大胆
「それと以前肇さんにPCからメールを送ったとき届かなかったことがありましたね」
「覚えています。あのときたしか高木さんは監視されているんじゃないかっておっしゃってましたね」
あのときの会話を思い出しながらか、高木が言った。
「ええ。あのときはサーバー側で監視し、場合によってはメールを駆除するなどの措置をとっているのかと思ったんですが、もしかしたらそれ以上のことをやっているのかも……」
「それ以上……兄のPCから遺書のファイルが見つかったそうです。兄のPCはパスワードがわからなかったのでなかなか中を調べることができなかったのですが、帝都銀行のドメインに参加していたため、ドメインサーバー側でパスワードを変更してログインできたようです。ログインしたところ遺書のファイルがデスクトップにあったという話です」
「肇さんのPCを拝見できますか?」
肇は立ち上がると、自分のデスクに行ってPCを起動した。高木もデスクへ行って二人でPCが起動するのを待った。肇がログインし、高木がじっくりとPCのデスクトップを調べた。
「このアイコンはなんですか?」
高木が見なれないアイコンを指差して言った。
「これは帝都のセキュリティシステムのアイコンです。ウイルス対策やファイアウォールとして使っているとか。帝都グループ各社がばらばらな対策ソフトを導入するより、グループ全体を一括して保護したほうが効率的で安全だとか……」
「これも帝都セキュリティの製品ですか?」
「市販はしていないようですが、帝都セキュリティが開発しているはずです」
高木が腕組みをしてしばらく考えごとをした。
「最初お兄さんの事件を調べていたとき、疑問に思ったことがあります。お兄さんは夜の九時前に転落していますね? 警備員が巡回する直前でした。だからすぐに発見され救急車が呼ばれた。なぜ?」
肇には意味がわからなかった。
「なぜとは?」
「なぜ警備員が九時に巡回するとわかっていたのでしょう? 私は疑問に思って警備の方が巡回する時間を尋ねてみたことがあるんです。ビル内は一時間ごとらしいのですが、ビルの外まで巡回するのは三時間ごとらしいです。もし九時の巡回で発見されなければ、次は深夜の零時だったわけです」
「何が言いたいんですか?」
「お兄さんがなんらかの方法で殺害されたとしたら、犯人は警備員が九時に巡回し、お兄さんを発見することが織り込み済みだったんじゃないかと」
「なぜ? 発見は遅いほうがいいんじゃないですか?」
「犯人……というか犯人の仲間にとってはそのほうが都合が良かったんじゃないでしょうか? たとえばアリバイ作りとか……九時前に転落させ、九時に警備員が発見したとき、明確なアリバイがあれば、犯人ではないことになります」
当時のことを思い出しながら、肇が答えた。
「平日の夜の九時の出来事だったため、自宅で一人だったり、家族といたりという人間が多く、明確なアリバイがないものが多かったんです。ただ叔父の御手洗憲次にはアリバイがありました。しかも与党の幹事長と会っていたという……」
「御手洗憲次さんというと……」
「帝都セキュリティの社長です」
しばらくの沈黙のあと、高木が言った。
「御手洗さん、少し前からですが、お兄さんの事件もあなたの事故も、帝都セキュリティが絡んでいると考えるとスッキリすることが多いんです。スマホの位置情報の件、PCの監視ソフトの件、警備員の巡回時間の件……ただいずれも推測でしかなく……」
「帝都セキュリティに乗り込んでみましょうか?」
肇の提案に高木は少し驚いた。
「ずいぶん大胆ですね」
「告発メールのとき連絡をとった長野さんが帝都セキュリティの技術部長をしています。兄の幼馴染だった方で兄の葬儀のとき号泣してくださっています。二人で会いに行って信頼できそうならぶつけてみませんか?」
「……いいでしょう。この件は腰を落ち着けて調べてもなかなか進まない……一点突破もいいんじゃないでしょうか」
高木にももうためらっている場合ではないことはわかっていた。




