疑惑
肇は社長室を出てから自分の執務室に戻った。ちょうど高木がやってくる時間だった。高木に正憲から聞かされた話を伝えた。高木は説明を聞き終えると何回かうなずきながら言った。
「なるほど、プロジェクトDはそうして現在に至るわけですか……ある意味では御手洗家の歴史でもあるんですね」
肇は同感した。まさしく御手洗家とプロジェクトDの進み具合はからまった糸のように思えた。
「ええ、始まりが救世主ベビーとしての私の誕生です。そして生命ラボが作られ、兄の自殺があり、私の事故があった。そのたびにプロジェクトDは進化し、より人間の複製へと近づいていった……」
高木があることを思い出したように言った。
「その肇さんの事故の件で、以前からひっかかっていたことがあるんです。エアバッグに仕掛けが施され、その仕掛けは携帯から受信した音で爆発するようになっていた……その仕掛けを施した人間がだれか? いつ仕掛けを仕込んだのか? どこで仕込んだのかはいまだにわかりません。しかし、別の視点から見てみましょう。あの事故のとき、肇さんはスマホをハンズフリーにして通話していたんですよね? そこに着信があって、キーンという機械音が鳴り響いて、それに呼応してエアバッグが破裂して運転ができなくなり分岐点に衝突した……ハンズフリーで使っていなかったら機械音は鳴り響くことはなかったし、当然、エアバッグが破裂することもなかった……肇さんが車を運転するときハンズフリーにしていることを知っていたのは、かなり身近な人間でしょうね?」
「そうですね……家族か……家族に近い人……」
「そもそもなぜ肇さんが車を運転しているとわかったんでしょう? たまたま運転していた? あてずっぽうに電話をかけた? そうとも思えません。しかも高速道路で運転しているときなぜ爆破したのでしょうか? それは一般道では爆破しても速度が出ていないので、じゅうぶん停車することができるからでしょう。一般道では周囲に追突したり、急な停車で後ろから追突されても怪我をする程度で済む可能性が高い。しかし高速道路ならかなりひどい衝突になる可能性がある。ではなぜ高速道路を運転しているということがわかったのでしょうか? だれかが連絡した? あのとき自宅から出発したので知っていたのはご家族だけですね。周りのどこかで監視していたとか……もしかしたら運転する車を追尾していたのかもしれません。そしてチャンスを狙っていた……」
肇も警察で聞かされた話を思い出していた。
「あのとき、うしろから追跡されていた……たしかにそうかもしれない。あのとき事故が起こってすぐに警察に通報があったらしいから。あの通報は通りがかりの車ではなく、犯人だったのかも」
「なぜ肇さんが車ででかけることを知ったのでしょう? もしかしたら……御手洗さん、スマホをお借りできますか?」
肇がポケットから自分のスマホを出し、ロックを解除してから高木に渡した。高木がスマホを操作しながら言った。
「以前、スマホを拝見したときに見かけて気になっていたんですが……このアイコンって見慣れませんが、なんのアイコンですか?」
高木が指差すアイコンは、帝都セキュリティからインストールするよう指示されたアプリのアイコンだった。
「このスマホ自体が帝都からの支給で、役員になるずっと前から使っています。このアイコンは帝都セキュリティのアプリで災害があったときの安否確認とか、帝都HDからのお知らせとかを通知するためのアプリです」
「もしかしたらこのアプリはスマホの位置情報も通知しているのかもしれません」
「まさか、本人の許可もなくですか……」
にわかには信じがたい話だった。




