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act1-7


PAN(パン)‐PAN‐PAN!目標機(ターゲット)空対艦ミサイル(ASM)発射、四発、目標空護』


 笠原が緊急警告(PAN)を発信し、艦隊に警告する。黒江はミサイルを発射して離脱したJ‐15S戦闘爆撃機の追跡を見送り、発射されたYJ‐83K空対艦ミサイルを追尾し、データリンクに空対艦ミサイルの正確な位置を共有した。それとほぼ同時に北側から接近する中国機を要撃したシーウルフ07、今井一尉が無線に叫ぶ。


『エマージェンシー!中国機がミサイルを発射!数四!空護に向かっている!』


『ホエールテールよりイーグルネスト、ターゲットがミサイルを発射した!方位275、方位005より対艦ミサイル接近中!数八、マッハ0・9(ジロドットナイナー)


 北側から接近していた中国機の二機編隊も対艦ミサイルを発射した。艦隊は二方向から対艦ミサイルの攻撃にさらされている。距離を詰めての周到な奇襲同時攻撃だった。


 笠原の懸念が現実のものとなった。


 統合電子戦システム(IEWS)に統合されているレーダー警報装置(RWR)の警告の電子音が耳元で鳴る。


 IEWSの脅威ライブラリは、中国の殲撃11B型(J‐11B)戦闘機が搭載ている1474型多用途パルスドップラーレーダーに相当すると判断しており、MFDにそれを表示すると同時に対抗手段を取り、AN/ALQ‐214機上電子妨害装置(ECM)がレーダー波を妨害する。


「シャドウ、ロックオンされ――」


『ファル、そのまま飛べ!後ろの二機には俺が対処する!対艦ミサイルを撃ち落とせ!』


 笠原が早口で無線に怒鳴り、機首を跳ね上げて上昇しながらチャフを放った。レーダー波を妨害するチャフが空にまき散らされる。黒江は、RWRを聞いて反射的に回避急旋回(ブレイク)しようとした手を、笠原の声を聞いてすんでで止めた。


 背後から喉元にナイフを突きつけられたような状況ながらも、黒江は笠原の指示を履行しようとした。チャフ・フレアを再度放ち、兵装選択装置でFOX3のアクティブレーダーミサイルを選択する。


『シーウルフ01、交戦(エンゲージ)


 笠原の言葉が耳を掠めたが、黒江はそれどころではない。素早く火器管制レーダーを操作して捜索中追跡(TWS)モードから単一目標追跡(STT)モードに切り替え、前方を飛翔する四基の対艦ミサイルを追尾、捕捉する。


 笠原が後方の機をロックオンしたことで、RWRの警告音が鳴り止んだ。後方の機は回避行動に転じた。


『シーウルフ01、回避せよ!交戦は許可しない!』


「シーウルフ02、FOX3」


 武器使用をコールしながら操縦桿のウェポン・リリースボタンを押し込み、発射する。約二百二十キロの99式空対空誘導弾(AAM‐4C)四基が主翼下のハードポイントから離れ、機体が軽くなったのを感じた。四基のAAM‐4Cは、ハードポイントを離れるとロケットモーターに点火し、あっという間に黒江機を突き放して加速して飛翔していく。


 AAM‐4Cは巡航ミサイル迎撃能力と対ステルス機への攻撃能力を有するため、理論上なら亜音速で飛ぶ対艦ミサイルくらい撃墜することは可能なはずだが、それを試したことはない。元となったAAM‐4の命中精度の高さは全弾直撃で近接信管のテストが難航したという逸話を持つほどだが、実戦証明(コンバットプロープン)は無かった。


 ミサイルを発射した瞬間、直ちに回避急旋回(ブレイク)する。笠原の情報がデータリンクで共有されていた。後方から攻撃を仕掛けてきたのはJ‐15フランカー戦闘機二機編隊。戦闘爆撃機ではなく、空戦を制して航空優勢を確保するための純粋な制空戦闘機だ。


『対空戦闘、全艦対空ミサイル発射。EA攻撃始め!』


『射線上の各機は退避!』


 護衛艦が迎撃を開始した。垂直発射装置(VLS)から艦対空ミサイル(SAM)が発射され、ミサイル護衛艦の一隻はさながらロケットの打ち上げ台のようになっていた。対艦ミサイルはあっという間に艦隊に接近しており、すぐさま砲熕火器の射撃も開始された。


 レーダーを再び自動補足モードに切り替え、MFDに表示したレーダーを見る。J‐15Sが放った四機の対艦ミサイルの目標シンボルに、発射したAAM‐4C四基の飛翔ドットが向かう。マッハ四とマッハ〇・九の追いかけっこはすぐに終わる。AAM‐4Cは終末誘導のアクティブレーダーに切り替わると発射された対艦ミサイルをロックオンし、それぞれの目標に直進する。


