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頭痛

 高木は一呼吸おいてから続けた。

「そうです。クローンといっても羊だけではありません。ウニやカエルなどの原始的な生物に始まって、羊や猫、犬までクローンは成功しています。そして帝都製薬の生命ラボでは」

 肇にも予想がついた。

「人間のクローン……」

「はい。クローンというのは、羊でももちろん人間でも、クローン技術によって生まれたものは、もととなった生物とまったく同じではありません。DNAから培養してゆくのですが、人間でいえば赤ん坊の状態で生まれます。もう一度人生をやりなおすようなものです。そのことを突き止めたことをお知らせしたところ、研究所に乗り込もうとおっしゃって」

「事故にあった?」

「はい。たぶん乗り込んでご自分で調べるつもりだったのではないでしょうか?」

 肇はそのときの自分の気持ちもすでに思い出していた。

「人間のクローンは法律でまだ認められていないだけでなく、社会的に危険だからと考えたんでしょうね」

「私は研究所の近くで待っていたのですが、いつまでたってもいらっしゃらないので、何度かお電話したのですがつながらず。結局、自宅に戻りました。そうしたら深夜のニュースで、『帝都グループの幹部が交通事故にあった』というのでびっくりしました」

 いまさら謝っても仕方ないことだが、肇には謝るしかなかった。

「そうですか、すみませんでした」

「事故にあう寸前のことも少しは知っていましたが、デスクには秘密にしておきました。じつはそれよりびっくりしたことがあったのです。御手洗さんは意識不明のまま入院していると報道されていた最中、御殿場の生命ラボで私は御手洗さんと偶然お会いしているのです」

「私とですか?」

「御手洗さんは入院したままで連絡も取れませんでしたが、生命ラボの一件は個人的にも大きなヤマだと考えて、潜入取材を続行していたのです。ラボには、研究員とは別に雑多な仕事を請け負う作業員たちが何人か出入りしていて、その作業員として雇われるようにはなっていたのですが、セキュリティが厳しくて一般のゾーンのゾーンαにしか出入りできなかったのです。ゾーンは三つにわかれていますが、仲良くなった作業員のIDカードを使って、なんとかゾーンβに入ることができました。そこで御手洗さんが手術着のようなものを着てさまよっていらっしゃるのを発見したんです。声をかけたのですが、失神されたようで……」

「手術着……」

 記憶がかすかに蘇るが、肇は頭痛がし始めた。

「私は最初信じられませんでした。意識不明の重態というのは、意図的に流された誤報だったのかと思いました」

 肇の頭痛がひどくなってきた。

「う……頭が割れるように痛い……」

「だいじょうぶですか?」

「すみませんが、もう少し調査を継続してくれませんか? とりあえず最初の約束の百万円は大至急振り込むことにします」

 ホッとしたような顔をする高木を見て、肇は申し訳なく思った。

「わかりました。じつはもう一つ気になることがあるのですが……」

 高木が居住まいを正してから肇に言った。肇も顔を上げて高木を見た。

「なんでしょう?」

「御手洗さんの事故ですが、やけにタイミングが良すぎるように思えるのです。御手洗さんが研究所に乗り込もうとした矢先の事故ですから」

「事故ではないと?」

「確証はもちろんありませんが、調べてみる価値はあるかと」

 肇には事故の瞬間がまだ曖昧だった。衝突した瞬間にエアバッグが動作したはずなのだが、エアバッグが動作してから衝突したような気もしていた。

「わかりました。その件も調査して報告書にまとめてください」

「そういえば、携帯電話はどうされました? 事故のとき壊れてしまったとか?」

「いえ。だいじょうぶでした。私は車で運転しているときは、ハンズフリーにしていますから。携帯と言ってもスマートフォンですが、スマホからBlueToothで飛ばしてスピーカーから音を出すようにしていました。スマホは運転席の脇、車の真ん中に設置していましたが、だいじょうぶでした」

 肇はポケットからスマートフォンを出して高木に渡した。高木が渡されたスマートフォンを操作する。

「画面がロックされていますね。ロックを解除してもらえますか」

 肇がスマートフォンを受け取り、ロックを解除し、あらためて高木に渡す。高木がスマートフォンを操作する。

「事故当時は、奥さまから電話があったようですね」

「たしかあったはずです。あのとき息子が忍び込んでしまって……シートベルトさせておけば良かったと後悔しています……」

「そのあとで私からの電話か……」

「たしかそうです」

「事故直前の電話がこれですね」

 高木がスマートフォンの画面を肇に見せた。住所録に登録されていないせいで、電話番号がそのまま表示されている。

「その番号に心当たりはありません……」

 高木はその番号を自分のスマートフォンに入力し、スピーカーフォンにしてかけてみた。呼び出すがすぐに「この電話番号は使われていない」むねのアナウンスが流れた。

「もう使われていないようですね」

 高木には途切れてしまった手がかりが残念だった。


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