酷似
高木と会い、人間のクローンのこと、自動車事故が仕掛けられたものだったこと、火葬した息子の蓮がクローンだったかもしれないこと、そのどれもが悪夢のようなもので、ある日突然夢から覚めるように、すべて嘘だったと気づくのかもしれない。それこそそんな夢現のような日々が一週間ほど続いた。
肇は、退院後、定期的に帝都病院に行き、経過観察のための診察を受けていた。その日も担当医の酒田の診察を受けるため、帝都病院を訪ねていた。酒田は聴診器を肇の胸に当てて言った。
「息を吸って」
肇が息を吸う。
「吐いて」
肇が息を吐く。酒田医師はなにかをカルテに書き込みながら尋ねた。
「体調に変化はありませんか?」
「とくにこれといった変化は……」
「体で痛いところとかは……」
「とくには……」
そう答えたとき、妻恵子がつぶやいていたことを思い出した。
「そう言えば、事故のとき私は鎖骨を骨折したのでしょうか?」
酒田医師は驚いたような顔をした。
「なぜそんなことを……」
「妻が事故のすぐあとに私にあったとき、鎖骨や肋骨が骨折していて、胸が包帯で巻かれていたというのです。あれだけの骨折をしていても傷一つないのは不思議だというものですから」
「そうですね……」
酒田はカルテをパラパラめくりながらこたえた。帝都病院にはもちろん電子カルテが導入され、多くの場合、医師はキーボードへの入力に忙しい。しかし肇の場合、昔ながらの紙のカルテが使われているようだ。
「骨折はしていましたが、インプラントという金属を埋め込むような手術はしていないのでなにもあとには残りません。いわゆる保存療法で回復させています」
「そうですか……手術するほどではなかったんですね」
「頭はどうですか? 頭痛や吐き気はありませんか?」
「ときどき割れるように頭が痛くなります。それといまだに最近の……事故直前から入院中の記憶が戻ってきません。事故から少し前までの記憶は問題ないんですが」
「入院中は意識朦朧としているのでやむを得ないんじゃないでしょうか? MRI、MRAとも異常は見当たりませんので、もう少しだけ様子をみましょう。それではもう一ヶ月後に来てください」
肇は酒田に礼をして診察室を出た。廊下では妻の恵子が外を見ていた。肇が一人でも大丈夫だといっても、心配だからとついてきていた。
「お待たせ。どうした?」
肇の気配に気がついているだろうに、依然として外を見ている恵子に尋ねた。
「お兄さんに似た方がいたのよ」
「兄さんって、吟兄さんか?」
「そう。そっくりだった」
恵子の視線の先を肇も見た。病院の入り口の先には、道路を挟んでなにかの施設の建物があった。肇が通りかかった看護師に問いかけた。
「あの建物は?」
「あら御手洗さん、お身体はだいじょうぶですか?」
肇の視線に気づき看護師が答えた。
「あれは病院付属の療養施設です。とくに精神科の患者さんが多いんじゃないかしら」
「精神病院?」
「昔風に言えば、そうですね」
「ありがとう。へえ、帝都病院にそんなものあったんだ」
看護師が去っていったそのとき、施設の入り口に一人の男が現れた。その男の顔を見て肇は愕然とした。それは肇の兄吟だった。恵子もそれに気づいた。
「ほらあの人、お兄さんにそっくりでしょう」
「そっくりなんてもんじゃない」




