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決断

 帝都病院の一号棟最上階にある病院長室の隣は会議室になっている。患者の病状や手術に関する情報交換や検討会は、各フロアごとにある診療科目ごとのカンファレンスルームで行なうことが多く、この会議室は経営に関することで使われることが多い。

 この日は、会議室の大きなテーブルに、中村帝都病院長と御手洗正憲、そして鈴木秘書が座っていた。大きなディスプレイも用意されていて、生命ラボの田所所長と木下研究員、山形研究員が映っていた。鈴木が用紙を見ながら説明していた。

「……という状況です。本日、平塚にある地元の総合病院からドクターヘリで帝都病院に移送しました。御手洗社長の次男肇さんは鎖骨と胸骨を骨折、頭部に外傷があり、脳挫傷、急性硬膜下血腫、外傷性くも膜下出血および脳内出血。お孫さんの蓮さんは胃と腸、肝臓と腎臓が破裂し、腹腔内出血と腹膜炎を併発しショック状態となっています。二人とも血圧が低下し、脈拍頻数、意識消失状態です」

「吟と肇のDはどうなっている?」

 正憲がディスプレイの田所に向かって尋ねた。

「三年ほど前の健康診断のときに採取した細胞をもとに、五段階の細胞培養を経て、現在成長促進プロセスに入っています。成長促進ではおよそ一年で十年にあたる成長を実現できており、吟さんのDが三年と六カ月、肇さんのDが三年ほど経過しています」

「吟か……吟の脳移植はできなかったんだな……」

 遠くを見るような目つきで正憲がぼやいた。

「そうですね。投身自殺は脳の損傷が激しい場合が多いですから……吟さんの場合もご自身の足が頭部にめり込むような格好になっていたので……」

 気を取り直して正憲がきく。

「吟の遺体は?」

「引き続き冷凍保存しています。未来では再生医療が今よりすすんでいるでしょうから。痛んだ脳を再生してから移植すれば、Dの最終段階を超えられる可能性はあります」

 中村病院長が引き取って答えた。正憲は本題に入った。

「肇のほうは?」

「年齢的にも実年齢に近くなっていて、実際に見た限りでは見分けはつきません。あとは脳移植です」

 田所が自信があるらしく堂々と答えた。

「できるのか?」

 正憲は横にいた中村病院長に聞いた。

「だいじょうぶです。こういう事態を見越して、脳外科医を引き抜いています。内田と言いますが、ジョージワシントン大学で脳移植を成功させています」

「口は固いんだろうな」

「先々、病院を一つまかせようかと」

「いいだろう。ぶっつけ本番だが、肇は私の次男だ。長男の吟亡きいま私の跡取りであり、帝都グループの将来がかかっているといっていい。くれぐれも抜かりのないように」

 正憲がドスの効いた声で言った。

「はい」

 事態をまだ理解できていないらしく木下と山形が遅れて返事をした。 

 正憲にはもう一つの懸案事項があった。

「蓮の方はやはりだめか?」


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