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遺書

【前回のお話】


 吟の葬儀のとき、宮崎と岩田は見つかった書類が吟の遺書だったことを告げる。


 週刊誌の記者高木はかつて警視庁捜査第1課の刑事だった。警視庁内部の裏金工作を告発したが、事件そのものはうやむやのうちに処理され、高木本人も辞めざるを得なかった。岩田と宮崎はそんな高木に指紋の件や防犯カメラの件を教え、高木に託す。高木はすぐに肇に接近する。週刊誌記者にしてはみょうに誠実な高木に肇は事件の謎を探るよう依頼する。

 肇の依頼を受け、帝都製薬御殿場研究所を見張っていた高木は、研究所内に生命ラボという別棟の建物があることを知った。政府系の研究施設からやってきた田所という所長のもと、木下と山形という研究者二人が、再生医療に関する研究をしていることもわかった。高木はラボの作業員に接近し、ラボの作業員として潜り込むことに成功する。ラボは3つのゾーンに分かれ、人間のクローンについて研究が進んでいて、ラボでクローンを製造することをプロジェクトDと呼んでいることもわかった。

 吟の死亡により空席となった役員に、正憲は次男の肇を推し、反対もあった取締役会をのりきった。その席上、綿貫栄一郎専務が生命ラボに巨額な資金がつぎ込まれていること、生命ラボに関する告発メールがあったことを明かす。生命ラボに関心を持っていた肇は栄一郎と共に調査することを提案する。

 告別式が無事に終わった翌日、御手洗吟の大きな戸建て住宅に御手洗家一族は集まることになった。広いリビングにゆり子と肇、正憲、憲次、田中洋子がおり、鈴木秘書が正憲につきそっていた。

肇がゆり子に尋ねた。

「遺書は届きました?」

「もうじき警察の方が持ってきてくれることになっています」

 ゆり子がそう答えたとき、玄関でチャイムの音がした。やがて家政婦が相手をしている声がした。その家政婦がリビングにやってきて言った。

「奥様、警察の方が……」

「お上がりしてもらって」

 家政婦が下がり、やがて刑事二人がやってきた。

「おや、みなさんおそろいですか?」

 岩田刑事が少し驚いた表情で言うとゆり子が説明した。

「私がお呼びしたの。一人じゃ怖くて……」

 宮崎刑事が紙を胸ポケットから取り出しながら、

「こちらがご主人の遺書です」

 そう言ってゆり子に渡す。ゆり子が受け取る。

「と言っても、実物ではなく、コピーですが……実物はもう少し預からせてください」

 宮崎刑事がそう言うとゆり子がうなずく。肇に促されて遺書を広げてゆり子が黙ったまま読んだ。そしてワッと泣き崩れた。ゆり子は肇に遺書を渡した。肇も声に出さずに読み、少ししてあらためて声に出して読んだ。

「父から後継者として指名されてからずっと悩み続けてきました。なんとか父の、皆さんの期待に応えようとしてきましたが、やはり私には無理です。このような形になってしまい申し訳ありません。

ゆり子には迷惑をかけてしまうが、許してほしい。子供たちを頼む。

御手洗吟」

「それだけか?」

 正憲がいぶかしげに聞く。

「はい」

 肇が答えると

「見せてみろ」

 正憲はそう言い、肇から紙を受け取り読み始めた。

「たったこれだけの文を手書きでなくパソコンか! 手書きならその筆跡で本人かどうかわかるが、パソコンじゃあ誰かが捏造したものかもしれないだろう」

 憲次が二人の刑事を見ていった。

「捏造って……警察では遺書の指紋を鑑定したんでしょう? うちの、帝都セキュリティの方から吟くんの指紋や掌紋のデータを提供したはずだが……」

 岩田刑事が答えた。

「はい、提供していただきました。この遺書からは御手洗吟さんの指紋と掌紋が検出できました。吟さん以外のものは見つかっておりません」

 憲次が得意げに言った。

「ほら。どうですか、兄さん? 残念ですが、やはりこれは吟くんの遺書で、吟くんは自殺したんですよ」

 それを聞いてゆり子がワッと泣き出す。憲次はバツが悪そうな顔をした。刑事たちが顔を見合わせてから立ち上がり、宮崎刑事が言った。

「それではわれわれはこれで」

 ゆり子が泣いているので、肇が代わって礼を言った。

「わざわざありがとうございました」

 肇が部屋に入ってきた家政婦に頼んだ。

「玄関まで送ってください」

 刑事たちは去っていった。

「父さんも叔父さんもいい加減にしてください。刑事たちがいる前で……それに義姉さんだっているんですよ」

 肇が怒るとゆり子はふたたび泣きじゃくった。

 二人の刑事は、家政婦が玄関まで見送りし、挨拶して御手洗家を出た。二人は近くに停めてあった車に乗り込み、若い宮崎刑事がハンドルを握り、車は走り始めた。窓を開け、煙草に火を点けてから、岩田刑事が聞いた。

「どうだった?」

「なんとも言えないですね。怪しいような、怪しくないような……少なくとも父親の正憲CEOって線はないでしょう。やっぱり対立している綿貫家の人間じゃないですか?」

 そのとき岩田刑事のスマホが鳴った。スマホをポケットから取り出して岩田が電話に出る。

「はい、岩田です。ええ、はい、え、そうですか! わかりました。すぐに戻ります」

「うん? どうしました?」

「帝都銀行の防犯カメラを分析している班から、不審な点が見つかったという話だ」

「わかりました。戻りましょう」

 二人の刑事を乗せた車は走り去っていった。


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