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成長

 肇は青ざめて何も語らなかった。しばらく沈黙が続いた。喫茶店の入り口のカウベルが珍しく鳴り、二人連れの男が入ってきた。静まり返った喫茶店の中でそのベルの音がかえって不気味に聞こえた。

「そのプロジェクトのメンバーは?」

 高木の質問に山形が答えた。

「正式なチームというわけではありませんので、メンバーと言っていいかわかりませんが、生命ラボの田所所長と私と木下、それと……あの方が帝都の社長だったんですね……御手洗社長と……帝都病院の中村病院長、脳移植の専門医の内田医師……と言ったところでしょうか……それ以外のものも関係していますが、中心となっているのはそれくらいです」

 メモをとりながらさらに高木が尋ねた。

「順を追ってもう一度説明していただけますか? まずは本人の細胞から培養するわけですね」

「はい。フェーズ一は、本人の細胞の採取です。本人に自主的に提供してもらうのが基本です。フェーズ二は、採取した細胞の培養です。培養液につけて培養します。いわゆるクローンです。最初は小さな器ですが、細胞が大きくなるにつれて、より大きな器に入れ替えてゆきます。五段階くらい経て培養します。細胞培養は失敗する可能性も考えて複数個を同時に進行させます。胎児くらいまで培養したら、成長させる段階に入ります。これがフェーズ三で、木下が研究しています。透明な袋状のシート内で、口に大きな管を入れ、栄養と酸素を送り込みます。両手両足、腹部や背中には体調を計測するためのセンサーが取り付けられています。約一年間で、およそ十年という期間の成長を実現しています」

「一年で十年ですか……」

「まだ未成熟な技術なので、失敗することもあります」

 思わず高木が大きな声を上げた。

「失敗?」

「細胞が安定しないで、崩壊し始めることがありました」

「細胞崩壊……」

「失敗した場合、人間として火葬するわけにはいかないので、ラボ内で酸性の水溶液で溶融することになっていました」

 肇がある光景を思い描きながらつぶやいた。その声が高木には聞こえたが、山形に届いたかはわからない。

「溶融……」

 肇はときにうなされて目が覚めるあの光景を思い出していた。浴槽状の装置の中に遺体があるのが蓋越しに見える。透明な液体が注がれ始め、白い煙が立ち上がってゆく。やがて遺体は半分ほど液体につかり、体のあちこちから泡が立ち始める。最初はじょじょにだった泡がしだいに激しく立つようになり、腕の一部は筋肉が溶けてしまい、骨が露出するようになってゆき、やがてその骨すらも溶け始めてゆく……

 山形の説明が肇の悪夢を終わらせてくれた。

「フェーズ四が最終段階です。クローンを作り、成長促進技術で数十年間という期間を一気に成長させたとしても、それまでの記憶もなければ、人格すらまともに形成されていない、大きな赤ん坊にすぎません。本物の脳を移植することではじめてデュープは完成します。臓器移植では拒絶反応がつきものですが、デュープへの移植なら本人から本人への移植ですから、その心配はありません。記憶も移植されて、本人と区別が付かないデュープが完成します」

「その脳移植を行なったのが……」

「内田医師です。内田医師はアメリカの大学病院で脳移植を世界で初めて成功させた医師です。帝都病院の病院長がじきじきに引き抜いたと聞いています」

 高木が一度肇を見てから、山形に向かい直して尋ねた。

「脳移植したかどうかはどこでわかりますか?」

「脳移植は、開頭手術なので、基本的には頭部に手術痕があるはずです……しかし、内田医師の手術では、術後間もなく手術痕とわかるものは消え失せて、ほとんどわからないとか」


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