戦争帰りの英雄さまが、おれがここまで来れたのはとお前の冷やしタオルのおかげだと言ってくる
三国志の時代の【魏】の武将徐晃の娘に転生したヒロインのお話です。
私の前世の名前は林めぐみ。ごくごく平凡な家庭のJKだった。部活動はチアガール。先日先輩の引退とともにチアリーダーに昇格を果たした。なぜ私がって思ったが、みんながそろってお願いするもんだから仕方がない。
部室でめぐみはアホだけど可愛いから略してアホ可愛いから、もうリーダーにしてみんなで愛でちゃおうとかみんながコソコソ言っていたのを私は知っている。よ~しあいつら許さんかんなって突撃を計画していたときに、私は転生してしまったらしい。
何でそんな時って思う。でも前後の記憶がかなり飛んでいてなにも思い出せない。まあ考えたって仕方がないので、今日も私は肉まんを頬張る。
「お嬢様そんなに毎日肉まんを頬張ってますとお太りになられてしまいますわよ。」
「あと1口だけ!あと1口だけだから!ん~美味しーー!」
だ、だって!本場の肉まんジューシーですっごい美味しいしー!チャイナドレスだからお腹まわり気にならないしー!そう…ここはどうやら昔の中国らしい。
なんかこう、三国で争っている時代の【魏】って国の将軍の娘に私は転生したのだ。前世の記憶を完全に思い出したのはここ数年前だ。もう流石に中華料理飽きてきた私はごはんっていうか日本食が食べたい。
大丈夫。チアガール時代プロポーション管理であらゆるスポーツ栄養学を独学してきた私が、肉まんごときに屈するわけもなく!? 今でもチアガールにスカウトされてもおかしくないほどの体格は保っている。
「も、もう食べたらダメですからね!」
キッと蒸しがまをホールドながら見てくる残念美人が私の世話がかり兼幼なじみのリリファである。
「もう食べないわよ…。」
「…。」
ちょっとは信用してほしいのだけれど。流石の私もちょっとは傷つくわよ!?
「本当の本当だから。」
「そこまで、おっしゃるのでしたら。」
ふう…と役目を果たしきった彼女は台所に蒸しがまを戻しに行った。
リリファってたまに残念と思いながら私は練習場へと向かう。ここの路地をまっすぐに行くと年中冷たい地下水が手に入る。私はたくさん持ってきたタオルを水で冷やし万力で絞りきる。
そして流れ作業のように完成するのがこの冷やしタオルボックスである。我ながらチアガールの才能が恐ろしい。ふぅ...。あとはお父様の部下たちにお届けして訓練の疲れを労ってあげるのである。
まあここは私に任せろってことよ。毎日訓練所に通っているとなぜか訓練生が信者化してしまっている気もするけど、私のファンなら仕方がない。チアリーダーたるものマドンナ的ポジションなるのは良くある話である。
それに私はお疲れ様って言うのが好きだし、彼らも悪い気がしてないのだ。これぞ全員大勝利ってやつ。
「差し入れなにかほしいものはあるかしら。」
「何でももらえたらありがたいですよ!お嬢様はもうお小塚い自分のために使って下さい。頼みますから。」
そうは言ってもねと私は思う。お洋服は親バカなお父様が毎月下さるし。このお小塚いは部費だと思っている。部員のためになるだけ使いたいってわけ。
「いいの。私が好きでやってるんだし。それよりあなたたち。将来この国を守ってもらうんだから、そのための投資よ。なにせお父様は今日も戦場だし他人事じゃないってのもあるんだけど。ちゃんと栄養あるもの食べて強くなりなさいよね。私が応援してるんだから負けさせやしないわ。」
「うう...お嬢様。おれたちのことをそんなに気にかけてくれているなんて。いつものお願いします…」
ホイホイホイッとみんなにハイタッチしてあげた。なぜか号泣している人には背中ぽんぽんまでしてあげるのだ。幼い頃から一緒だった私たちは姉弟のような関係である。私の方が年下だから妹ポジだけれど。
そんなのどかな日々を送っていたある日。突然の父の訃報が届いた。燭の諸葛亮孔明との交戦中、見方の裏切りに合い裏切り者を倒す先鋒を任されたが、運悪く討ち死にされたのだ。
お父様。親バカ過ぎるお父様はその腕1つで家を起こして能力至上主義のこの【魏】で大将軍まで登りつめた武勇に優れた素晴らしい人でした。でも私にとっては親バカで愛妻家過ぎるけど、たった1人の大切なお父様でしかなかったのです。
それなのに、お別れの言葉1つさえお伝えできずにお父様は云ってしまわれた。
「お嬢様。」
