Rhyme
ほとんどフィクションです。
フェンス沿いに等間隔に並んだ銀色の小さな鐘たちは、始業を知らせるためか、それとも時をうがつためか。何であるのか分からないままに、ただ制服の身によく染み込んでくるチャイムの音もそっちのけで、冷たい静寂のうちに佇んでいた。人の頭くらいのその鐘が高く澄んだ音を響かせていたのを、いつかどこかで聴いたことがあるように思う。それでも何故鳴ったのか分からない。綺麗だとは思ったが。
鐘を囲むようにささやかな茂みが、片側に隣接した建物に沿って張られたフェンスと堀伝いに植えられて深い緑に色づいている。体育の時ボールがそこへ飛んでいったら面倒なのだ。だが音のない校舎を歩いて、それが不意に優しい。
今、横目に通り過ぎる校庭にも、あるのは照り返す光の塊だけだ。いかにも都会の学校といった手狭な校庭は、朝礼の度に学生たちの人いきれで溢れかえる。柱と柱の間に落ちた光を辿るようにして進む。通路の右手はカフェテリアだが、やはりひとけはない。
肩からすべり落ちたマフラーをそっと掴んだ。ちょっと迷ってから、巻き直すのをやめてゆっくりと外す。蛍光灯に浮かび上がる両壁がやけに白っぽかった。
「ま~たさぁや、ぼーとして」
振り返ると結子の細く緩んだ目が見下ろしていた。
日に透けると柔らかい赤茶に変わる髪を弄びながら、櫻井結子は少し眉をしかめた。この髪に関してはよく教師たちの標的にされる。確か申請はしていたはずだ。
「大丈夫だよ」
「またまた。あ、そうかあ!」
何を思ったのか、結子の顔がみるみるうちに輝きを帯び出す。
「さぁや、ひょっとして好きな人いるんじゃないのー?!いやん恋する乙女!」
「違うって、そんなんじゃないってば」
すぐに否定したものの、さりげなくクレッシェンドがかかった声を聞きとめ、斐と里沙が駆けつけてきた。どうしてこの手の話題には皆早いのか、明はよく分からなかった。
「え、なになに?!さやに想い人だって?」
「こんな時期に彼氏なんか作んなよーこんちくしょお!抜け駆けじゃー」
「さやって、大人しくて奥手って感じなのに、結構やるじゃないの」
黙って聴いていればすでに彼氏がいることになっている。
「そうやってすぐ否定するところがねー。余計怪しいっての」
「ね、ちょっと廊下出なさい。そして私たちに包み隠さず説明しなさい。えっと、600字以内で」
「原稿用紙2枚分~」
「ううん、それじゃ足りん…原稿用紙5枚で、熱き想いをぶつけろ!」
「ていうか作文ですか」
おしまい。というように机を太鼓代わりに叩くと、うまい具合に始業のチャイムが鳴る。あーあと肩を竦める友人たち。
「ホントさー、さぁやって本心明かさないよね」
「さやの真相やいかに!こうご期待」
「あとで廊下ね。じっくり話聞いたげるからさ」
「だからー。話も何も、そんなの最初からないの」
友人たちは笑って明の背中を叩くと席に戻っていく。
明は教科書とノートを取り出すと、そのまま窓の外に目をやった。
しかしながら、友人たちの戯れが全く的を外れているとはあながち言い切れないのだ。明はよくぼうとする。自分でも自覚はしていた。
知らぬうちに視線がさ迷い、黒板や教卓の、その奥を徐々に見透かしていくような気持ちになる。窓に向かえば、それこそ倦むこともなく吸い込まれていく。
端から見たら、黄昏れていると思うだろう。明は教師が入ってくるまで彼方を見つめ続けていた。
平坦な声がこだますると、時計の針は歩みを止め、黒板は潤んだようにぼやける。ノートから踊り出すのは、黒板の丸写しではなく意味のない落書きたちだけだった。
明で、さやと読む。なかなか紛らわしくて、めいとかあきらと呼んでくる人もいる。結子だけがさぁやと呼ぶ。
