55作目 合間の休憩
終了のチャイムが鳴り、教室内の音はピタリと止んだ。試験の内容は思ったより簡単でエースから教えてもらったことを覚えていれば問題なく解くことができる。休憩時間を過ごしたあとに魔法の筆記試験があり、成り立ちや各行、属性の特徴などの問題を丁寧に記入して解いていく。これくらいであればなんの問題もない、テンポよく答えを書き込んでいきペンがリズム良く走っていく感覚は心地よかった。
ほどなくして魔法の筆記試験も終わり、教師に紙を戻す。
「はいお疲れさん、昼休憩のあとは実技試験があるからそれまでゆっくり休んでくれ。学食も利用してもらって構わない、では解散」
教師が教室を後にし扉を閉めた直後に一斉に椅子を引く音や昼食の予定を取りつける声などが反響し始める。窓の外からグラウンドの様子を注視するとでこぼこになった地面を直している教師や少しの傷がついたマトのようなものを片付けている教師などしか見当たらなくアストラやその他の受験生の様子は見られなかった。
おそらく彼も昼食を取りに食堂に向かうだろう、ポケットの中にはカトレアから渡された昼食代にするには十分過ぎるほどの金が入った袋が入っている。アストラの背は低いから人混みの中では見つけにくい、俺も早めに向かわなくてはならないな。そう思って席を立つと前の席に座っている女性がじっと見つめてくる。
「…なんだ」
「学食に向かうんですか?」
「そうだ」
「もしよろしければ私もご一緒してもいいですか?」
「無理だ、それではな」
何を言い出すかと思えば昼飯の誘いだったが残念だが無理な相談だ。アストラと試験の話をしなければならない。階段を下りて1階にある校内地図を見ると第一と第二のふたつ食堂があることに気が付く。なんとなく第一食堂に向かうと扉の前に綺麗な学校には似つかわしくないやや使い古されたであろう鎧を纏った人物が壁に寄りかかり腕を組んで立っていた。通り抜けようとすると俺の番号を見たのか手を正面に出して制止する。
「399番、これより先は立ち入り禁止だ」
「なんでだ?理由を説明してもらいたい」
「内容漏洩防止のためだ、魔力の消費や肉体の疲労などを考慮して実技試験を受けた者にのみ第一食堂の利用が許可される。筆記を受けた者は第二を利用してくれ」
「分かった、案内感謝する」
これではアストラと話すことも出来ないが当然といえば当然だった。普通に考えればすぐに分かることだったがこんな簡単な見落としを見つけられないのであれば筆記の方はマズイかもしれないな。答えに自信はあるが問題内容を間違えて解釈した可能性もある。
それにあの冒険者が首からぶら下げていた識別用のプレートにはA級と書かれていた。騎士やラーマと比べると弱いだろうがそれでもそれなりに強そうだった、上から2番目というだけあって自分の腕に対する自身のようなものを感じた。それにA級冒険者を雇う学校側の豊富な資金は流石だ。
振り返って長い廊下を進み、再び階段を上る。第二は第一と比べてやや規模が小さく、それのせいで中は人でいっぱいだった。こちらも扉の前に冒険者が立っており、俺のプレートを確認して問題ないと思ったのか何も言わなかった。
中に入って入口に置いてあったトレーを持って長い列に並び、10分ほど待つと自分の番がやってきた。料理を盛られた皿を適当に取り、会計を済ませる。人と話さなくていい分スムーズに進むし何より楽だった。
肉料理とサラダが載ったトレーを持って席を探すが食堂内をぐるりと回って歩き回るがどこにも空きは見当たらなかった。しょうがないので空きが出来るまで立って待とうとすると横から聞き覚えのある声がした。口いっぱいにパンを詰め込みながら俺に話しかけてきたのは前の席にいた受験番号398番の女だった。
「席、見当たらないんですね」
「あぁ、失敗した。お前は座れる席あるのか?」
「一応ありますよ、もう一人分の席も。座りますか?」
「いいか?先程断った手前申し訳ないが」
「いいですよ、貸しひとつです」
「そうか、助かる」
398番の前に座り、肉料理にフォークを突き刺して口に放り込む。若干冷めてるがそこそこ美味い。
周囲の喧騒とは違い、俺と398番の席は静かなものだった。気まずい沈黙を破ったのは向こうからだった。
「399番はなんで受験したんですか?」
「ここを卒業すれば義理の母の生活を楽にできるからだ」
「ほう、それはご立派ですね」
当然ノートに書いてあった嘘だが、もしあのノート通りの人生を歩むことになったとしても俺は同じように答える気がする。姉さんがいた頃は常に一緒に暮らせればいいと思っていたが日常を守るのには力がいると気がついたからだろう。
「398番はなんでだ?」
「うーん、命令ですかね」
「命令?」
「そうです、命令です。詳しくは合格したら分かりますよ」
「そうか、目指してるクラスはあるのか?」
「特待にならなくてはならないんですよね、一個上に勇者様がいるので楽しみです」
「そうか」
「貴方はどこを?」
「Aだな」
「そうですか、頑張ってください」
どうも目の前にいる398番は勇者が好きみたいだった。まぁ398番以外でも基本勇者のことは好きだろうな、勇者の裏を知っている人物は稀だ。知れば殺されるし、殺戮を終えたあと勇者はドラゴンのせいにする。
そういえばドラゴンは魔物の中でも比較的温厚で知恵があると言われているが勇者のことをどう思っているのだろうか。もし知ったら人里に降りてきたり御伽噺のように国を燃やしたりするのだろうか。
物思いにふけりながら食事を済ませて、しばらく待っていると再びチャイムが鳴る。案内されるままにグラウンドに向かい、待機の指示が出された。ほどなくして大きな杖を持った年老いた教師が見えた。その老婆が出てくると周囲の受験生が少しだけ声を漏らす。
それは憧れや尊敬が入り交じった声色で、おそらく有名な魔法使いなのだろう。保有魔力量など高価な道具がなければ測定できないし、どこまで出来るやつなのかは分からない。
「受験生のみなさんこんにちは、本校の学食のお味は如何でしたかな。最初で最後の学食になる方もいらっしゃるのできちんと味わいましたか?さて、早速ですが魔法の実技試験に移ります。私の後ろをご覧下さい」
老婆の後ろには等間隔で配置されたマトが奥に配置されており、老婆付近に白線が引いてあった。
「ここからあのマトに向かって魔法を放ってもらいます。放つ前に試験官であるこちらの教師に受験番号と使える属性、使用可能行数を教えてください。では1番の方から始めてください」
老婆は俺たちの前からいなくなり、やや離れた椅子に腰かける。そうして実技試験が始まった。




