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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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47作目 ミストレアまでの旅路③

暗い夜空の下にいくつも点在する街灯の中で、俺とアストラは人混みの中を歩いた。道の広さに余裕はあれど、活気づいている人波は溢れていた。冒険者の集団らしき人物が重たそうな皮袋を持って飲み屋に入っていく様子や、商人が店仕舞いをしている様子など生活が視界に入った。

魔物の討伐や巣の壊滅、ごみ拾いからペット探しまで冒険者の仕事内容は多岐にわたる。命の危険が伴うから絶対になっちゃダメだと姉に口酸っぱく言われていたのを思い出した。冒険者は腕の強さで収入が変わる、特別な審査も要らなければ仮の身分証までも手に入るため冒険者ギルドと呼ばれている建物の周りは少し治安が悪い。

アストラが目をつけたという店は豪華絢爛とは言い難く、けれど汚いわけでもない丁度いい外観だった。窓から美味しいものを食べている人の笑顔が溢れていた。扉を開くと来店を知らせるベルが鳴り、忙しそうに動き回る給仕が俺たちを適当な席へ案内する。やや椅子が高いカウンター席に座る。


「はぁ〜疲れた、ちょっと足が痛いや」

「だな、あんまり寝てないからか目も痛む」

「そうだねぇ…あ、すいませーん」


アストラが手を上げ、給仕を呼び寄せる。牛肉のステーキとパン、飲み物を適当に注文する。先程から欠伸がずっと止まなかった、アストラも同じなようで目尻には涙が浮かんでいた。


「ノートにもう目は通した?」

「暇なときにな、もう大体覚えた」

「えぇ〜、流石だなぁ。オレは全然覚えれる気がしないよ」

「時間はたっぷりあるし大丈夫だろ」

「まあね、必要なのは覚えてるよ。バルが弟ってこと」

「今だけだ、アストラが兄なのは」

「寂しいこと言うなよ〜」


俺の頬を指で何度もつつく、やや冷たい指先がくすぐったかった。ほどなくして注文した食べ物が届く。もうとっくに使い慣れたナイフを用いて細かく切り取り、口に運ぶと酸味のあるソースに肉がよく絡んでいて美味しかった。ただカクエンが作ったものと比べれば少し物足りない。アストラも同じ気持ちだったようで口に含むと少しガッカリしたような顔になった。


「…カクエンの料理が恋しい」

「そうだな、ここのも美味いがそのせいで余計にカクエンの手料理が恋しい」

「保存食の干し肉ばっかだったしね、おかげで我慢できたけど…」


それでもやはり美味しいものは美味しく、あっという間に俺たちは皿を空にした。会計は一人銅貨8枚とそこそこ値は張ったが値段相応の美味さだった。礼を言って外に出るとより空気が冷たくなっており、指先が冷えた。腹も膨れ、眠気が強くなったのか店先でアストラが大きく伸び、うめき声にも似たため息をこぼした。少し数が減った人混みの中に混ざり、宿に向かっている途中やや不自然な足音が聞こえる。


「誰かついてきてるね、どうする?素人っぽいけど」

「とはいえ警戒はしておこう、路地裏行くか」

「おっけー」


フードを被り、気取られないように隠れて耳元に囁く。足音から察するに数は3人くらいで乱暴な歩き方だ、焦っているような早足でかつバレないようになんとか慎重さを取り繕っている。街灯の光が差し込むほの暗い路地裏に入る、ゴミの臭気が溢れ、鼻を刺激する。


「おいガキ、殺されたくなかったら金出せ」


カクエンと同じか、それ以上に高い体躯に筋骨隆々の男が俺たちの後ろから声をかけてくる。目つきは鋭く、顔には大きな切り傷があった。後ろにはそれよりやや小さい男が2人、ニヤついた笑みを浮かべていた。

周囲を警戒するがこの男たち意外に誰かいる訳でもなく、計画的な犯行というわけでもなさそうだった。


「兄貴、こいつら貴族のガキに違いないっすよ」

「ただのガキがスーツなんか着てるわけねぇ、護衛もつけずにガキだけなんて狙ってくれって言ってるようなもんだぜ」


ケラケラと笑い立て、ナイフを俺たちに向ける。なるほど、いつかアラクネが言っていたスーツだと目立ったり絡まれたりするというのはこういう事だったのか。ネクタイを締め直し、気持ちを切り替える。

周囲にはこの男たちしかいないが、警戒しない理由にはならない。騒ぎを起こせば衛兵、最悪出張っている騎士に鉢会うかもしれない。俺がゆっくりと手を振り、バレないように弾を生成していると暗闇に蒼白い光が起こる。

アストラが一瞬にして後ろの2人の顎を殴り、即座に気絶をさせる。


「…は?」


先程まで鋭い目つきだった男が唖然としたように状況を呑み込めていない様子で目を見開いていた。無警戒で飛び出すのは想定外だったが、結果的には俺の杞憂に済みそうだった。ゆっくりと短剣を男の首元に当て、囁くようにアストラは呟いた。


「君は何も見なかったし何もされなかった、飲みすぎで倒れた仲間を介抱していただけだ」

「な、何言って…」

「二度は言わない、分かったか?」


短剣を少しだけ食い込ませ、一筋の血が流れた。痛みと恐怖で男は何度も「分かった!分かった!」と叫んだ。衛兵や騎士が近づいている様子もない、男の叫びは暗闇に吸い込まれて雑踏を踏む人々はなんの関心も示さなかった。


「…なら良かった」


短剣に着いた血を振り払い、鞘に収めた。男は腰が抜けたのかその場に座り込み、震えていた。アストラは先ほどまでの冷たい視線とは打って変わって少し微笑み、「戻ろうよ」と言った。

路地裏から明るい人混みに戻り、俺たちは宿に戻った。愛想の悪い店主から鍵を受け取り、部屋に戻った。真っ暗な部屋の中ではカトレアが身体を丸めてベッドの上で眠っている、時々うなされているのか声を漏らしていた。


「無警戒に突っ込みすぎじゃないか?」

「バルは慎重すぎなんだよ、ただのチンピラに」

「力を隠している手練だったらどうするつもりだ」

「そんなわけないし、例えそうだったとしてもバルがいたじゃん」


そう言ってネクタイを緩め、ローブとジャケットをハンガーにかける。俺も机の上に剣を置くとアストラからハンガーを渡される。


「勇気、献身、自身だぜ、弟よ」

「なんだそれ」

「剣士の三つの心得、覚えといた方がいいよ」

「俺は剣士じゃない」


急にキリッと目元を釣りあげながら堂々とハンガーを渡してきて弟と呼んでくるものだからついおかしくて笑みがこぼれる。もうひとつの小さなベッドに倒れ込むとやや埃っぽく、固かった。

アストラと背中合わせで俺たちはあっという間に眠りについた。

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