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混乱

 高木が車を運転し、助手席には御手洗肇が座っていた。喫茶店でいなくなってしまった山形を一時間ほど待っていたが、ふたたび現れることはなく、これ以上待っていても仕方ないだろうと考え、車できていた高木が肇を自宅まで送ろうと言った。ショックを受けていると見えた肇を一人にするのは危険だと高木は考えた。

 車は都内を世田谷方面に向かって進んだ。肇は最初黙りこくっていたが、急に話し始めた。

「信じられますか? クローンはまだしも、成長促進だの、一年で十年だの、脳移植だの、デュープだの……」

 高木は言葉を選んで話そうとした。

「たしかに突然聞くと信じられませんが、どの技術も今までもけっこういいところまできていたものですから、もう一歩先を行けば実現するでしょう。あとは技術を組み合わせてなにを作るかでしょうね」

「なにをって、人間でしょう。人間のコピーを、複製を、デュープを作っているんですよ。それも父が主導して、自分の息子を……」

 一呼吸置いてから高木が言った。

「たしかに……普通は動物実験を繰り返して、さまざまなデータをとって安全性を確保しながらリリースしてゆくものでしょう。それが、すでに人間への着手ですから驚きました」

「ある意味で動物実験みたいなものですよね」

「肇さんは、瀕死の重体だったと聞いています。助ける最後の手段だったんじゃないですか?」

「父の性格からすると、その考え方はお人好しすぎる。なにかたくらむところがあったんでしょう」

「お父さんのことが本当にお嫌いなんですね?」

 今度は肇が一呼吸置いてから話した。

「前にも言いましたが、私は正憲の愛人の子供なんです。母は正憲の秘書をしていたんですが、正憲に孕まされて、私を産んだあとは正憲の愛人として生きてきました。私がまだ幼かったころ母は交通事故によって亡くなり、私は御手洗家に引き取られました。十歳ほど離れている兄の吟は、頭のいい優等生タイプですが、そんな私にも公平に接してくれたと思います。優しかった……御手洗の母親も、私は愛人に生ませた子供なのに、なぜかこだわりなく接してくれました。私は、兄と変わることなく育てられています。父だけですね。私が愛人の子供だからとか関係なく冷たかった。兄に対してだって冷たかった。祖父や祖母に対してだって、自分の妻に対してだって冷酷だった……冷酷というか、欲というか、エゴというか……だから私は、社会に出るようになって、帝都グループの一員かもしれないが、帝都銀行に入行したらすぐに家を出てしまったんです。大学時代の後輩だった恵子ともすぐに結婚し、蓮と心という子供たちをもうけたのも、御手洗家のように冷たい家庭がいやだったから……温かい温もりのある……ありふれているかもしれませんが、そんな家庭が欲しくて……それなのに……高木さん、私はデュープなんですか?」

 ふたたび高木は言葉を選びながら答えた。

「いくつかのことからすると間違いなさそうです」

「私はどうすれば……」

「とくに何も変わらないのではないでしょうか? 記憶も肇さんのものだし、人格も何もかもか変わっていないのですから。今までどおりでいいのではないでしょうか?」

 ため息をついてから肇が言った。

「家族にはなんて……妻にはどう話せば……」

「それは私にはわかりません。話すことがいいことなのか……話したほうがいいのか……」

「私はデュープだけど、これまでとなにも変わらないって……」

 突然、肇が狂ったように笑い始めた。

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