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解散

【前回のお話】


 肇の脳移植手術は無事成功した。移植前の肇の遺体は生命ラボにある溶融装置によって処分されてしまうことになった……そして蓮のデュープがじゅうぶんに育った半年後に肇は目覚め、蓮はデュープと入れ替えられ、蓮のデュープの葬儀が行なわれる。

 山形研究員が語るプロジェクトDの物語は肇を驚愕させた。またデュープにおける重要な技術である成長促進がまだ未成熟な技術であって、細胞が安定せず細胞崩壊が起こる危険性もあると知って肇は不安に思う。トイレに行くと言って席を離れた山形は、二人組に襲われ拉致されてしまう。肇と高木はそれに気づかず、不審に思う。山形は、鈴木秘書とその手下の人間に拉致され、正憲の河口湖にある別荘の地下へと連れていかれた。

 自分がデュープであることを知って混乱する肇だったが、高木の説得により落ち着きを取り戻し、まだたくさんのことを調べなければならないことに気づく。肇は父正憲にデュープについて問いただすと、兄吟が骨髄性白血病だったことから、救世主ベビーとして自分が生まれたこと、そのときの代理母が当時正憲の秘書をしていた肇の母親木村典子だったこと、アメリカの医療チームとの橋渡しをしたのが生命ラボの田所所長だったことを知った。

 警視庁の神田警察署は神田税務署の隣にあり、四車線の一方通行という珍しい大きな通りに面している。その通りは神田警察署通りという。その神田警察署の署長室では署長がデスクを前にして椅子に座っていた。署長のデスクの前には岩田と宮崎という二人の刑事と刑事課長が苦々しい顔をしていた。

「どういうことですか? 捜査を打ち切るって」

 一番不満顔をしていたのは岩田だ。

「いや、怪しいことはなかったんだろう?」

 どこの署でも同じだが、署長はただただ自分が署長の椅子に座っている間、大きな事件なく過ぎ去ることだけを願っている。この署ではそれが顕著だった。

「それを調べているんじゃないですか。不審な点ばかりです」

 若い宮崎刑事はもっとも不満だったが、顔には出せなかった。

「指紋の件か? あれはたまたま封筒に入れるとき手袋でもしていたんだろう」

「今回の防犯カメラの件はどうですか?」

 宮崎刑事が珍しく食い下がった。

「なんかの手違いで別の日の映像を送って寄越したんだろう」

 署長はなだめるのに必死だった。宮崎刑事が思わず口走った。

「そんなバカな! もしかして圧力ですか?」

「何を馬鹿なことを」

 そういう署長の顔をうかがいながら刑事課長が言った。

「そうなんですね。そりゃあ天下の帝都グループだ、政治家だろうが官僚だろうがいくらでもコネはあるんでしょうが」

 ついに署長が持っていた書類をデスクに叩きつけながらわめいた。

「違うって言っているだろう。なんにしろ解散だ」


※    ※    ※


 その居酒屋は岩田と宮崎の二人の刑事の行きつけだった。警察署に近いからというのもあったが、とにかく安いのがありがたかった。普段はカウンターでやって、若い宮崎がぼやくとベテランの岩田が宥めることが多かったが、この日は珍しく岩田が個室を予約していた。個室を予約する前に岩田がもう一人だれかに電話していたのが宮崎には気になっていた。その宮崎が突き出しで出された小アジの南蛮漬けをつまみながら愚痴る。

「急に捜査中止だなんて、まったくやってられないすね」

「そうだな。どこから圧力かかったんだ?」

「相手が帝都グループじゃあどうしようもないですけどね。警視総監ですかね?」

「かもな」

 冗談で警視総監の名を出した宮崎は思わず、小アジを落としそうになった。

「マジすか? 警視総監も動かせるんすか?」

と言ってもいまの警視総監がだれか、どんな顔をしているかすら宮崎には怪しかった。

「ガイシャの御手洗吟の叔父にあたる御手洗憲次ってのがいるだろう」

 岩田がそう言うと宮崎は病院へ親族を訪ねにいったときのことを思い出した。ビニール袋に入った封筒を見て自慢げにしゃべっていた男がいた。

「ああ、封筒を受け取りに行ったときにしゃしゃり出てきたオヤジですね」

「あの御手洗憲次が経営している帝都セキュリティは、警察OBのいい天下り先になっているんだ。その線も十分考えられる。政治家の線の方が強いだろうけどな」

 個室のドアがノックされた。岩田刑事がドアを開けるとショルダーバッグを持った男が立っていた。男は四十前後で、小さい口ひげを生やしていた。

「おう、来たか。入れ」

 岩田が招き入れた。顔見知りのようだ。

「ガンさん、だれすか?」

 宮崎が岩田に訪ねると男はポケットから名刺入れを出すと、中から名刺を取り出し、宮崎に差し出した。

「週刊『スクープ』の記者をしています高木と言います」


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