フォローアップ・プリーズ
少し温すぎかな? それに、牛乳をそのままやってもいいのかが分からない。
「ねえまどか」ビデオの中のおねえさんをじっと見守っている娘に、おそるおそる聞いてみた。
「トシくんとマアくん、牛乳のむかなあ?」
「まだミルクだよ」あっさり言われてしまった。
ミルクなんてどこにあるんだ、きょろきょろしてようやく缶をみつけた。
作り方が缶の横に書いてあった。「なになに…スプーンすり切り一杯につき……」
字が細かい。世の中の子育てニンゲンたちは、こんな細かい字を読んでいるのか?
いや、今さらミルク作るのにこんな説明書き読んでるのは、オレくらいのものだろう。
哺乳瓶に入れた牛乳を両方ともいったんカップに移し替え、指示通りに慎重な手つきでミルクを作り始める。
フォローアップミルク、と書いてあるが本当にこれで、いいんだろうな。
ミルクにも色んな種類があるのだろうか? ハングアップミルク、ギブアップミルク……
今オレに必要な栄養は何だろう?フォローアップビールだろうな。
ぼんやりしすぎて、ポットの湯を入れる時にあふれそうになった。「あつつつ」
お湯が多すぎか? 何だか下の方に固まっている。そっともう一本の方に湯を移し替え、上を手のひらで押さえながらシェイクしてみる。
「あちちちち」我慢して混ぜる。ようやく混ざった。でも二本を比べると全然濃さが違う。
あっちからこっちへ、こっちからあっちへと移し替え、ようやく二つとも均等になった。
水道でビンをよく冷やしてから、見よう見まねで自分の肘の内側に一、二滴ミルクを垂らして温度を確認。いいかな、このくらいで。
トシとマサは、まどかと一緒になってビデオを見ていた。気がつくとすでに夕方。
トシはともかく、マサはかなり腹が減っているだろう。
「マアくん、おいで」
マサがふり向いた。手に持っているビンをみて、「あきゃ」とひと声。
こちらに迫ってくる。トシも気づいて追いかけてきた。
「待てよ、トシくんはあとで」
「あ、まどかがあげるよぉ」助かった。まどかにビンを一本手渡して、自分はマサを抱き上げた。