崩れ落ちるように泣き出した私にそっと優しく寄り添って一緒に涙してくれていたリリファ、彼女の目からも大粒の涙がこぼれ落ちている。リリファの胸で私は夜を泣きあかした。母もショックのあまり床に伏してしまっていた。
戦争の最中なので葬儀をあげることさえ許されなかった。屋敷には悲しさと静寂がまるで霧のように立ち込めている。誰に言われるでもなかっが流石の私にも分かる、父の腕1つで成り上がった将軍家が没落するのは父がいなくなった今ではもう時間の問題なのだと。
それから1週間ほど普段能天気な私も床に伏してしまっていた。訓練所の子たちが心配し見まいに来てくれるも上の空だったあたし。そのたった数分の出来事を私は後程後悔することになる。全く人生とはふとしたことがきっかけになってしまうものらしい。
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「お嬢様、私の声が聞こえてますか。」
私はなにを聞かされているのだろう。今魏の武将でもっとも期待されている次世代の大将軍だと噂されている人物が今目の前にいるのだ。
「ええとつまり、あなたが父の敵を討ってくださったと言うことですわね。」
コクりと頷く彼。マジか。てっきり同姓同名のそっくりさんだと思っていたのにまさかの本人だったなんて。
「心からの感謝を。英雄さま。」
今までは屋敷のお嬢様と訓練生という立場でそれなりの扱いを受けていたが、私にはもう後ろだてが誰もいないのだ。出世した彼にはへりくだる態度をしなければ。なにせこの時代の女性の扱いは酷いのだ。纏足なんて文化もあるし(足を矯正して小さくする。)
訓練生のみんなはおおらかで、こんな自由奔放な私にも分け隔てなく優しく接してくれていたのは環境に恵まれていたからに他ならない。
黙って頭を垂れた私の手をとって立たせた彼。いったい何事だろうかと驚いて見つめてしまった。私的にはおい兄貴なにすんねん的な感じである。
「あなたにそんなしおらしい態度は似合わないですね。」
「だって今までとは同じ関係ではいられないじゃない。」
そうでもないですと彼は言う。あなたの身請けを陛下に願ってから、あなたへの思いが溢れ出しておりと彼のなが~い話が始まってしまった。
ちょっと待ていとあたしは思った。おっといつまでもお嬢様とお呼びするのは頂けませんね。おれたちはもう夫婦なのですから。え?夫婦?
「とにかくおれがここまで来れたのはお前の冷やしタオルのおかげだ。」
ごめんね途中から全然話頭に入って来なかったから、なんか気がついたら彼おれ様キャラになってるし。てかおれ様キャラなの意外なんですけど!?
最後のセリフだけ記憶に残ってしまいあたしは困惑してしまう。
「ええと。つまりあたしは周礼さまの妻になったと。」
「そうだ。」
そうだった!この時代に私の意思など関係なかった。どこぞの男に望まれれば嫁に出される運命。
「そんなにその…訓練の応援してもらうのが嬉しかったのですか?」
「もちろんだ。初めてあったときからお前に恋をしていた。」
へえー。そうへぇー。でも早まるなと彼に言いたい。きっとあたしより彼好みの女性がこの世にはいるに違いない。
「おれは本気だよ。」
待て待て待て顔が近い!兄弟だと思ってたから心の準備とか!
「大将軍の妻に私はふさわしいとは思えませんね。」
「ふふっ。天下の美女よりお前を望んだというのにか。」
あそっかと何か腑に落ちた気がした。天下の皇帝から下賜される皇女たち。良くある話である。
「全く。せっかくの一世一代のチャンスを逃しましたね。周礼さま。」
「そうでもないさ。目の前にお前がいるだろう。」
ちょっとこっち見ないでほしい。だっていくらあたしだって彼からの熱い視線に流石に気付いている。
外堀を埋められてしまったが、不思議と嫌な気はしなかった。どこぞの見知らぬ男に嫁がされるくらいならまだ信頼できる彼と一緒の方が幸せになれるだろう。なぜか私に恋をする奇特な方だし。
「くっ殺すなら殺せ。(ちらりと腰に刺さっている剣を見る)やっぱ殺さないで痛いのは嫌。だが、身体は好きにできても心まで好きにできると思わないことね!」
まずい…練習しないでアドリブで言ったので大根役者過ぎてしまった!!
「それなんて遊び?」
「これはねえ、くっころ騎士っていってえ…」
今日昼下がり、なんかこういう関係が長年続きそうだなと確信してしまったあたしであった。
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