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完敗って気分

 それからしばらく、椎名さんはぐずるマサを揺すったりあやしたり、オムツをめくってみたり(きれいなもんだった)色々試してみた。が、マサのキゲンはなかなか直らない。

 指をずっとしゃぶっているので、もしや? と思い冷蔵庫からヨーグルトを出してきた。

『牧場の朝』という小さな三連カップの一つ。九ヶ月の乳幼児にふさわしいかどうかさっぱり分からないが、貪欲な目で追っているのでスプーンで口に運んでやる。

 マサは、スプーンをひったくって不器用ににぎり、がつがつとヨーグルトを食べ始めた。 やはり、ご飯が全然足りなかったんだ。

「ごめんな、マサ」謝りながらも、あまりの勢いにだんだん恐ろしくなってくる。

 しかも、半分以上は口から外にこぼしているし。

 そのうち、スプーンを突っ込みすぎてげえっとなる。そして今度は、火のついたように泣き出した。

「おいおいおいおい」おろおろしながらもタオルで口を拭いてやってから、また抱き上げる。握っているスプーンを無理やり取ろうとすると、手を振り回して抵抗。

「おい、あぶないぞ、こら」スプーンの先が椎名さんの目じりの縁を直撃。

「つっ」火花が散った。

 思わず手を離しそうになるが、何とかこらえて空いてる手で目を押さえる。血が出たかもしれない。目玉直撃でなくて本当によかった。

 マサはさらに泣きながら、先ほどまで胃に収めたはずのヨーグルトを、全部、吐きもどしてしまった。

 弱り目に祟り目。とりあえずマサをそっと下に降ろし(吐いた時にスプーンは離してくれた)、タオルをもう二本持って来て、またあちこち拭き掃除。

 どうにか着替えも済み、ヨーグルト拭きも済んでみると、マサはいつの間にか機嫌を直し、ニコニコと笑っている。

 安心して、汚れものを先に洗濯機に運び、戻ってみたらなんと!

 マサはテーブルにつかまり立ちして、次のヨーグルトのパックを自分で押しつぶすように開封、そのまま上から噴出した固まりをちゅうちゅうと吸っていた。

「おいしいか?」

 負けた。完敗。椎名さんは脇に座り込んで、マサの食事が終わるのをじっと待ち続けた。

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