act3-7
上がって来た戦闘機が上空で次々に合流する。瀬川もまた、発艦するとそれを追うように発艦した佐渡と編隊を組み、呼び名が長く、武器使用コールサインと混用するFを飛ばしてシーウルフG編隊を臨時で編成した。
無線が飛び交っていて激しい空戦が繰り広げられていることを否が応でも知る。空には黒煙の筋がいくつも見えるが、航空機が落ちたのか巡航ミサイルを破壊したのかは分からなかった。
「サド、EW準備。マスターアーム・オン。俺達は低空から接近している艦載攻撃機を叩くぞ」
『ラジャー』
佐渡の返事は落ち着いていた。怖気づいていない。それで満足だ。瀬川は旋回し、接近する戦闘爆撃機の編隊の後方へ回り込みにかかった。
迎撃誘導するE‐2Dホークアイ早期警戒機の兵器管制官は大忙しだ。レーダー上には第103飛行隊の戦闘機十三機が映っていて、それぞれが敵と交戦している。
「サド、常に警戒。ステルスのエスコートに注意しろ」
『殲撃31ですね。F‐18のAPG‐3でも探知できるようですが』
「レーダーの死角から忍び寄ってくる周到な奴らだ。パッシブセンサーを使え。目視確認を怠るな」
『ウィルコ』
佐渡の返事は頼もしい。瀬川は頼むぞ……と心の中で念じた。
撃墜された福原のことが脳裏から離れなかった。和泉は責任を感じているようで、戦闘詳報を書き終えてからはずっと格納庫で機体を見ていた。
僚機を守れない編隊長は失格だ。二機編隊長資格を取得するときに何度も言われた言葉だ。フライト・リーダーでもある和泉の頭にはその言葉が蘇っているに違いない。
その時、レーダーディスプレイに四つの輝点が映った。IFFの呼びかけに応答なし。E‐2Dが捕捉している低空から接近する戦闘爆撃機の編隊だ。高翼に配した後退翼とその根元に開いたエアインテークの殲轟JH‐7A戦闘爆撃機、NATOコードネーム・フラウンダー。そして機首下面に配置されたエアインテーク、単一の大きな垂直尾翼を持ちデルタ翼の主翼にやや面積の大きな前翼を置く翼の配置の殲撃J‐10戦闘機、NATOコードネーム・ファイヤーバードだった。TDボックスが四機を囲む。
「ターゲット、レーダー・コンタクト。機首方位026。マッハ0・8、フラウンダー二機、ファイヤーバード二機」
オンボード・レーダーで捕捉した四機は低空飛行で艦隊に接近している。瀬川はアフターバーナー・ゾーンにスロットルを押し込むと追撃を開始した。
『それが目標だ、撃墜せよ』
「ラジャー。シーカーオープン」
その時、殲撃J‐10戦闘機がレーダー波を探知し、こちらの接近に気付いた。だが遅い。
「FOX2、FOX2」
ミサイルレリーズを押し込んだ瞬間、四機が編隊を解いて回避機動を取った。発射された04式空対空誘導弾IRミサイルは左に逃げてフレアを放出する殲轟JH‐7Aフラウンダーに向かって飛翔する。
フラウンダーをIRミサイルが直撃した。加速していたフラウンダーは後ろから蹴り飛ばされたように弾かれて爆発四散する。
『グッキル!FOX2』
佐渡も負けじとミサイルを発射した。IRミサイルが逃げるフラウンダーに向かう。フラウンダーは対艦ミサイルも増槽も捨ててフレアを放出して回避する。しかしアフターバーナーを焚きっ放しだった。ミサイルはフラウンダーのエンジンに直撃して炸裂し、フラウンダーは爆発四散する。
「サド、エイト・オクロック。向かってくるぞ、回避しろ」
『ラジャー』
フラウンダーの護衛だった殲撃J‐10が後方に回り込もうとしていた。八時方向から切り込んでくる。
佐渡が右に急旋回して殲撃J‐10の旋回半径に割り込む形で回避する。殲撃J‐10は咄嗟に機関砲を発射したが、いずれも見当違いの方向に火線が伸びた。左に舵を打って回避した瀬川にも一機食らいついてくる。
瀬川は左に回避して殲撃J‐10の追撃を誘うとすかさず右下方に急旋回し、速度を絞る。
無理に瀬川を追尾しようとした殲撃J‐10が右にバンクを振りながら旋回したが、瀬川機の下に出てしまい、追い越す。瀬川はオフボアサイトで狙う。
「FOXガンズ!」
