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山形

 帝都製薬御殿場研究所は高い塀で囲われていた。正門には守衛所があり、警備員が常時入退出を管理している。夕方六時を過ぎると人の出入りはほとんどなくなり、正門は閉まってしまうため、警備員のチェックを受けてから通用門を出なければならない。

 高木が帝都病院附属の療養施設を訪問してから三日が経っていた。山形研究員に接触しようと張っていたが、なぜかつかまらなかった。この日もすでに夜の七時ころで、周囲は暗闇となっていた。研究所正門の近くに乗用車を停め、煙草を吸いながら高木は山形を待った。

 高木が研究所内にある生命ラボに潜入していたのは昨年の七月から九月頃のことだった。肇の事故後も潜入を続け、ゾーンβで肇にそっくりな男に出会ったころ、素性がばれそうになったため、生命ラボにはそれ以降近づかないようにしてきた。いまでも不用意に研究所や生命ラボに入るわけにはゆかない。

 またからぶりかとあきらめかけたとき、通用門から一人の男が出てきた。高木は乗用車のエンジンをかけ、車は静かに走り出した。男は研究所の塀沿いに高木から遠ざかるように歩いていった。高木は乗用車に乗って男をゆっくりと追い越し、先に行ってから車を停めた。男がやってくるのを、高木はバックミラー越しに見た。街灯の中で、ネットで検索して見つけた山形の写真を見てから、男の顔を確認した。男が乗用車のわきを通り過ぎていったとき、高木は乗用車のホーンを鳴らした。男がホーンの音におどろいて振り返った。高木はヘッドライトをハイビームにしてその顔を確認し、ドアを開けて外に出た。

「山形さんですね?」

 男は突然現れた高木におどろいた顔をしていた。

「山形聡主任研究員ですよね?」

 高木はもう一度確認した。

「……そうですが。どなたでしょうか?」

「週刊『スクープ』の記者で高木と申します」

 高木はゆっくりと山形に近づいていった。

「週刊誌? 週刊誌の記者が私になにか?」

「帝都グループの綿貫専務宛に告発メールを送りませんでしたか? 知っていることを教えてくれませんか?」

 山形は突然振り返り、高木から去るように歩き出した。

「私はなにも知りません」

「ヒトのクローン化に成功したようですね。それだけでもスクープです。世間に公表してもよろしいでしょうか?」

 高木がそう言うと山形は立ち止まり、振り返った。

「私は、それだけじゃなさそうだと踏んでいます。もっと世間が驚愕するような事態が進んでいるのではないかと」

 高木が畳みかけるようにそう言うと、山形は高木に向かって歩き出した。

「なにが目的ですか?」

「じつは私は帝都グループの御手洗肇さんという役員の方からの依頼で動いています」

「御手洗肇? 御手洗さんはお元気ですか? おかわりありませんか? あれ以来、情報がなくって……」

「あれ? あれとはいつのことですか? 肇さんをご存じなんですね?」

「いえ……はい。所長の命令だったんです」

「なにがですか?」

「人間での実験にはまだ自信がなかったのに……まさか社長の息子さん相手に行なうとは思ってもみませんでした……」

 高木は思い切ってカマをかけてみた。

「実験って御手洗肇のクローン?」

「クローンではありません。デュープと私たちは呼んでいます」

「デュープ?」

「肇さん……とあわせていただけますか? そうできるのならお話しましょう」

 高木は名刺を山形に渡した。

「この連絡先に電話ください」

 山形は名刺を受け取り、周囲を見渡してから高木に頭を下げてから向きを変え去っていった。


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