さっそく非常事態宣言
そんな大事なことを黙ってたのか。
貴生は由利香のバッグを取り上げようとした。
「だったらみんなで行かなきゃ、支度すぐしてさ」
「持病だから……たいしたことはないのよ、でも二日くらいは病院に誰かついていてやらなくちゃ」
言いながら、意外にも由利香は彼の出した手をよけてバッグを後ろにかくす。
「たまには、ワタシにも一人になる時間をちょうだい」
「だめだ、許さん」強く言ってみた。
由利香は哀しそうに微笑んでから、
「じゃあ、行ってくるから」
しかし足取りは軽く、去っていった。
ぱたん、彼の鼻先で玄関のドアが閉まる。
「あ、そういうコトじゃなくてさ」
はだしのまま、彼は玄関先に飛び出した。
許さん、じゃあない、そういう時こそ家族の支えだろ? 頼ってくれよ、と言いたかったはずだ。
閉まったドアの前で呆然と佇む。
いや、やはり一人で行ってよかったんだ。唇をかんで思い直す。
オレと子ども三人がついて行けば、結局また彼女は母親と子どもたちとにかかずりあうことになる。
傍にいれば、子どもだって頼りにしてしまうだろう。
やはりオレが家にいて、子どもらを守らねば。
奥の部屋から、きゃははははは、と笑いが響く。
赤ん坊だ。一人が笑い、もう一人もつられたように笑っている。
見に行くと、オムツを外された小僧がみごとな噴水を上げている。
おお、かなりの水量。思わず見とれてしまう貴生。
きれいな放物線を描いて、もう一人の服に、びしゃびしゃと当たってしぶきをあげている。
それが面白おかしいらしく、かけられた方が大笑いしていた。手脚をばたつかせてさらに笑っている。
「やめろぉ、ええと」