目覚めるとそこには
目が覚めると、何だか明るい気がした。
味噌汁の匂いがする。そうか、今日は休みだ。オレは。でも幼稚園は?
完全に目が開いた。しまった、まどかのべんとう。時計を見る。8時10分。大遅刻だ。
キッチンに駆けこんだ。
そこには脚を肩幅に開いた由利香が、コンロに向き合って立っていた。
足音に気づいたのか、くるりとふり返る。
「おはよう」いつもの声、いつもの顔。
「ご飯にする? それともパン? お味噌汁どうする?」
「あの」テレビのにはすでに支度の済んだまどかがちょこんと座っていた。
「おはよう、パパ」食事はとっくに済んだらしい。歯を磨いている。
「あのね、ママすごく朝早くおうちに帰ってきたんだよ、まどかはたまたま、目がさめちゃったんだけどね、ママ、ドロボウみたいに『ぬきあし、さしあし、しのびあし』って」
「始発で帰ってきちゃった」彼女は照れたように下を向いた。
「夜中に目が覚めて、急に気になって…もう三日目だし」
「お母さんは、だいじょうぶだったのか?」ようやく、声が出た。
「うん……」ちらっとまどかに目をやって、何か言いかけたがすぐに時間に気づき
「タイヘン、幼稚園に行かなくちゃ」
「あ、べんとう」椎名さん、あわてて冷蔵庫を開けようとする。
「もうできたよ」由利香がまどかのランチボックスを持ち上げた。
「タカさん、昨日まどかのお弁当作ったんだって?」
「あ、ああ」
「すごいね」感心しているのか、面白がっているのか。「やればできるんだね」
「最高傑作だったぞ」
奥の部屋で、マサが泣き出した。
「あ、マサ」椎名さんと由利香が同時に声に出して、お互いの顔を見合わせた。
「起こさなきゃ」由利香が部屋に入ろうとするのを優しくとどめて
「オレがみてるから、幼稚園行って来い」
「あらまあ」本心から、感動しているらしい。
「行ってきます」玄関を出る由利香の声が聞こえたのか、奥の泣き声が大きくなった。
「ままぁ」ハッキリそう言っている。
「オレじゃあ、不足ですかぁ?」
そう言いながらも、彼はマサをかかえ上げてぎゅっと抱きしめた。