機関砲を発射。20mm弾の火線が百九十度以上のバンクを取っている殲撃J‐10の腹を掠めて外れる。殲撃J‐10はそのまま右に切り続けて背面飛行状態になって瀬川を振り切ろうとした。
瀬川は佐渡の位置を確認しながらもその殲撃J‐10を追い、再度機関砲を発射する。20mm弾が殲撃J‐10の主翼に着弾した。主翼に大穴が空いたのを見たが、撃墜には至らなかった。殲撃J‐10は水平飛行に戻ってゆっくりと高度を落としていく。手負いの殲撃J‐10の追撃を中止してすぐさま佐渡に向かう。佐渡ともう一機の殲撃J‐10は熾烈なドッグファイトを繰り広げていた。互いにケツを取り合ってもつれ合っている。殲撃J‐10の方が、わずかに運動性能が上のため、次第に佐渡が不利になっていた。
「サド、右に打って上昇しろ」
左旋回中だった佐渡は即座に右にバンクをかけると上昇する。それを追尾しようとして速度を落とした殲撃J‐10の後方に瀬川は躍り込む。
殲撃J‐10は佐渡の追尾を中止して直ちに急降下した。瀬川はそれを追う。
『シーウルフG編隊、こちらホエールテール。追撃を中止。方位073へ。新たなボギー四機』
「コピー」
瀬川は追撃を中止すると佐渡と合流しながら方位073に機首方位を合わせる。燃料計をチェックする。
――大丈夫だ、まだ戦える。
空中給油のために空中給油システムを装備したCV‐22Jが上がっていた。これで在空時間が延伸できる。しかし、武装した戦闘機が足りない。もう空護に引き返さなくてはならない編隊もある。レーダーの捜索モードを変更し、正面にいる目標機を探す。
捉えたのは轟炸H‐6バジャー爆撃機の四機編隊だ。低空から艦隊に接近していた。
『セナ、レーダー・コンタクト』
「待て」
今にも飛び出して行かんばかりの佐渡にスタンバイを指示する。嫌な予感がした。爆撃機にしては無防備過ぎる。瀬川がレーダーディスプレイを見た時、RWRが鳴った。
「ブレイク!」
怒鳴って二機は散開する。後方から長距離ミサイルが飛んできた。
「サド、ミサイルだ!チャフ・フレア、アウト」
対抗手段がばら撒かれ、ECMが自動で敵の照準波を妨害する。低空へ逃げるとミサイルを発射した戦闘機がいつの間にか後方に回り込もうとしていた。
『セナ、後方に二機のフランカー!』
佐渡が警告する。分の悪い相手が二機で追い詰めてきた。殲撃J‐15フランカーX2戦闘機だ。キャノピーに手をついて後ろを振り返る。五時方向と七時方向から迫ってきていた。
「くそ」
すでに低空に追い詰められようとしていて不利になりつつあ った。佐渡が援護しようと向かってきた。急旋回して回避を試みるが、ぴったりと追尾されていた。耳元に耳障りなRWRが鳴り響く。
「後ろにつかれた!振り切れない!」
『こちらガイ、今援護に向かう!持ちこたえろ!』
『ファル、エンゲージ』
黒江はともかく藤澤は快く思っていなくても仲間は仲間だ。誰が来ようが構わないから援護が必要だった。藤澤と黒江が佐渡と連携して殲撃J‐15フランカー戦闘機を攻撃する。
フランカーはすぐさま逃げに転じた。それを藤澤と黒江が追尾にかかった時、早期警戒機が警告してきた。
『ガイ、ボギー、シックス・オクロック!回避しろ!』
敵は四機編隊だった。黒江と藤澤が回避にかかる。黒江に二機が食いついて攻撃を仕掛けようとしていた。瀬川と佐渡が黒江を援護しようとすると一度反転離脱していたはずのフランカーが舞い戻ってくる。
RWRが鳴れば回避せざるを得ない。機体が入り乱れる中、黒江を援護しようとする藤澤が小回り旋回して一機の背後を占位した。
『全編隊、こちらホエールテール。対処可能な機は艦隊の北西から接近する爆撃機に対処せよ』
瀬川たちが迎撃に向かおうとしていた轟炸H‐6バジャー爆撃機は妨害を受けることなく、抱えている対艦ミサイルの射程に艦隊を収めようとしていた。バジャー各機が少なくとも二基から四基の対艦ミサイルを抱えている。
まずい……
瀬川の後方にもまたフランカーが回り込もうとしていた。奴らは二機ずつで攻撃してくるが、攻撃してくる機をこの乱戦の中で定めている。敵は相当な手練れだ。
『こちらシーウルフ11。エンゲージ』
その時、耳元に聞こえてくるとは思ってもみなかった声が流れた。




