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再会

 意識が戻ってから一週間ほど過ぎたころ、体力がまだ戻っていなかった肇はできるだけ運動をしようと、車椅子に乗って病院の庭をよく散歩するようにしていた。恵子が肇に付添って、そばを歩いてくれた。帝都病院の庭には肇以外にもたくさんの患者たちがてもちぶさたにぶらぶら散歩していた。肇が行こうとした方向に一人の男が立ち止まっていた。肇は車椅子をこぎ、通り過ぎようとした。

「御手洗さん」

 男が呼びかけてきた。肇が車椅子をとめ、男をふりかえった。

「はい」

 肇が男の顔を見、全体を見た。あまりきれいとは言えない格好で、口ひげがあった。肇には見たことのない顔だった。

「えーと、どなたでしょうか?」

「意識が戻られてから一ヶ月ですか。最近では記憶もだいぶ戻られたと噂を聞きましたが、私のことは思い出せませんか?」

「……すみません。まだ記憶がまだら状態でして……はっきり思い出せたこともありますが、うろ覚えのものも多くて……」

 男が肇に近づき、恵子に語りかけた。

「奥さまですね?」

「はい。申し訳ありません。主人の記憶がまだあやふやで……どちらさまでいらっしゃいますか?」

 男は名刺入れを右ポケットから取り出し、中から名刺を出し、肇に差し出した。

「週刊『スクープ』の記者をやっています高木と申します。御手洗さんとは何度もお会いしています」

 肇は名刺を見つめたが、名前に記憶はなく、首をかしげた。

「……申し訳ありません。どちらでお会いしたのか、なぜお会いしたのか、まったく記憶にありません」

「そうですか……奥さま、だんなさまを少しお借りしてもよろしいでしょうか? ふたりだけでお話したいことがございまして」

 恵子が不審そうな顔をして肇を見た。肇は警戒しながらうなずいた。恵子が会釈をしてから

「では、病室の中を片付けております」

と言って立ち去った。高木は庭にあったベンチを顔でしゃくってから、肇の車椅子を押し始めた。ベンチのわきに車椅子をとめ、高木はベンチにすわり、ポケットから煙草を取り出し、ライターで火を付けた。近くに灰皿はなかった。

「御手洗さん、本当に私のことを覚えていませんか? 奥さまの前だったから知らないふりをしたんじゃなく」

「……申し訳ないのですが、記憶にありません。うすらぼんやりと、どこかであったような気がしないこともないですが……気のせいかもしれません」

「そうですか……私にも訳がわからないところがあるんです……なぜあのときあの場所にあなたがいたのか……」

 肇はだんだん混乱してきた。

「なにを言っているのかわかりません。あなたとあったことがあるというのは本当なんですか?」

 高木が腰をかがめ肇と面と向き合った。

「いいですか、御手洗さん。あなたは私と何度もあっています。それも去年の夏ころ、そう七月初め頃から、あなたが事故を起こす九月頃までのことです。メールでもなんどもやりとりしているし、そもそも事故を起こしたとき、あなたは御殿場で私と会って、研究所に向かう途中だったんです。あなたが待ち合わせ場所にいつまで待っても現れないからあのときはあきらめましたが……。翌日の新聞を見てびっくりしましたよ。『帝都グループ社長の次男 瀕死の重体』っていうんですから」

「御殿場? 研究所?」

「それからまもなく、意識不明のはずのあなたが研究所で現れたり」

「研究所に私が……」

 肇の記憶の底でなにかが叫び声を上げていたが、頭痛がするばかりだった。


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