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太平洋伊豆半島沖
航空機搭載護衛艦《かが》
13 September.2021
きい型航空機搭載護衛艦《かが》は今日の朝、横須賀基地を出港し、太平洋上で第五護衛隊群を構成する護衛艦と合流しつつ、伊豆半島沖を原速十二ノットで沖縄を目指して進んでいた。
すでに第五護衛隊群はその陣容を整えている。《かが》を中心に、その両脇をミサイル護衛艦《はるな》、《あしがら》、《かが》の前方を同じくミサイル護衛艦《しまかぜ》が固め、外周を守る様に汎用護衛艦《あさひ》、《あきづき》、《おおなみ》、《きりさめ》が進んでいた。そしてその海中には潜水艦《せいりゅう》が潜み、水面下の脅威から《かが》を守っている。
米海軍の空母打撃群に勝るとも劣らない立派な空母機動艦隊の陣容を呈した第五護衛隊群はその練度を見せつける様に一糸乱れぬ輪形陣を保っていた。
その中心の《かが》の飛行甲板には厚木基地から飛び立った艦上航空隊のF‐18EJ戦闘機が次々に着艦していく。
今日は穏やかな天気で、海が青い畳を敷いたように凪いでいる。
──戻って来た。
着艦スペースを越え、前部飛行甲板まで進んで着艦スポットに収まってからキャノピーを開いた笠原はそう思った。潮と燃料の匂いのする、エンジン音の喧騒が支配する飛行甲板はもう、安心感すらあった。寄せられたラダーを使って機体から降りると黒江機を待った。
穏やかな天気でクルーズにはもってこいだが、今回の東シナ海展開は通常とは違う、まさに実戦を意識した展開となる。
金門島及び台湾海峡で起きた中国と台湾の軍事衝突は大きな波紋を残した。国連安保理ではアメリカを中心に、現在南シナ海で中国と領有権を巡って対立している国々が共同で対中裁定順守勧告、並びに対中制裁決議を発議したが、すでに南シナ海での仲裁裁定を拒絶して国際法秩序を破壊している中国は当然ながら拒否権を行使し、成立しなかった。
国連では中国を常任理事国の資格を喪失させるべきだとの発言も飛び交い、騒然となった。だが、それだけでただの話し合いでは中国の動きを止めることは出来ない。
中国の行動はエスカレートし、東シナ海では中国海軍の空母がこれ見よがしに軍事演習と称して戦闘機を台湾海峡方面に飛ばしている。日本はこれを牽制するために航空機搭載護衛艦の東シナ海への展開を継続させる決断をするに至った。
空護の飛行甲板に立ち、物思いに耽っていると背後からやってきた黒江が笠原の肩を叩いた。
「行くぞ」
笠原は頷き、ヘルメットのバイザーを下ろして黒江に続く。今回の展開任務は長くなりそうだった。
《かが》に展開したのは第103飛行隊だけではなかった。RF‐18FJ偵察機を装備する偵察航空隊隷下の第501飛行隊の分遣隊が加わっている。低視認のガンシップグレイに塗られたRF‐18FJは空護の格納庫内でも異質だ。主翼に描かれた同様にロービジの梟の部隊章が彼らの機体に似合っている。
《かが》に搭載できる一個飛行隊分プラスアルファギリギリまで積み込んだ実戦的な編成は自衛軍上層部の本気が垣間見えた。
「ピリピリしてんな」
すでに艦内の飛行隊指揮所にいた秋本が呟いた。三人はブリーフィングルームに入る。すでにパイロットたちが集まり始めていた。
「何かあったのか」
「海自の連中だよ。目の色が違う。普段はFTGに怒鳴られてたのに」
秋本の言葉には笠原も心当たりがあった。この艦に乗り込んでいる乗員の平均年齢は二十代前半で若者が大半を占めている。ベテランの海曹士官たちの怒鳴り声が響いていたのに、今ではそれが鳴りを潜め、むしろ若者たちも真剣に訓練に当たっていた。
「海自も実戦意識かな」
「だろうな」
「班長たちは?」
黒江が聞いた。
「今、501の人やエアボスなんかと話してる」
先にブリーフィングルームの席に座っていた瀬川が答えた。その隣には佐渡や園倉らがいる。そこへ加沢が入って来た。
「よし、ここにいる者たちは拳銃を受領しろ」
その言葉にぎょっとしたのは笠原だけではなかった。最近になってから取扱いに関する講習をよくされるなと思いきや空護に乗り込んだ途端に支給される。敵支配地域で飛ぶことを想定している?
そんな各々の疑問は片隅に追いやられ、粛々とことは進む。9mm拳銃とそれを収めるためのホルスターが机の上に並べられ、パイロット達はそれを次々に受け取って点検した。笠原が取った9mm拳銃はなかなか使い込まれた様子があり、あちこちからかき集めてきたのであろう、個体番号はどの銃もバラバラだ。中には陸自から管理替えになったのだろうか、刻印が消されて新しく刻印が刻まれた拳銃もあった。
「拳銃が役に立つ事態って……」
佐渡が銃を手にして呟く。笠原は9mm普通弾を九発しか込められない頼りない細さの弾倉を手に取り、溜息を吐く。
「尖閣に降りたらこれで山羊でも撃って生存自活しろってことじゃない?」
秋本が気楽に言うと苦笑が起こった。笠原は無言のまま、遊底を引いて薬室を確認するとスライド止めを解除して戻す。小気味のいい金属音が鳴った。その横で黒江もまた複雑な表情で手に持った拳銃を見つめていた。




