荷づくりは済んでいた
「まあ何でもいいわ」
急に追及の手が緩んだ。しかし次に
「そう、あの時言ったよね、キミ」黄身ときたか、ではアナタは白身?
「『お詫びに今度何でも言う事聞くから』って」
「聞いたじゃん、こないださ」
「え? 何を」
「トリひき肉200グラム、急いでお願い、って」
「そのくらいはするんですが、普通のダンナでも」
「か~な~り、急いだんですけどねえ」
その言い方に、由利香がきっとなった。
「決めた」
仁王立ちになって、腰に手を当てたポーズ。
「このお休みのうち、三日間、タカさんに主夫してもらいます」
「えええっ?」
彼も焦って跳ね起きた。情けないことに声も裏返る。
「無理でしょう、ムリムリ。できない」
「できない、じゃあないの」
言い方は優しい、でも、かつての彼の上司より百倍もコワい。
「やるのよ、アナタはやらざるを得ない。リアルに主夫を体験して」
そう言い残し、さっさと部屋から出て行った。
マサ、だったかトシだったかどちらかの小僧のオムツは外れたままだ。
「おい待てよ」あわてて追いかける。「冗談だろ?」
「あのね……」
玄関近くにいた由利香はなんと言うことか、すでに荷造りの済んだ小ぶりのボストンバッグを下げている。
「ワタシ、実家に出かけてくるから」
「どういうことだよ」
由利香の目がわずかに弱気な感じになった。0コンマ2くらい。
「電話があってね、今朝……お母さん入院したの」