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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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7作目 帰る場所

俺とアストラは昨日と同じように森の中をひたすら走り回った。昨日より動きはスムーズに行くものの、やはり一朝一夕で完璧に動けるわけではなく未だにぎこちない動きだった。

倒木や山特有の起伏の激しさと、足場の悪い地面のせいで体に負担がとてつもなくかかった。


「そういえばバルの言ってた男ってなんだったの?」

「俺もみんなみたいに遺物に触れたわけなんだが、そのときになんか意識の中で話しかけられたんだよ」

「ふぅん、少し特別な遺物だったのかな?よっと、川だ。少し休憩してこうぜ」


枝にぶら下がっていたアストラが前に飛び出して、川へ向かった。俺も少し喉が渇いていたところだし少し休憩することにした。

そういえばラーマ見てないな、どこでなにしてるんだ?

川の浅瀬で跪き、水を掬って飲んでいると口元を腕で拭って再びアストラが口を開いた。


「そういえばバルってどんな能力なの?黒い腕が生えただけ?」

「能力、と言われてもピンと来ないな。腕が生えたのはいいことだがカトレアみたいに特別なことが出来るとは思えない」

「え?普通遺物に触ったらなんとなく分かるものなんだけどなぁ」

「そういうものなのか?」


黒い腕をグーパーさせてみても問題なく動くし、他になにか特別なことと言われてもイマイチピンと来ない。隻腕じゃなくなっただけで充分な気がするし、能力が新しく生えたみたいな感覚もない。

そろそろ行こうかとアストラが言った途端、ラーマが俺たちの前に現れる。


「思ったより余裕そうじゃな」

「全っ然余裕じゃないよ」

「全くだ」

「もう少しきつくしても問題なかろう?お主らの周りの魔物を狩るのをやめる。自分の力でどうにかしてくれ」

「え〜、この状態で〜?」

「危なくなったら助けちゃる、それじゃあ頑張れよ」


そう言ってラーマは再び姿を消した。

近くで木の枝が折れる音がした、茂みの中から浅黒い緑色の肌をした俺と同じくらいの背丈の醜悪な怪物が姿を現した。自作の拙い棍棒や、錆びた短剣などを持ち、複数体で行動するその怪物の名前はゴブリン。

人から作物や幸福をかすめ取る、邪悪な魔物だ。


「バル、武器持ってる?」

「持ってないな」

「奇遇だね、オレもだ。1番手前にいるやつの武器を盗もう、先に行くからいい感じに合わせて」

「わかった」


俺たちは武器は持っていない。おまけに重りをつけてるせいで素早く動くことも出来ない。なら取れる択は協力しかない。

アストラが地面を蹴って前方に駆ける、あのときよりも何倍も低い速度だがそれでも普通に走るくらいの速度は出ていた。俺もそれに合わせて前に走り、手前にいる1体以外を見る。

ゴブリンたちが俺たちに気づき、手前のやつが錆びた短剣をアストラに振りかざすが手首を掴み顔に膝蹴りを入れる。

他のゴブリンがアストラに襲いかかろうとしたところを俺が間に挟まることで防ぎ、右のゴブリンを蹴り飛ばすことに成功するが左からの攻撃は間に合わない。なんとか左腕を伸ばして直撃を防ごうとしたところでアストラが奪った短剣を投げ飛ばし、頭部に深々と突き刺さる。すぐさま引き抜き、地面で悶えてる2体のゴブリンの首に短剣を下ろした。

顔にかかった返り血を袖で拭い、俺の方に笑顔で振り返る。あの戦闘で息すら切れていない。反対に俺の方は息も絶え絶えだ。


「すまん、助かった」

「気にしないでいいよ、汚くなっちゃったし少し水を浴びてくるよ」

「あぁ、わかった」


そう言ってアストラは服を着たまま川に入っていった。浅瀬の方に座り込み、服や体に着いた返り血を落とし始める。

俺はゴブリンの死体を少し調べ、武器になりそうなものを回収する。と言っても錆びた短剣が2本と粗雑な棍棒1本くらいで棍棒の方は今持っても負担になるだけだと判断してそのままにし、短剣を2本回収して川に向かった。短剣についてる血を袖で拭くと、人名のようなものが彫ってあった。

おそらく元の持ち主だろう、ゴブリンは人から物を盗むし殺した相手の持ち物を剥ぎ取る。そういう意味では俺は今ゴブリンみたいなことをしてるわけだ。

だれかは分からないしきっと凄惨な殺され方をしたのだろうが少しだけ借りさせてもらおう。

川からアストラが服を絞りながら出てきた。男にこんなことを言うのは少し変だが絵になっていた。

じっと見ていたのを不審に思ったのか、アストラが手を後ろにして首を傾げた。


「どうしたの?」

「いや、なんでもない。これあのゴブリンが持ってた短剣、ないよりマシだろ」

「おう、ありがとな。じゃあ走るかー」

「だな」


結局その後何回か魔物と遭遇したが依然として問題なく動くことが出来た。未だに重りのせいで行動に制限はあるし、疲れやすいことに変わりはないがそれでも昨日より1歩前進していることに間違いはない。

ラーマに今日の分は終了だと言われ、館の扉を開けると既にいい匂いが充満していた。急いで広間に向かうとキッチンではカクエンがボロボロのエプロンを着て調理している最中だった。

地図が貼られた掲示板の前ではエースとカトレアがなにか話していて、カトレアの体になんの後遺症も残ってないことに安堵した。


「おかえり、2人とも」

「ただいま〜、カクエンご飯まだ〜?」

「今作ってんだから少し待てや」


おかえり、か。長い間聞いていないわけではないのに少し目頭が熱くなった。もう姉さんの"おかえり"は聞くことは出来ないけど、言ってくれる人はまだいたんだ。いつか全部終わったら、あの村に行って姉さんの墓を作ろう。そのときに姉さんには"ただいま"と言おう。


「ん?バルバトスくん、新入りのくせに挨拶を無視するのかね?」

「はは、分かってるよエース。ただいま」

「!? みんな〜!!バルバトスが初めて笑ったよ!」

「おいエース、大袈裟だ」


今はここが俺の帰る場所だ。

いつか全部終わらせて"ただいま"と言うからそのときまで少し待っててくれ、姉さん。

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