なかなか、善人だった
帰りがけ、商店街を抜けて少し住宅地に入ったあたりで、まどかが立ち止まった。
「あ」毛むくじゃらの小犬を散歩させていたオバサンが、
「あら」こちらを振り返る。
「今朝はどうもご苦労さまでした」不燃物回収で一緒になったあの女性だった。
「ワンちゃん、かわいい」まどかが駆け寄る。
「さわっていいですか?」聞き方が可愛らしく、オバサンは破顔一笑。
「おねえちゃん、ワンちゃん好き?」
「だいすき~」
今日は一日、お子さんのお守りでしたの? 奥さまはまだおでかけ?何かと聞いてくるのがうっとうしいが、まどかが犬から離れないので、椎名さんは「ええ」とか「まあ」とか差し支えない程度に礼儀正しくかわしている。
「あ、そうだわ」急にオバサンは思いついたように
「今日ね、お菓子作り教室でマドレーヌ山ほど焼いたのよ、持って行って下さらない?」
返事をする前に「少し待っててちょうだいね」と、犬を丸抱えにして一ブロックほど走って戻っていった。
少しして、また走って戻って来る。
かなりでかいプラバッグにそれこそ売るほどカステラ菓子が詰まっていた。
「そんなに、いいんですか?」
押しつけられるように袋をもらう。お菓子の甘い香りが胸元から漂ってきた。
「いいのよ、まだうちにもあるし……ワタシ作るのは好きだけど、甘いもの苦手で…それに主人も甘いもの摂り過ぎないように、お医者さまから言われてるの」
「わーい、マドレーヌだあ」まどかはぴょんぴょんしている。そんな様子を、オバサンもとろけるような笑みで見守っている。
「赤ちゃんにもだいじょうぶだと思うわ、玉子や牛乳はあげてもだいじょうぶ?」
「はい、平気です」すでに二人とも菓子に興味しんしん。
なかなか、いい人じゃん。
椎名さんは「ありがとうございます。いただきます」と深々と頭を下げて家路についた。
ふり向いてみると、彼女はまだ名残惜しそうに椎名さん親子を見送っていた。