明はゆるゆると坂を下っていく。学校へ着くまでの百メートル、たいした距離でも傾斜でもないが、いかんせん若者の朝には辛い。肩からかけた茶色の鞄から、規則正しく軽やかな音がしている。今は蹴るような足だ。
声がして、結子が駆け寄ってくる。二人は並んで歩き出した。今日の授業、クラスメート、テレビ…。
「暑いねー」
ほてった顔を手で扇ぎながら結子は喋り続ける。
「そいえば模試の結果どうだった?」
「あんまり…ていうより、前より少し落ちたかも。日本史とか」
「えーそうなの?やばいじゃん。これからみっちりしごかれるよ」
指で示したのは後ろではなく、今向かっている方だ。
「とか言って、私もそんなにいいわけじゃないけど」
明と結子は同じ予備校に通っている。二駅ほど先の、そこそこの大手だった。今日はそっち何?と聞く結子に、英文法と言う。今日の講義は別々だ。
「そいえばさ…」
結子が不意に声を潜めた。表情までどことなく曇っている。
「明、最近よくうわの空だけど、大丈夫なの?もしかして成績のことで悩んでるの?」
「もう、私が何も知らないと思ってるの?何年友人やってるんですか。今日だってさー。気づくと心ここにあらずなんだもん。ホントは恋愛とかじゃないんでしょ?」
驚いた顔をすると、結子は少しむくれた。
「あれはちょっとした景気づけ。悩み事があるなら、何でも話してよ。いつだって相談に乗るから」
「ありがとう。でも、たぶん大丈夫」
明は柔らかく笑ってみせた。
城島明は推薦入試でこの高校に入学した。偏差値は程々といったところだが、私立の女子高なのでそれなりに校則は厳しく、教育もしっかりとしていた。
結子とはかれこれ9年の付き合いになる。小4で彼女が転校してきてから、実質的にずっと一緒だった。明の後ろに隠れるようにして過ごしてきた髪が赤っぽい女の子は、中学生になってからはバレー部に入って一皮剥けたようだった。赤い髪を嫌がりもせず、激しい運動にも耐えうるよう短く切った。それに赤の髪にやや色素の薄い茶の瞳は、上手い具合に合っていた。隠すことをやめてさらけ出すことで、彼女は外人のような雰囲気の少女となった。
結子が明と同じ高校に進学したのは、バレーがそこそこ強いのと明が選んだから、ということらしい。明るく少し気が強く、コンプレックスがあったからこそ人に示せる思いやりを、明は温かく感じていた。それは今も変わらない。
通路の前で別れ、彼女はもう一段階段を上っていく。明はさりげなく鞄の中身を確認してから、今日の講義の教室に向かう。予備校には2年の時から通っている。その後に結子が通い始めた。なんでも明の後から続くようだ、彼女は。そう思うと少し可笑しかった。ただ学力の方は殆ど差がない。明が文系で結子は理系という違いだけだった。とはいえ文系と理系ではそもそも比べる由もない。
ああ、そうだ。彼女は英語が得意だ。
容姿がどことなくそれっぽいからといって、英語が話せるという話では勿論ない。高校生になってからは彼女の英語の成績は伸びてきていると思う。模試の日本史のことを唐突に思い出し、明はため息をついた。予備校の講師たちは皆ほぼスパルタだ。特に日本史の先生は、恐い。にこやかそうで、実は笑ってない感じがする。
それに、落ちた教科は日本史だけではない。
ぼうとしてたせいで成績が悪くなったのなら、その原因を改善しなければなるまい。でないといくら勉強しても殆どが水の泡に終わる。
しかし夏の陽射しはただもう存在するだけで生気を奪っていく心持ちがする。休憩になると女子たちは足を広げ、ここぞとばかりにスカートの下から下敷きで風を送り込んでいる。机に突っ伏し、両腕に頭を預けた。肩までの平凡な黒髪が流れて散らばる。
