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転院

 帝都病院の向かいにあった療養施設で兄の吟そっくりの男を発見した肇は、翌日、帝都HDの執務室に入るや否や高木に電話した。病院長や施設長の態度を見ているとあの男のことを隠蔽しようとしているようにしか見えない。そうなったとき自分だけではうまく乗り越えられないことはわかっていた。直感的になにか重要な手がかりだと思えたため、高木の力を借りることにしたのだ。

「そうです。兄だったんです」

「お兄さんの吟さんは昨年七月に自殺されたはずじゃ……」

「そのはずですが、あれは間違いなく兄だった……」

「帝都病院のどこでしたか……」

「帝都病院付属の療養施設で、帝都病院の真向かいにあります……看護師の……」

 施設であった看護師のことを肇は思い出した。名札にはたしか「井上玲子」と書いてあったはずだ。

「井上玲子さんに連絡すればいいかと思います。施設長っていうのがいますが、どこか信用なりません。他人のそら似だと言って聞く耳を持たないし、すぐに話を逸らそうとします」

「看護師の井上玲子さんですね。会ってみましょう」

 高木はさっそく帝都病院付属のその施設を訪ねることにした。タクシーを使えば十分もかからない距離だった。

 施設に入ると一階ホールの中を回ってみた。警備を呼ばれたら肇の名前を出すつもりだったが、そうなる前に車椅子に乗った患者の車椅子を押している井上看護師を見つけることができた。肇から依頼されていることを告げ、話を聞きたいと申し出たら、井上看護師は別の看護師に患者を預け、二人で療養所屋上へあがろうと言ってくれた。エレベーターで屋上に上がってみると、神田川の向こう側にお茶の水の駅が見えた。井上看護師は高木の名刺を見ながら言った。

「週刊誌の記者さんて御手洗さんの仕事も受けるんですか?」

「特別です。普通は編集部以外の仕事は受けません。今回の件は記事にはするつもりはありません。もちろん時間がたって御手洗さんが許可してくれれば記事にしますけど」

「なにが知りたいんですか?」

「柳沢さんですか? 御手洗吟さんそっくりな患者さんがいるとか?」

 やっぱりその件かと言いたげに井上看護師はうなずき、こう言った。

「ああ、柳沢さんのこと……残念ながらもう会えません」

「え! 御手洗さんが柳沢さんに会ったのは昨日のことですよ。何があったんですか?」

「それがよくわからないんです。御手洗さんが柳沢さんにあったあとですぐに救急車が来て、柳沢さんを連れて行ってしまったので」

「……柳沢さんはどういった経歴の持ち主なんですか? ご家族は?」

「ご家族はだれもいないはず。というかだれも面会にきませんでした。カルテ見ても変なの、生年月日は不明だし、住所も……そんな変な患者さんうちみたいなドケチな施設長が受け入れるなんて……ってみんなで噂していたくらいです」

 スマホで検索しながら高木が聞いた。

「生年月日と住所が不明……。妙ですね。柳沢さんはこの方ですか?」

 スマホで検索して見つかった写真を見せた。御手洗吟の広報用の写真が写っている。

「そう」

「……これは帝都グループの前の常務の御手洗吟さんです。御手洗肇さんのお兄さんです」

「じゃああのときお兄さんにそっくりだって言っていたのは本当だったんですね」

 高木は黙ってうなずいた。

「どこへ移送されたかわかりませんが、あの救急車は帝都病院のものじゃないかしら」

「帝都病院の救急車?」

 高木は井上看護師に礼を言って施設を出ることにした。施設の入り口で向かいにある帝都病院の建物を見ながらスマホを使って肇に電話した。

「そうです。柳沢さんはもういません。どこかに連れ去られたようです。いちおう転院という扱いになっているようですが」


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