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6作目 時間の前借り

次の日目が覚めると全身が動かないほどに鋭い痛みが走った。内側からえぐられるような硬直した痛みだ。

なにかされたかと思い、なんとか痛みのない左腕を使って上半身を起こして体を見てみるがなにも異常はない。


「おはようさん、飯の時間だよ」

「カトレア…俺の体に何かしたか…?」

「いや?"いたずら"されたのは初めてか?」


なんのことだ?そういえば昨日2人が妖精のいたずらがどうとか言っていたが…

まさか本当に妖精に体をいじられたか?


「必要以上に体を動かしたり、過度な特訓をすると見兼ねた妖精がいたずらをしてくるっていう…まぁ迷信だ。筋肉の過剰使用による損傷…言わば筋肉痛だね」

「…治せるか?今すぐにでも稽古にいかなくちゃならないんだ。回復魔法でなんとかならないか?」

「私は回復魔法なんか使えないよ、とうの昔に使えなくなった。それに筋肉痛のときは極力動かない方がいい」


カトレアが回復魔法を使えない?

それは変な話だ、じゃなきゃ俺のあの傷を治すことはできない。それに動かない方がいいって言われても…


「俺には時間がないんだ、回復魔法を使える使えないはどうでもいいんだ。さっき否定しなかったってことはどうにかできるんだろう?」

「変なところで察しがいいね。まぁ結論から言えばできる、ただ死ぬほど痛いよ?」

「構わない、頼む」

「医者としては正直、3人を殴ってでも止めるべきなんだけどね」


大きく煙を吐き出し、カトレアは袖を捲った。

緑色の瞳が黄色に代わり、髪が少し逆立った。あのときの勇者のような大きい魔力の奔流が部屋の中に渦巻いていた。

彼女の背後に獅子の紋様が刻まれた時計が一瞬見え、短針が僅かに震えていた。彼女は俺を指差し、1日と呟くと短針がずれた。刹那、圧縮したような濃密な痛みが俺を襲った。先程までの筋肉痛とは比にならない程の痛みに意識を失いそうになるが何度も気絶してる場合では無い。

姉が殺された瞬間を何度も思いだし、ループさせて怒りで我を保った。俺の絶叫が部屋の中で木霊した。

無限に思えるような時間痛みを堪えていたがほんの少ししたあと痛みは嘘のように消えていった。


「…この痛みでよく泣かなかったね」

「はぁ…はぁ…泣いてる場合…じゃない…」

「あたしも少し疲れた…カクエン!カクエーン!」


カトレアはその場から1歩も動かずにカクエンの名前を叫んだ。元々扉の前にいたのかすぐに現れて彼女のポケットをまさぐった。1本の煙草を取り出して咥えさせ、火をつけた。


「姐さん、また使ったんですか」

「しょうがないさ、みんな本気だ。すまないけど2時間ほどあたしの介護頼むよ、カクエン」

「この短時間で2人のダメージ肩代わりしたんですからゆっくり休んでください」

「あぁ、そうするよ。じゃ、いつも通りおぶってくれよ」


肩代わり?どういうことだ。

カトレアをよく見ると震えていた。目立った外傷は見えないがまるで自分もその痛みを味わったかのような発言をしていた。


「色々聞きたいだろうけどあたし以外に聞いてくれよ、カクエンの飯が冷めてしまう」

「姐さんが言ってくれればいつでも作りたて出しますけどね。ほらバルバトス、行くぞ。もう痛みはねぇだろ」


呆気にとられていたが呼ばれたためとりあえず朝飯を食べることにした。広間に行くとアストラとラーマ以外は既に庭に出ているようで、鈍い音が響いていた。全員と挨拶を交わし、朝飯に手をつけた。

食べている間もずっと考えていた。痛みは消えているし僅かだが付けている重しが軽く感じる。

なにをしたのか分からないし気になるが、本人が他に聞けと言った以上本人に聞くわけにもいかない。

2人と言っていたからもう片方はおそらくアストラなのだろう。稽古の時に聞いてみよう。

早急に食べ終え、カトレアに礼を言って俺は庭に出た。外では2人が徒手格闘をしており、これが響いていた打撃音の正体なのだろうと察しが着いた。


「中断じゃ、バルバトスが来たようじゃぞ」

「押忍、おはようバル。その様子じゃカトレアが助けてくれたみたいだね」

「あ、あぁおはようアストラ、ラーマ。単刀直入に聞くんだがカトレアのアレはなんなんだ?」


ラーマとアストラは迷ったような素振りを見せたあと答えた。


「少し説明が難しいんじゃが、時間を進める能力じゃったはず」

「そう!能力!バルも遺物に触れたんでしょ?オレたちはみんなそうなんだよ」

「じゃあお前らもあの男に出会ったのか?」

「男?なに言ってるの、誰にも出会わなかったよ」

「きっと特別な遺物だったってことじゃな」

「そもそも遺物ってなんなんだ?俺は見た事も聞いたこともない」

「太古の時代から残ってるものじゃ、大抵良からぬ噂や曰くが付いてるもんじゃが稀に世界を変えうる力を秘めてるものじゃ」


太古の時代から残ってるものか。あの男(バルバトス)も昔の人なのか?まぁよく分からないが代償つきの力みたいなものだろう。


「で、カトレアが遺物に触れて手にした力が時間を進める能力ってわけじゃ」

「ただし進めた分の時間と本来受けるはずだった分の痛みとかそういうものが凝縮して自分に返ってくるんだよ」

「そうか…それは申し訳ないことをしたな…」

「ならその分戦って貢献すればいい、得意不得意は誰もが持っとるものじゃ。それを分担できるのが仲間ってもんじゃろ。それじゃあまた走ってこい」

「えぇ〜、今日もかよぉ〜」

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