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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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52作目 深紅

「そういえばあの騎士が言っていた"深紅の双星"ってなんなんだ?」


目の前でパチパチと弾ける焚き火を囲い、買い溜めていた干し肉を焼きながら俺は目の前にいるカトレアに尋ねた。真っ暗な森の中で唯一の灯りである炎を吸い込んだ赤い髪を揺らしながら、カトレアは返答する。


「前に神聖国にいた魔法使いのことだ」

「へぇ〜、それがカトレアに似てたんだ」

「あの騎士はそう言っていた」

「もう死んでいるけどね、天才は短命が世の常だよ」


木の枝に刺して軽く炙った干し肉を齧りながら焚き火をゆっくり眺めていた。それ以上は踏み込めないような、なんとなく聞けないような感じがして俺は口を閉ざした。


「魔法は万能じゃない、2人とも知ってるだろうけど肝に銘じておきなよ」

「オレたちが魔法をあんまり使わないの知ってるでしょ?」

「第一俺には魔力がないしな」

「なんにせよ、ひとつのものに頼りすぎるのは良くないって話だよ。あとは、そうだね。信用と信頼はしてもいいけど信仰はするなよ、神頼みなんか今更流行らない」

「ミストレアでそれ言うのは根性あるね」

「はは、全くだね」


僅かばかりに微笑みながらカトレアは食事を終え、煙草に火をつける。大きく煙を吸い込んで、炎の中に消えていった。立ち上る煙と火の粉が暗闇の夜空に霧散した。あっという間に1本吸い終え、カバンから大きな布を取り出して包まって横になった。


「とりあえずミストレアはついたけどさ、どれくらい監視を続ければいいんだろう」

「さあな、卒業するまでだと仮定すると4年、下手したらそれ以上だ」

「なっっが、オレもうその時には19歳だよ??」

「俺もだ、想像つかないな」

「へへ、そっか。けど勇者に会ってオレたち堪えれるかなぁ」

「断定はできない、けど間違いなく殺したくなるだろうな」

「それはそうだよ、みんな殺したいからね。バルがまた暴れたらそのときはオレが止めるよ」

「ならアストラが暴れたときは俺が止めよう」

「そうだね」


そこで会話は打ち止め、俺とアストラで交代しながら朝を迎えた。春とはいえ夜と朝はまだまだ厳しい寒さが残っている、熱を繋ぎ止めてくれた焚き火に上から土を被せて消して西に向かって更に歩いた。

道中で遭遇する魔物を倒し、周囲を警戒しながら迅速に進み、何度めかの宵越しをしたあと遠くに大きな城壁が見えた。壁内には大きな建物が散見され、レント北部都市のそれとは比べ物にならないほどの大きな街だった。試験の日が近づいているからなのか城壁の外にはとぐろを巻いた長蛇の列がほぼ無限に思えるかのように続いていた。人だけではなく、馬車や牛など本当に様々なものが列に加わっていた。

何とか列を並びきり、何度目かの審査を終えて街に入る。レンガ造りの建物や木造の建物が坂の向こうまで続いていて、街の中には同じ服を着た人たちが散見された。馬車は道を走り、人々が笑いながら歩き、大声で客寄せする商人がいて冒険者のような人々がいて多種多様な音がした。中央に向かって伸びる大きな道の先には更に城壁があり、その中におそらく魔法学園がある。姉さんを殺したクソ野郎が、あの場所にいる。緊張はない、あったかもしれないがそれら全てを上塗りする怒りと憎悪が内側に渦巻いていた。どれほど眺めていたか分からないが後ろからアストラに軽く小突かれ、「置いていくよ」と言われた。

地図を見ながら街の奥に進み、大通を外れて脇道に入り、坂を上って階段を降りて、そうやって歩き続けると一軒のレンガ造りの家が見える。庭はそこそこ広く、ツタが生い茂った門が周囲をぐるっと囲っていた。なんだか陰鬱とした雰囲気を纏っている門をくぐり、家の鍵を開ける。

中は綺麗に整頓されていて埃一つなかった、扉を開けてすぐのリビングにはソファや食卓、空の本棚がありキッチンには食器や調理器具が並べられていた。氷室は見当たらなかった、中に入っているキンキンの水がとても美味しかったから残念だ。

アストラははしゃぎながらリビングをかけまわり、扉を閉めたカトレアが鍵を壁にかける。


「奥にある扉を開けて階段を上ったら部屋が二つあるから、好きな方を使いな。あたしは地下に行くから、とりあえず荷物を置いて今日はご飯でも行こう」

「やったー!!!!」


アストラは目にも止まらぬ、ほどではないがそこそこ素早く階段を駆け上がり大きな足音が家に響いた。困ったように笑いながらカトレアもそれに着いていき地下に降りていった。

ゆっくりと軋む階段を登り切るとアストラが腰に手を当ててふふんと鼻息を鳴らした。


「オレが左!バルが右ね!」

「館のときと同じか、分かった」

「それじゃあね!またあとで!」

「あぁ」


騒がしいアストラと別れて部屋の扉を開ける。中は館と同じような内装だった。机の上に外した手袋とカバンを置き、刀を置いてコートを空のクローゼットに仕舞った。ベッドに倒れ込むと微かに埃が舞うがそれ以上に柔らかいものに包まれる感覚が気持ちよくてうっかり寝てしまいそうになる。不思議な匂いがする柔らかいベッドの誘惑をなんとか振り切り、立ち上がって軽く伸びる。ベッドの近くにある大きな窓からは庭の様子や街の様子が一望できた。周囲も似たような造りの家が多く、若干大通りから離れているから目立たない。何個も点在する共同の井戸では走り回る子供が数人と世間話をしている母親が見えた。窓を開けて軽く換気をして部屋を後にした。

階段を降りてリビングに戻り、ソファに座って天井を眺めてぼーっとしていた。目的地にはひとまず辿り着けた、みんなで対策したから試験もまず間違いなく合格できるだろう。道中トラブルもあったがとりあえず全員無事だ、手で顔を覆って大きくため息を吐いた。

少ししてカトレアとアストラもリビングに戻ってきた、大きな荷物を置いたおかげで久々に身軽だった。


「じゃあ、ご飯行こうか」

「やったやったー!」

「あぁ、行こう」


夕焼けが街を照らしていて、開けた扉からオレンジ色の光が差し込んだ。とりあえず大きなヤマを越えた、仲間と少しだけの休息を今は楽しみたい。

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