 護衛艦の速射砲の砲弾が水柱を上げる中、黒江は機体を捻って血眼になって対艦ミサイルの行方を追った。AAM‐4Cは推進煙を残さないため、見つけることは出来なかった。だが、唐突なタイミングでほぼ同時に四つの火球が海面すれすれで起きた。


 MFDに表示された命中までの目標着弾タイマーがゼロになっていた。命中だ。


 しかし依然、北側からは四基の対艦ミサイルが艦隊に向けて飛翔していた。



 *



 第五護衛隊群はミサイル攻撃の一報を受けてすぐさま艦隊の隊形を組み替えていた。イージス艦たる《はるな》と《あしがら》が加速し、《かが》に寄り添う。《あきづき》と《おおなみ》は《かが》の両舷において左右を固めていた。


《かが》艦長の岡本昌一等海佐は《かが》の艦橋(アイランド)下、第二甲板に位置する戦闘情報指揮所(CIC)にいた。CICは艦の中枢であり、艦のすべての情報が集約される。前面には壁を二分するような大型の統合戦闘ディスプレイが張り巡らされ、現在の状況をリアルタイムで映し出していた。


 異常接近する二個の二機編隊が艦隊防空圏に侵入した時点で、艦隊には対空戦闘用意が発令され、総員対空戦闘配置に就いていた。


「目標より小型目標分離!対艦ミサイルと思われる!五度及び二百七十五フタヒャクナナジュウゴ度、数八!高速で本艦に近づく!」


 離艦している四機の戦闘機は現在、接近する領空侵犯機を要撃中であった。そのうちの一機、スクランブル発進したシーウルフ01がしつこく警告射撃の許可を求め、さらに撃墜許可を求めて来た時、岡本は緊張の中、決断を護衛隊群司令の福井海将補に委ねた。それが間違いだったと気付いたときは手遅れに近い対処するには絶望的な距離に中国機はいて、それらから対艦ミサイルが発射されていた。


 艦隊防空には艦隊を中心に三つの防空ゾーンが設けられており、イージス艦などの艦艇が低空を飛ぶ目標に対応できる最大射程の約百二十キロより外をアウターディフェンスゾーン、百二十キロから内側をエリアディフェンスゾーン、そしてさらに内側、約三十キロが個艦で対応するポイントディフェンスゾーンとなっている。


 今やマッハ〇・八、秒速二百七十メートル以上の速度で飛翔する対艦ミサイルはエリアディフェンスゾーンを飛翔し、ポイントディフェンスゾーンに近づいていた。イージス艦などが装備する最低射程の短SAMであるESSM発展型シースパロー艦対空ミサイルで対処するには近すぎた。


 現代の対空戦闘はいかに遠距離に置いて敵を撃破するかが主眼に置かれる。懐に入られれば対処できる手段も時間も限られていた。現代戦は秒単位で戦況が一変する。一瞬の逡巡が命取りとなるという事を岡本は理解していた筈だった。


「艦橋、第三戦速、面舵(おもーかーじ)。二十度、宜候」


《かが》は回避行動を取っていた。対艦ミサイルはこの艦隊で最大の目標、全長三百メートル弱の《かが》を目指して急速に接近している。


「攻撃始め。電子攻撃(EA)攻撃始め」


「《はるな》、シースパロー発射」


 はるな型ミサイル護衛艦《はるな》が、前部甲板のMk41垂直発射システム(VLS)から発展型シースパロー(ESSM)艦対空ミサイルを発射し、対艦ミサイルを迎撃する。


 しかし三十キロの距離を十二秒で飛翔する対艦ミサイルはすでにESSMが目指す地点よりも内側に入っていた。


「迎撃、間に合わない……!」


「チャフ発射始め!」


 護衛隊群の八隻の艦はほとんど同時にチャフロケットを発射した。


 チャフ発射管から飛び出したチャフロケットは、高度百五十メートルに達すると空中で炸裂し、敵のレーダー波を攪乱するためのアルミ被覆されたグラスファイバー片を周囲に散布し、チャフ雲を形成した。チャフ雲はレーダー波を反射し、敵ミサイルの誘導を混乱させる。


「ミサイル四、撃墜!二百七十五度より接近中のミサイル四、要撃機が撃墜した!」


「五度よりミサイル四、なおも本艦に向かって近づく」


 レーダー担当の一曹が滝のような汗を流しながらも訓練通り平静を装った声で読み上げる。西から接近していたミサイルをシーウルフ01の僚機であるシーウルフ02が全弾撃墜した。依然北側から四基の対空ミサイルが艦隊に向かって接近しているが、これで艦隊は一方向から接近する対艦ミサイルの迎撃に集中することが出来る。しかし状況は決して好転したわけではなかった。