「あら?寝てるのさぁや」
結子の声が聞こえたが、明はもう“寝ている”
教室のさざめきから一歩遠のくと、なんだか海藻になった感じがする。緩やかな海に、気持ち良くこの身をそよがせている。否応なくその空間にいる自分が在る。きっと授業後の10分間の意味が、全く違う人もいるだろう。だが明はその束の間の散漫とした雰囲気が好きなのだった。いつまでも、あずけていたいと思う。
結子の細い指が明の髪を撫でる。真っ直ぐでさらさらの髪が羨ましいと、結子はよくぼやいていた。結子の髪は赤いうえに少し縮れている。でもふわと絡む猫毛が、とても結子らしいと明は思うのだ。
ゆーちゃん。明は心の中で呟く。私、なんか頑張っても…。
チャイムが鳴る。優しい指が離れていく。同時に明は顔を上げた。またいつもの時が回る。ただ、この時は徐々にリズムを変え出す。1、2年とは違う。日を見送るほどに鼓動は早くなる。満ちていた汐が引いていくように。
あれだけたくさんある夏休みも瞬く間に削られていき、予備校の夏期講習と学校の補習とで埋め尽くされた手帳を肌身離さず持ち歩く。予定を入れていく時は全てをこなしていくつもりで気合もひとしおなのだが、いざ始まると疲労感だけが積もっていく感覚がある。まるで蜂が花々を飛び回るように科目から科目へと進んでいくと、本当に自分がそれらを理解して勉強しているのか疑いたくなってくる。肝心の一番奥深く、花の蜜を取り損なったまま何かに急かされるように行き過ぎているのではないか。丸暗記させられた日本の歴代総理大臣も、これでは覚えたと錯覚しているようなものだ。次の週には欠けて抜けかかっている。
こんな知識、社会出たら必要ないよね。なんてあちこちでよく聴く会話だったが、暑さで意識もぼんやりとしたままで、寝不足の頭に叩き込まれていくその知識とやらが、ほんの先の学生たちの未来を左右するかと思うと腹立たしいのか可笑しいのかよく分からなかった。
絶対受かる!目指せ現役合格!
黒板の上に貼られた煽り文句を半眼で眺めたまま、明は身動ぎもしない。古典が終わり、次は英語の長文読解だった。その次は英単語の小テスト。結子とは今日は被る科目がない。
早くもこの教室を使う学生たちが場所取りを始めている。気がつくと明しかいなかった。机のものを片付け、次の教室へ移動せねばならない。唇を結ぶ。あと6時間。
学校と予備校との往復に日々を費やし、夏は半ばも終わった。明と結子は予備校に向かっている。学校の補習があったから講座は入れてないが、中途半端に残った夕方の一時を薄闇に変えるまで自習室に籠ろうというのだった。
他愛ない話…とはいえ時期が時期なだけに自然、今の現状を反映したものに変わっていく。
「でもさ」
結子は頬に両手を当てて言った。
「最近、一日五食くらいになってきてんだけど。すっごいお腹空くんだよね。塾帰りに何か買って食べて。で、夕食でしょ。ひどい時は夜食も食べちゃうし。超やばいー。お菓子もあったら手出しちゃう。ホントやば」
それでも中高のバレー部で培われた引き締まった体はすらりと伸び、明より頭一つ分高かった。みなぎる太陽の如き結子の横で、明は昨日夕食を残したことを思い出した。夕食だけでなく、明は食が細くなってきていることを実感せずにはいられなかった。心身共に大いに消耗していく高3の夏は、体力がないととても乗り越えられない。
「でもいいじゃん。羨ましい。ゆーちゃん、全然太らないんだもの。私なんか、食べたらすぐどーんっていっちゃうから」
「そんなことないって。お腹の辺りとか、かなりやばいから」
そう言いながら、結子はじっと明を見つめている。
