部隊も展開に備えて偽装などを施し、破壊工作などから機体を守るために戦地から離れたこの佐賀駐屯地でも実弾を装填した小銃を持って歩哨が立っていた。


 六機のCV‐22Jはエプロン地区でエンジンを回したままホットフュエリングを受けるとすぐさま滑走路へと戻り、離陸していった。





沖縄

那覇市

September 20.2021



 功刀は那覇市内から出られずにいた。中国軍が主要道路を封鎖し、検問を設けている。沖縄西部は中国軍によってほとんど占領されたようだった。


 携帯電話の基地局などは破壊され、インターネット回線や電話回線も不通。一切の情報が入ってこない中、市民たちは衛星テレビを見ようとしているが、軍の電波妨害によってそれもほとんど映らない。


 食料、燃料は配給制となり、街頭に立っていた警察官の代わりに中国軍の憲兵が立ち、片っ端から車を止めて取り調べを行い、市民の動向を見張っていた。国際通りでは県民と中国兵達のいざこざが起きていて、酒の飲める店は彼らのたまり場となっている。もう勝った気でいるようで、緊張感のない兵士達は実際多い。


 たった二日でまるで外国のようだ。市内には自衛軍の車輛が乗り捨てられていたり、破壊された軽装甲機動車が放置され、代わって市内を中国軍の装甲車が我が物顔で走り回っているのを見ると、敗北を感じざるを得なくなった。


 那覇空港にはひっきりなしに輸送機が離着陸を繰り返し、そのたびに部隊が東に向かった。時折嘉手納基地の方向では戦闘が繰り広げられているようだが、攻撃ヘリがそちらに向かうことはなかった。まだ嘉手納基地の防空ミサイルなどは健在なのだろう。


 それにしても自衛軍の動きが遅いのが気がかりだった。反撃はいつ始まるのだろうか。何もできずに義務を果たせず、帰るべき家もない功刀はとにかく情報を集めるために宛てもなく市内を歩き回っていた。


「おい」


 そんな声が後ろからかけられ、功刀は喉から内臓が出てきそうな緊張を覚えた。気づかないふりをして立ち去るべきか。人気がほとんどない通りで、自分に向かってかけられたのは分かったが、功刀はゆっくりと歩幅を広げて遠ざかろうとした。


 そんな功刀の肩を背後から音もなく近づいた誰かが掴んだ。


 これはもう回避できない、倒すしかない。


 咄嗟に徒手格闘の要領で腕を払いのけながら掴み、捻り上げようとすると逆に腕を固められて、建物の壁に叩き付けられた。


「落ち着け、味方だ。陸自だな?」


「人違いだ」


 功刀は呻きながらそう言ったが、背後の男は功刀に身分証明書のようなものを見せた。読谷村分屯地の制限区域に入るためのIDカードだった。顔写真と名前、階級、所属、そしてバーコードとICチップが張られている。二等陸尉、桂城清太、防衛省陸上総隊中央情報隊と書かれていた。


「中央情報隊……?」


「の現地情報隊だ。来い、仲間がいる」


 現地情報隊とは海外派遣の際、先遣隊として現地入りし、情報収集に従事する諜報部隊だ。迷彩服を着ずに非合法活動を行っていると噂されていた。


 読谷村分屯地は敷地内のビーチやのどかな雰囲気とは裏腹、軍事情報戦略拠点であり、部内外でも秘密にされていることが多く、かつてグリーンベレーが常駐していたことから特殊作戦群などの部隊が今は非公式に利用しており、少なくとも小隊規模の部隊が常駐しているのは自衛軍内では公然の秘密だった。


 桂城に連れられたのは、その場所から遠くない二階建てアパートの一室だった。桂城が合図らしい不規則なノックをするとドアが開かれる。中からは長身で強面の男が顔を覗かせた。