《かが》にはFCS‐3対空戦闘システムからミサイル装備の省略に合わせてミサイル射撃指揮機能を省略して対空捜索と航空管制に用途特化したOPS‐50Aを装備する。それに加え、《かが》は現在、各艦及び早期警戒機(AEW)を含む艦載機からのデータリンクによって情報を共有していた。


 北側で要撃を行っていたシーウルフ07と08は戦闘機に妨害を受けており、対処は出来ない。


 CICにいる乗員達の顔にも緊張が走っていた。


近接防空火器(CIWS)、攻撃始め」


「対艦ミサイル、左九十度、真っ直ぐ近づく」


『艦橋、ミサイル視認!低空より接近!』


「艦長!」


 その時、悲鳴が上がった。


「《しまかぜ》、本艦とミサイルとの針路に割り込みます!」


 北から接近する対艦ミサイルと《かが》との間に、はたかぜ型ミサイル護衛艦《しまかぜ》が割り込もうとしていた。


「なにをするつもりだ」


 福井が呻いた。統合戦闘ディスプレイに表示される《しまかぜ》の位置を見て思わず岡本は息を呑んだ。


《しまかぜ》が装備する二門の73式五十四口径五インチ単装速射砲が毎分四十発の最大発射速度で対空砲弾を速射する。砲弾が次々に空中で炸裂し、一基のYJ‐83K空対艦ミサイルを直撃した。対艦ミサイルの高性能爆薬と砲弾の炸薬が炸裂し、低空で火球が生まれる。しかしその脇を三基の対艦ミサイルがすり抜けてなおも《かが》に突進する。


 その針路上に《しまかぜ》は最大戦速で割り込もうとしていた。《しまかぜ》はさらにファランクス高性能20mm機関砲を掃射し、ミサイルの撃墜を試みた。毎分四千五百発の発射速度でタングステン弾芯の徹甲弾を対艦ミサイルに向かって浴びせる。


 チャフ雲に惑わされた一基が鎌首を上げる様に上昇した。艦に突入するためのポップアップ機動に入ったのだ。そこへ20mm機関砲が弾幕を張る。曳光弾の火線が対艦ミサイルを直撃し、ミサイルを砕いた。対艦ミサイル弾頭の炸薬が炸裂し、火球が生まれる。


 しかし、迎撃は間に合わず残りの二基のうちの一基が後部構造物に直撃した。


《しまかぜ》を直撃した対艦ミサイルの弾頭部の百六十五キロの高性能爆薬が炸裂する。爆発によって生じた数千度の熱と音速の衝撃波は《しまかぜ》の堅牢な船体をあっさりと引き裂き、爆発のエネルギーは艦内を駆け巡った。


「《しまかぜ》被弾」


 その言葉を聞いても岡本は表情を変えないことに努めた。艦長である岡本に求められるのは冷徹な判断力だ。ここで岡本が浮き足立てば乗員も動揺する。《しまかぜ》艦長の杉浦二佐も艦と乗員の命をもってしても空護を守るべきだと判断したのだ。


「なおも対艦ミサイル一基接近!」


CIWS(シウス)、RAM発射はじめ」


「衝撃に備え!」


《かが》に迫る対艦ミサイルに向かって《はるな》と《かが》はSeaRAM近接対空ミサイルを発射する。


 捜索レーダーのレドームが備わった十一連装発射機からRAMローリングエアフレームミサイルが発射され、螺旋を描くようにマッハ二・五に向けて加速しながら飛翔し、感知部(シーカー)によって対艦ミサイルの発するレーダー波をパッシブ・レーダー・ホーミングで探知し、赤外線画像(IIR)誘導シーカーでロックオンする。


 発射された二基のRAMは、《かが》に迫る対艦ミサイルに殺到した。一基目は外れて海面に突っ込んだが、二秒の間隔を開けて発射された二基目のRAMは対艦ミサイルの正面で近接信管を作動させて炸薬を炸裂させて弾体の破片を叩き付ける。


 RAMの弾体の破片の直撃を受けたYJ‐83K空対艦ミサイルは破壊され、海面に叩きつけられて爆発した。


『艦橋、爆発閃光視認!』


「対艦ミサイル撃墜。近づく目標なし」


 その言葉に、対艦ミサイルの直撃に備えていた乗員達は顔を上げる。


 ミサイルを撃墜したのは《かが》の手前二千メートルの地点だった。


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