「あーあ。早く受験終わんないかな。もうやだ。このままじゃ私の体がもたん」
頬をつまみ、結子は嘆く。
「テレビとか自粛しなきゃなんないから辛いよね。しかも深夜テレビなんて…」
「ずいぶん余裕なんだね」
はっと結子の目が見開く。今なんて言ったの。そう囁いている。本当に聞こえなかったようだ。明は俯いた。
結子は色々愚痴や不満をこぼすが、勉強のことで悩みがある感じではなかった。この前の予備校のテストで、成績優秀者の一覧に櫻井結子とあった。特に英語がずば抜けていた。
言葉届かずとも、その内に含まれた雰囲気が二人の間を漂い、口は閉じられた。あの名前が目に飛び込んだ時、胸にせりあがってきた重苦しさが今また蘇る。
「さぁや、顔青くない?大丈夫?もっと気楽にいかないと潰れちゃうよ」
「…」
もう大丈夫なんて言えない。たとえ社交辞令であっても。
「…ゆーちゃんはさ」
代わりに口元に表れたのは親友には絶対に見せたくない、自分でも嫌になる笑みだった。でも隠すことができないのだ。
「そんな悩まなくても前へ進めてるから。すごいよね、本当。自分で道を切り開こうとしてるっていうか。もうばりばりって感じで。私なんて、全然だめなんだもん。前へ進むどころか後退しちゃってるみたい。馬鹿だから、もう何やってもだめっぽい。ゆーちゃんと違って」
もはや歯止めが利かない。
私は。私は前に進みたくなんかないんだ。そう続けそうになった文句を辛うじて押し止めた。
「わ、私だって…苦しいんだよ!」
刺すような沈黙の後、当たり前だが聞こえてきたのは友の失望と怒りの声だった。
「軽く言わないで。私だって、色々悩んでるんだよ。思いきり叫びたくなって、でも我慢したりしてるんだよ。何よ、八つ当たりみたいに。私は心配して言ってあげてたのに」
振り返って明を睨む顔は赤く上気している。
「私、努力してるんだかしてないんだか分かんない中途半端な人とか、いつまでもねちねち引きずってる人って、大嫌いなのよね」
明の歩みは完全に止まった。結子はその先を、簡単には追いつけないくらいの早足で突き進んでいく。固く強張った肩が明を拒絶している。自分の一言が無神経だったことにすぐに気づいていたはずだ。だが、あれは、大嫌いという言葉は、あまりに冷たすぎやしないか。小中高と続いた絆をいとも簡単に断ち切って、その残骸を目の前でつきつけられたようだ。
暑いから、暑かったから。きっといらいらして。受験のせいで。明の中で言い訳のような理由がとりとめなく浮かんでは消えていく。明はもう足を踏み出す気力を失っていた。
今更ながら、自分の名前に皮肉を覚える。
夏期講習最後のテストが終わったと同時に、高3の夏休みは過ぎ去っていった。その結果が集約された成績表と相対している。いびつな五角形と数字の列に何の感慨も湧かない。明はレベル58になった。明の無機質な目がさ迷う。現代文は5上がった。古文は3、漢文は変化なし、日本史は-6、英語は…。テストと言う名のボスと戦い、明はHP89を失った。残り11で赤く点滅。明は375円手に入れた(今日の明の所持金)
結子の名がまた燦然と輝いている。この夏、最も成績が上がった人たちは。…櫻井結子。講師が讃える勇者たち。彼らは名誉と自信を手に入れてレベルアップし、最強のラスボスに挑戦するための資格を有した。