「誰だ」


「第51連隊1中隊、功刀二曹」


「中隊長の名前は?」


「広幡二尉です」


「入れ」


 中に入るとパソコンのケーブルが床を這っていて、奥の部屋にはパソコンが並び、今も黙々と男達が作業を続けている。壁には無造作にM4A1カービン(短銃身小銃)が立てかけられ、強面の男の腰にも拳銃が刺さっていた。奥のダイニングの食卓には地図と無線機が鎮座し、ベランダ前の窓にはカーテンがかけられ、観測用望遠鏡とビデオカメラが三脚で設置されている。


 ダイニングの食卓の無線機を傍受している私服の男の中には見覚えがあった。


「2中隊の木根三尉ですか」


 同じ第51普通科連隊の隊員が三人、その場にいた。


「君は?」


「1中隊の功刀二曹です」


「そうか、君も桂城二尉に拾われたな?俺もだ」


「現状を教えよう」


 桂城がそう言って功刀を食卓に呼んだ。広げられた地図とミニカーを使って説明が行われる。


「那覇、名護、海自の那覇基地、勝連分屯地は制圧された。第51普通科連隊の残存と第3水陸機動連隊その他部隊は今、嘉手納基地の防衛に当たっている。嘉手納は高射特科連隊や空自の防空部隊が健在で、敵の航空機は嘉手納に近づけない。中国軍は嘉手納基地を無傷で制圧しようとして手こずってる。痛い反撃を受けてこれから恐らく方針を変えるだろう」


「政府は?防衛出動はかかったんですか」


「まだだ。国連安保理で未だに議論している。だが統合任務部隊がようやく編成された。海上警備行動で空護を含んだ艦隊が向かってきている。まだまだかかるだろう。沖縄を制圧されるわけには行かない」


「我々だけで戦うんですか」


「戦闘は無理だ。奪回作戦と政治の決心に必要な情報を集める。電話回線もインターネット回線も切断され、メディアも押さえられている。我々しか情報を発信することが出来ない」


 そう言ったのは先ほどの強面の男だ。三十代前半、身長は一八五に届きそうな高さで、鍛え上げられた体だった。


「特殊作戦群情報中隊の高瀬一曹だ。我々は今、民間人に扮して情報収集を行っている。協力してくれ」


「もちろんです。こちらこそお願いします」


 行くあてもなく丸一日ただ歩き回っていた功刀には待ち望んでいた任務だった。本心から返事をしたが、高瀬は有無を言わせない雰囲気だった。


 特殊作戦群といえば自衛軍の中では随一の特殊部隊であり、厳しい秘匿性により謎に包まれていることから、噂には尾ひれがつき、破格の戦闘能力を持ち、時には安全管理を無視した訓練を行っていることや、影では非合法な作戦にも投入されているのではないかとまことしやかに囁かれていた。


 情報中隊は最近新編された特殊作戦群内の偵察諜報部隊であり、それこそ民間人に扮しての非合法活動などを行っているのではないかと噂されている。


「銃は?」


 桂城が聞いた。


「ありませんよ。外出中でした」


「これを」


 無造作に手渡されたのはM4A1小銃だった。特殊作戦群等の特殊部隊向けに自衛軍でも少数調達されている。三・五キロの89式小銃に比べれば三キロ前後と軽くなった19式小銃よりもさらに本体は軽いが、ホログラフィックサイトとサプレッサーが取り付けられていてずしりと重い。


「これはどこで?」


「うちのだ」


 高瀬が言った。どうやら読谷村分屯地に保管されていた特殊作戦群の武器らしい。


「さすがS」


 功刀は思わず唸る。無骨なM4の槓桿(チャージングハンドル)を引いて薬室を点検する。


「うちにはこれの後継が入ったから、これは型落ちだがな。使えるか」


「使ったことはありませんが、米軍との共同訓練で弄ったことはあります」


「整備の仕方を教えよう」


 高瀬は携帯無線機と弾倉の詰まったベストを功刀に渡す。特殊作戦とは無縁の一般の自衛官である自分がこんなことに巻き込まれるとは思ってもみなかったが、ようやくまともに組織的な行動ができることと、任務の重要性に功刀のモチベーションは高まりつつあった。



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