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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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73作目 幻影

学園内はとにかく広く、どこまでも続いているような錯覚を覚えた。学年ごとに階数が決まっており、どこの階も人通りは少なくない。

勇者がどこにいるか気になって探し続けたがどこにも見当たらなく、2年生に聞いてみたが「特待クラスは別の階で特別に区切られてるから承認がないと他クラスは入れない」と言われた。去年は例年と違い、勇者と聖女というビッグネームが入ったことで校内は大きな騒ぎになったそうだ。それのせいで全ての学年の特待クラスを移動させ、教師、または特待生本人の承認がなければ立ち入ることすら不可能だった。

実際にその階層に向かったが、階段を登って一定のエリアに足を踏み入れると体がピシャリと止まって足を前に進めなかった。原理は不明だが、この世の理解し難い現象は大概魔法か異能で説明が着く。理解できないのは俺の勉強不足だ。この先、この14段目の階段さえ越えれれば俺は勇者の顔を見れたんだが。

いや、焦る必要は無い。あくまで授業でたまに顔を合わせるなんの関連性もない生徒ひとりになるのが今回の任務で重要な点だ。少し功を急ぎすぎた。

俺はその14段目の先にある空間を少しだけ見つめたあと、振り返って降りようとしたタイミングで後ろから声がした。


「…おや?バルさんではないですか」


凛と通る声、その内向そうな顔からは想像もできないよく通るハキハキとした声が俺の背中を突き刺した。ゆっくりと振り返るとメイがひとりで立っており、聖女がいないことに一安心して返事を返す。会話は最小限に、かつ違和感なく。


「メイか、奇遇だな」

「特待区域になにか御用でしょうか?試験のよしみですし、承認しましょうか?」


彼女が「承認」という単語を発すると先程まで進めそうになかった空気の圧というものが一気に抜ける感覚がした。

俺はこの先にいるであろう勇者の顔を一目見たい、それは明確な復讐対象であり、俺が生きる意味そのものだ。けれどここで奥に入り込むリスクは今は取るべきではない。必要なのは冷静な判断と選択を誤らない正常な思考だ、俺はここで先に進むべきではない。


「いや、少し迷っただけだから気にしなくていい」

「そうですか、それでは私はこれで」

「あぁ、すまなかった」


メイがこちらに背を向けて歩き始める音が廊下に響いたあと、再び先に進めなくなる圧力のようなものを感じ始めた。俺はその場で大きく深呼吸し、階段を下りる。

学園内での理想の立ち回りは授業でたまに顔を合わせる生徒のひとりに徹することだ、深く勇者と関わる必要も意味もない。メイは聖女の従者であると見ていい、ならば余計にこれ以上関わるべきではない。

帰宅する生徒たちの中に混ざり、俺はゆっくりと帰路に着いた。購買で購入した大量の教科書はカバンを圧迫し、僅かに重みが気になった。

帰り道の途中、街中がやけに騒がしいことに気がついた。どうやらドラゴンの調査が終わったようで素材収集や生態調査を終えた人達が帰ってきたようだ。馬車の積荷には剥ぎ取られたドラゴンの鱗や牙が詰め込まれており、赤黒い血で染まった布で包まれていた。

アストラが話したとされる、知恵を持ち会話するヴェルドナというドラゴンが素材として、モノとして無造作に詰め込まれている状況に少しだけ不快感を覚えた。魔物は魔物、所詮は人に害を及ぼす邪悪な獣であることに変わりはないのだろうが人の言葉を介し、アストラが固執した友人になり得たかもしれないその生物に俺は1人黙祷を捧げた。

祈りの形式はデタラメで、教会の作法なんてものも知りはしないがそれでもしたくなった。ただ両手を合わせて目を閉じた。

家に帰り、扉を開けるとカトレアが地下の自室から上がって出てきた。


「おかえり、学校はどうだった?」

「学園長がエルフだった、それ以外は特段何も」

「そう、あたしは少しやることがあるから申し訳ないけどご飯はどこかで食べてきて貰えるかな?」

「そうか、分かった」

「ごめんね」


そう言ってカトレアは再び自室に戻って行った。手袋を付けていたところを見るになにか作業中だったのだろう。俺は階段を上がり部屋の机にカバンを置いた。若干薄暗い部屋の中に重たい音が響いて、俺はベッドに倒れた。ネクタイを軽く緩めながら天井を見上げ、夕食をどこでとるか考えながら、並列して学園でのポジションをどこに落ち着けるべきか考えていた。


「別に普通でいいんじゃない?」

「オレたちは平民出身ってことだし、下手に前に出すぎると要らない反感を買うかも」


あぁ、そうだな。一歩下がって俯瞰して学園内を見れた方がいい、他の連中は貴族意識が高いから身分は障害になり得るだろうし、その方がいい。


「晩飯は…んー、やっぱ肉じゃない?」

「長話聞いて疲れたしガッツリ行きたいよねぇ…」


俺は疲れた時にはサッパリしたものが行きたくなるタイプなんだが…まぁアストラが言うならそうするか。

そこで俺はふと思考を止めた、慌ててベッドから飛び跳ねて周囲を確認する。しかし先程まで俺が感じていたアストラの気配や声は霧散してどこにもいない。

俺はどこまでアストラに依存するつもりだ…?姉さんを失った時ですら幻影なんて見もしなかったのに、やはりどこか不調だ。今朝もそうだったが、俺は少し変になっているのかもしれないな。

刀を手に持って制服の帯に差し込み、俺は家を出た。夕飯はまだ決まっていない。

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