ジャズの流れる家
家の前まで来てから、ふと思いついてまどかに
「マドレーヌ半分、ご近所に分けてもいい?」
と聞いた。
まどかは元々あまり物欲はないのか、さすがにこの数量に恐れをなしたのかすぐに
「いいよ」と答える。
家から一回り小さめの袋をとってきて、マドレーヌを半分に分け、さらに八件ほど先になる組長宅に届けに行った。
タマガキ組長は、「いやいや、お気になさらずに」としきりに頭をかきながらも、
「うちもいただきものですが……」と差し出すと、けっこううれしそうに
「いいんですか?」と受け取ってくれた。
「これ、紅茶に合うんですよねえ」
家の中からジャズが流れ、奥から、やはり半白髪の上品な女性がのぞいて、にっこりと頭を下げた。奥さまらしい。
うちもいつかはあんなふうに落ち着いてジャズでも聴くのかな? 紅茶飲んでさ。
何となく、近所がいつもよりも暖かく感じられて、彼は子どもたちとのんびり、家に帰っていった。
特にトラブルもなく、夜はふけていった。
洗濯ものをたたみ、まどかにしまう場所をいちいち聞いてから(じぶんのぱんつくらい、じぶんでしまってよね、だと。由利香みたいな言い方だ)、ようやく片付き、今度は夕飯の片付けも済ませたあとでさっさと米もとぎ、炊飯器のスイッチを入れる。
それでも子どもらを寝かしつけ、居間に落ち着いた時にはすでに10時を回っていた。
コーヒーを淹れて、ジャズでも聴いてやろうか、しかし家にはそんなこじゃれたCDはないなあ。
それに夜ふかししていると、また小僧どもに起こされてしまうかもしれない。
寝られる時に寝よう、コーヒーをあきらめ、彼は布団に入った。
ものの一分もしないうちに、深い眠りの国に。ちょっと公園で遊び過ぎだったかも。




