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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
魔法学園編

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44作目 出発

身体に残る痛みが徐々に消えていく感覚で目が覚める。切り傷が出来たところには包帯が巻かれ、制服も新しいのに取り替えられていた。ベッドではなく広間のソファに俺が座っていて、その周りにはアストラとラーマ以外が揃っていた。煙草をひとくち含みながらカトレアが口を開く。


「任務の前だってのに随分派手に戦ったね」

「…! 今何時だ」

「まだお昼前、2時間くらいしか気絶してない。凄まじい回復力だね」


そう言って煙を吐き出しながらカトレアは笑う。この全身の痛みが僅かほども残っていない感覚は見覚えがあった。


「すまん、異能を使わせて」

「いいよ、別に気にしてないから。命に別状がなくてよかった」

「そうか…すまなかった…」


本気で謝罪をして頭を下げたあと何も言わずに頭をポンポンと2回軽く叩いた。そして広間から出ていき、それにカクエンも着いて行った。俺に一言「あんま心配かけさせんなよ」とだけ言って。

申し訳なさが残っている最中、アラクネが口を開いた。


「悪くなかったわ、反省点は?」

「速さに対応できなかったのと、異能に頼りすぎていた」

「最後の技、"轟雷帝・竜獄(フォルバラク・ゼクス)"だったかしら…あれは正直初見じゃ無理だわ。速すぎるもの、だからしょうがないとは言えすぐに対応できなかったのは問題ね」

「あぁ、俺も更に精進する必要がある」

「それもそうね、けどまぁあんたは頑張ったわよ。お疲れ様」


そう言って彼女も広間を後にする。最後に残ったのはエースだった。壁に寄りかかりじっと俺の方を見たあとゆっくりと口を開く。


「強くなったね」

「そうだろうか…そうだな…」


強くなったのかもしれない、けれど俺は対応できなかったし負けてしまった。負けたのが苦痛なのではない、勝てなかったのが苦しかったのだ。俺はまた引き離されてしまった、それがたまらなく悔しい。


「今の2人になら安心してカトレアを任せられるよ」

「それはどういう…?」

「他意はないさ、ただカトレアは君たちと違って戦闘能力が高くない。遺物に触れて得た能力も戦闘向きでは決してない、それくらい優しい人だからさ。誰かに守ってほしいんだ」

「アストラはまだしも、俺に出来るだろうか」

「出来るよ、無理だと思うなら追加任務だ。カトレアを守ってね」

「…分かった」

「さ、行こう。出発の時間だ」


そう言ってエースは手を叩き、広間の扉を開けて外に出た。外ではアストラとラーマが二人でなにやら話していて、それ以外のメンバーは空を眺めてた。俺たちが玄関に着いたのを確認すると全員がエースの前に集まった。

再び手を叩いて自身に意識を向けさせ、口を開く。


「素晴らしい戦いだった、君たちならきっと学園でも上手くやれる。さ、出発の時間だ。頑張っておいで」

「アストラ、お主が兄なんじゃ。締まって行け、ぶちかましてこい」

「うん、分かったよ。訓練ありがとう」

「姐さん、能力の使用は控えてください。薬草とかの備蓄は向こうに置いてあるんでしばらく問題ないと思います」

「助かるよ、あたしの部屋の管理任せたよ」


ラーマがアストラに、カクエンがカトレアに向かって個別に挨拶を交し、俺の前にいるアラクネはやや不機嫌そうに空を眺めていた。見兼ねたエースが背中を押すと、腕を組んで静かに口を開いた。


「バルバトス、私の弟子である上でこれ以上の敗北は許さないわ。なにがあっても勝ちなさい、どんな手を使っても戦い抜きなさい」

「分かった」

「分かったならさっさと行きなさい、あんたなら大丈夫よ。私の弟子なんだから」


俺の胸に人差し指を当てながら彼女はそう言った。人差し指から熱が伝播したような感覚が身体に伝わる。

俺は狩人の子供で、優しい姉さんの弟で、アラクネの弟子なのだ。そんな俺がこの程度の任務のどこになにを怯える必要があるというのか。頬を叩いて気持ちを切替える。


「そうだな、俺なら大丈夫だ」

「分かったならとっとと行きなさい、2人とも待ってるわよ」


振り返ると春の息吹と共に2人が俺を待っていた。暖かい陽の光の奥で手を振って待っている。俺は今、どんな顔をしているだろうか。かつてないほどの自信と師匠から託されたものを持っている俺の表情はきっと見せられない顔のはずだ。

2人の間を走り抜けて、風で髪がなびいた。

振り向いてただ一言呟いた。


「待たせたな」

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