夏休みが終わると、あとは文化祭だけが残されたイベントだ。何かをぶつけるように、3年生たちは準備に取りかかる。出し物や屋台の内装、クラス皆で着るTシャツ。遅くまでねばる生徒たちは意外と多い。明と結子は今だ噛み合っていない。あんな感情のすれ違いだけで、9年間の友情に終止符を打ちたくない。喉元まで溢れる言葉は、しかし意地と不安とでもみ潰されてしまう。たまらなくて眉をしかめる。結子もたった今、そんな表情をしているのでは。そう思ってちらと一瞥しても、決まって結子は平然と静まり返っている。そしてまた自分も素知らぬ顔をしているのだ。クラスメートの誰一人として、二人の変化に気づかなかった。みんな案外、自分以外のものに関心がない。誰にも知られたくないはずなのに、何も知らない人たちに微かな苛立ちを感じ、理不尽な思いで明は胸がよじれた。今はそんな時ではない。文化祭が終われば、3年生たちは一足早い冬を迎える。
大嫌い。全くその通りだった。
斜陽が教室を染め上げる。
あまり好きではないはずの机や椅子も、粉っぽい黒板も、額に収まった校訓も、温かな調和に包まれて懐かしく、とても懐かしく。今ここで、自分はまだ学生なのに、哀しさを噛み締めている。深々と呼吸し、誰もいない教室を心で抱く。満ちる思いと何かを失ったような感覚とが明に触れた。遠くで後輩たちのかけ声が聞こえてくる。茜色は薄い闇を漂わせて、沈みつつある教室をひとひらの優しさに変えている。
軽やかな足音が近づいていく。扉は開いていたので、息を飲む音だけが聞こえた。
結子はすぐに通り過ぎると、机からノートを取り出した。脇目もふらずに出て行こうとして、結子は立ち止まった。
「…ねえ」
結子と明が互いの瞳を捉えた途端、いつの間にか張り詰めていた空気はふっと夕陽に溶けていったのだった。
言うべき言葉も伝えるべき心も、探す必要はなかった。
「私ね」
結子は机に座り、明を見下ろした。
「将来、海外に行きたいんだ。外資系とか、とにかく海外と相手する仕事がしたい。だからそういう大学を狙うつもり。ね。実は私、英語はそれほど良くなかったんだよ。意外でしょ」
綻んだ跡を完璧に修復したとしても、どことなく違和感があるものなのだろうか。それとも落ちる日が見せる、単なる郷愁なのだろうか。明ははっきりと、結子の姿を認めた。成績優秀な生徒でも後輩に慕われる先輩でも、そして明の親友でもなく、ただ櫻井結子だった。
「ゆーちゃんなら絶対なれるよ」
それは心からの確信と激励だった。結子が静かに微笑む。その笑顔も、影に落ちていく。暗くなるから、もう帰ろ。二人は教室を後にする。いつの間にか部活の喧騒は届かなくなっていた。
泡沫は手からこぼれ落ち、掴むことは二度とできない。この身を抜けていく風も、耳に響く音も、笑いさざめく雰囲気も、辛く張り詰めた空気も。涙も切なさも別れも。夜が来ると肌寒くなる季節になった。
明はひとけない校舎を歩く。冬休みを迎えている生徒たちはもちろん、部活の声すらしない。窓の向こうの空はいつの間にか濁った雲に覆われて、きんと冷たく突き返してくる。かじかんだ手を何度か動かし、唯一明かりが付いているところであろう職員室の前までやってくる。受験も終焉の時期に入ってから、やっとやりたいことを発見したなどと、ずいぶんと厄介な生徒だ。予備校も高校生限定だったから、卒業後も世話になるわけにはいかない。浪人は大変だ、それは分かっている。しかしなお進んでもいいと思える道を見つけた。人の心を辿る学問がしてみたい。初めて前へ進むことを厭わなくなったのだ。あれほど耳障りに聞こえた、脅迫のような周囲の流れは明にも自然と伝わって、しかし明自身の歩みで進もうとしていた。
用事を済ませ、確かめるような足取りで踵を返し、最後に背にした校舎を振り返る。重い空に校舎はぽつねんとあった。結子。私たちはずっと親友同士だよね。鞄にぶら下げている、結子とお揃いのキーホルダーを明は無意識に掴んでいた。
きっと、永遠は一瞬の中に存在するのだ。