相次ぐ衝撃と謎
夕飯。完全に頭から抜け落ちていた。どうしよう?
炊飯器はカラだった。野菜や果物もそのまま夕食になりそうなものはない。
ピザでも頼むか? いっそのこと、うな重の特上でも出前してもらう?
「あとさあ、明日のおべんとうは? なに入れてくれる?」
ベントウですと? ショックに次ぐショック。
「……考えときます」
とりあえず、夕食をどうにか考えなければ。何か助けはないか、ともう一度冷蔵庫の前に立つ。
そこで気づいたが、冷蔵庫のドアにいろんなメモが貼ってあった。
食い入るように、ひとつひとつを読む。
「くるみようちえん、今月のおしらせ」
本当だ、明日は卒園式の練習とかで、弁当持ちとある。
ちゃんと、由利香が丸で囲んでいた。
他に何か、恐るべき事実がないかあちこちの壁も見渡してみる。
カレンダーに細々と、書きこんである文字をたどる。
「明日……24日木曜……不燃物?当番?」日本語としては解るが、意味が不明。
「まどかお弁当、」それはもう分かった。「キリミン」これはさっぱり。
空しいのが、今日から矢印つきの横線が伸びていること。23日から土日を入れて五日間、
『貴・休み』と可愛い文字で書いてある。しかも『!』マークがついていた。
楽しみにしてくれてたんだろうな、胸が痛くなった。
それなのに、オレがあんまりダラダラしてたんで、堪忍袋の緒が切れたんだ。
それにしても徹底している。幼い子ども三人残して、ロクにメモも残さず、電話もかけてよこさず(時々、連絡がないか携帯を見ていたが空しいだけだった)、本当に、姿を消してしまったのだから。
彼女の性格上、想定外とは言えない。普段はこまめに色んなことに気が利くし、家事も育児もそつなくこなし、文句は言いながらも、忙しい彼の事を思ってか、家のコトはほとんど一人で片付けてくれていた。
それがいけなかったんだ。あまりにも、任せっきりだった。
一旦限界を越えたらどうなるか、今回がいい見本だろう。
こちらから由利香に連絡すればいいのだろうが、今さらできない。よくよく困ったら電話をしてみようと思ってはいるが、病院に行っているとなるといざという時携帯には出てくれないだろうし、実家の方はあのオヤジがいるだろうし。明るい人だが、どうも苦手だった。
それに、女房に逃げられました、と素直に言いだせない。
やれるだけやるしかない。あと二日。何と言ってもここがオレの城なんだからな。
見上げた先に、カップめん発見。
「まどか、今夜はラーメンね」
「わぁい!」とりあえず、彼は湯を沸かし始めた。