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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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60作目 潰える

風邪でダウンしてました。

季節の変わり目ですし皆さんも気をつけてくださいね。

咆哮の元へひたすらに走った。距離はさほど遠くは無いが近づくほどに爆発音や斬撃音が大きくなり、嫌な気配が強まっていくのを肌で実感していく。漆黒になりつつある深い紺色の空の元、音の発生源に辿り着くとそこでは錆色の鱗を纏った四足のドラゴンが、翼を幾度も翻しながらひとりの男と戦っていた。ボサボサの黒い髪を揺らしながら、無精髭の男はただ冷たい目で見上げながら静かに問うた。


「なぜ庇う、()()がお前らのなんなんだ?」


藍色の刀を向けた先はドラゴンではなくさらに奥、木の麓に項垂れているアストラだった。今の今まで全く気が付かなかったこと微かな違和感を覚えたがその光景を目の当たりにした途端に血が灼熱のように沸騰する感覚がしてどうでもよくなった。

"沈黙(サイレンス)"は使わないようにと念を押されて釘を刺されていたのにも関わらず、俺はすぐさまに異能を行使した。ただレイズの刀に滴ってる血の正体が分かった以上、理性は飛びかけていた。

奥歯を噛み締めて、考えうる中で最も火力の高い"鬼葬の猟犬(エクセハウンド)"を発動する。長く細く引き伸ばされた弾丸を俺の周りに12発全て展開し、追うこともしないただ貫くために特化した弾丸を放った。確実に当たる軌道、バレていないはずの角度、だというのにレイズは一瞬で俺の方を見て11発を叩き落とし、最後の1発も微かに頬を掠めただけだった。鮮血が頬を滴り、鋭い眼光で俺のいた方を見据えるがそこにもう俺はいない。

迫り来る弾丸から僅かに離れた場所からの挟撃、一人二役をこなせるのが俺の異能の強みだ。

俺は横から刀を振り絞り、脳の中では貴族流の技を放とうとした。しかし何度も練習した貴族流の技よりも、俺の体は別の技を選択していた。ただ刀を引き抜き、横に薙ぎ払うだけの技。流派は知らない、技名も覚えがない。ただえらく洗練されたようにも、染み付いたようにも感じたその技は今まで放った剣術の中でも最高の出来だったはずだった。

揺らめく炎の中で、火花が散った。いつの間にか逆手に持ち替えていたレイズの刀は俺の攻撃の軌道を完璧に読み切り、加速した横薙を防いだ。


「誰だお前?あいつの仲間か?」

「アストラに何をした!!」

「…? 今なんて言ったんだ?」


口が滑った、と思った。怒りの中で何も考えずただ衝動に任せて攻撃し、挙句の果てに仲間の情報を敵の前で言ってしまった。レイズは既に俺たちのことを知っている。

しかしレイズの反応は予想とは打って変わって、俺の声自体が聞き取れないような理解できない顔をしていた。


「お前は今なんという単語を喋った?話せ」


刀を左手から右手に持ち替え、順手に持ち直して再び刀を振り上げようとする。揺らめく炎に囲まれて漆黒の闇の中でほの暗く光り、刹那に走馬灯が過ぎる。圧縮された時間の中で俺の回避、迎撃、全ての行動が剣戟に乗った"死"の重圧によって無意味だと悟る。無意味だと知りながらただ本能で左腕を前に出す。

俺たちの間に1つの大きな炎が通り過ぎる。微かな熱が一瞬通り過ぎたあと、炎を吐き出した主はゆっくりと喉を鳴らす。暴虐の王は闇の中で鈍く眼光を光らせながらレイズを見据える。縦長の瞳孔が標的を捉え、再び炎のブレスを吐き出す。


「チッ…!」


レイズは吐き出された炎に対してただ刀を地面に突き刺し、空間が歪む。捻れた空間は炎を歪に変容させ、刀を中心に二股に分かれる。左右に分裂した炎が大地を焦がし、木々を燃やし尽くした。

あの力に若干の見覚えがあるように感じた、人外の力、遺物の力、過去にありふれていたであろう力の化身が現代に蘇り再びその力を振るわんと人間に入り込む異能の力を。


「お前らなんなんだ…なんなんだよ…なんでドラゴンはこの街を狙うんだ、これで二回目だぞ。なんの恨みがあるってんだよ…」


藍色の刀を地面から抜き取り、伸びきったボサボサの髪が揺れた。その隙間から見える瞳には戸惑い、怒り、悲しみの色が見て取れた。

頭を無作為に掻き回し、嗚咽を堪えた声で怒号を放つ。


「俺たちが…あいつらがお前らに何をしたんだよ…魔力と死体から生まれただけの魔物風情が人の営みを壊すんじゃねぇよ!!!」


荒れた声で無造作に刀を地面に投げて突き刺し、地面が揺れた。石が浮かび上がり、風が啼いた。額に青筋を浮かべて、血走って瞳孔が開いていた目で俺とドラゴンを見た。

ゆっくりと口を開き、冷たい声で技の名を発する。


「"転睛(テンセイ)"」


紫色のオーラがレイズの周りを纏い始め、再び空間が捻れて歪む。地面が割れ始め、視界の端で大木が半回転したように思えた刹那、ひしゃげて壊れたのを捉えた。

すぐさまアストラの元へ走る。真っ直ぐ走ってるはずなのに上手く進めない中、なんとかアストラの元まで辿り着き、アストラを抱えて更に奥へと走る。後ろを確認するとドラゴンはその場から動かず、ブレスを吐き続けるがその全てが渦を巻いて直撃しない。前腕を前に出し、屈強で鋭利な爪で抗うも紫色のオーラに飲み込まれ、ぐにゃりと曲がって小枝のように体が折れ始め、骨と鱗の軋む音が微かにしたあとトマトのように赤い液体を撒き散らしながら肉の塊になった。

ひたすら前を向いて走り続けた、幸いなことにレイズはおってきている様子はない。彼が言っていたことがひたすらに脳裏に過ぎる。

ドラゴンが来たのが二回目、この街になんの価値もなければ人の密集地である場所を俺を庇ったドラゴンが狙うはずもない…嫌な記憶が蘇った。


「ドラゴンが出て大変ですね…か」


レイズになにがあったのかは分からないが粗方想像は出来た。なにはともあれアストラは無事だ、ジャックがどこに行ったのかは分からないしあそこで何があったのかも俺は分からない。幸いなことに目立った外傷はない、頭から微かに血を流しているが軽く打っただけだろう。

森の奥まで突き進み、耳の奥に残る喧騒が聞こえなくなってきたあたりで俺の腕の中でアストラが動いた。目蓋を振るわせ、半目開きで俺を見る。


「…バ…ル?」

「あぁ、そうだ。無事か?」

「オレは…へいき…あのドラゴンは…?」

「ドラゴンは死んだ…目覚めたばかりで悪いがそこも含めて教えてくれ」

「そっか…」


落ち着ける草葉の陰に隠れ、柔らかい地面の上に座らせて木に寄りかからせる。アストラはそこからポツポツと俺がいない間に起きた出来事を話し始める。

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