偽装
整備員たちに協力してもらって事故車を調査したところ、ハンドル近くでなにかが爆発したような形跡が発見できた。スマホを使って肇に電話をした。
「そうです。エアバッグになにかが破裂したような形跡がありました。事故の後でとか事故の最中に破裂したというより、この破裂が事故の原因ではないかと思われます。つまり何かの理由で破裂が起こり、その結果、エアバッグが作動し、運転に支障をきたして事故を起こした。そう考えたほうが無理がありません。御手洗さん、なにかご記憶ではありませんか?」
「なにかの理由で破裂が……」
肇には、事故直前に聞こえたキーンという甲高い音が聞こえてきたように思えたが曖昧なままだった。無理に思い出そうとすると、蓮がフロントガラスを飛び出してゆく光景が思い出されてしまう。
「破裂した部分にはマイクが仕込まれていたようですので、なにか音がきっかけになったのかもしれません。もう間違いなくこれはただの事故ではなく御手洗さんを狙った事件です」
肇は高木が何を言おうとしているのかわかっていた。ゆっくりうなずいた。
「この事故車を保管するよう手配したのがだれだかわかりますか?」
肇には見当もつかなかった。
「秘書の鈴木さんです」
「鈴木が?」
肇は絶句した。
「鈴木秘書には注意しておいてください。わかりましたか、御手洗さん」
肇はもう一度うなずいた。
※ ※ ※
帝都HDの肇の執務室に高木がやってきたのは、整備工場で事故車を発見してから二日後のことだった。いつものようにショルダーバッグを下げてやってきた高木は、肇が応接セットに座るように言うと、座る時間も惜しむように話し出した。
「急な連絡ですみません。早いほうがいいだろうと思いまして……お預かりした蓮さんの遺品からDNAを採取して鑑定し、ノートからは指紋を採取しました。それと葬儀のときに私が蓮さんのご遺体から採取した毛髪からDNAを、指から採取した指紋を、それぞれ比較したところ興味深い結果がわかりました」
肇は高木の次の言葉を待った。
「DNAは完全に一致しました」
肇はそれを聞いてほっと安堵した。
「しかし、指紋は一致しませんでした」
肇は絶句した。しばらくして絞り出すようにして尋ねた。
「なぜ……」
「わかりません。私も注意して指紋をとったつもりですが、落ち度がないとは言い切れません。お預かりしたノートもきれいに指紋が残っているとは限りません。だから完全に一致しなくても仕方ないのかもしれません。しかし一致する部分がまったくないということがありえるでしょうか?」
「私にはわかりません……」
本音だった。専門家でもない自分には判断ができない。高木が続けた。
「私が調査を依頼したのは、警察も依頼するような専門機関です。ミスを起こすようなことは考えられません。DNAが一致しながら指紋が一致しないという事実から考えられるのは……」
肇にはやはり息を呑んで次の言葉を待つ以外なかった。
「あのときの蓮さんの遺体がクローンだったということです。クローンの場合、ターゲットのDNAから作られるので、DNAが一致するのは当然です。しかしクローンでもなにからなにまで一致するわけではありません。指紋や光彩などはまったく同じというわけではありません」
「あのときの蓮はクローンだった……」
「はい。そう考えれば、包帯で巻かれていたにもかかわらず顔に傷一つなかったこともなんとなく理由がわかります。クローンとして作られていたため、事故の傷はまったくない。しかしそれでは不自然だということで、顔を包帯で巻いて傷があることにしてしまった……」
「いったいだれが?」




