40作目 最初のおめでとう
広間の扉を開けると他の仲間が盛大に拍手をしながら俺たちを迎えた。なんのことか分からずきょとんとしているととんがり帽子をエースが俺たちの前に立って話し始めた。
「お誕生日おめでとう。バルバトス、アストラ」
「ありがとうエース、それにみんなも。ほらバルも」
「あ、あぁ。ありがとう」
そういえば今日は俺の誕生日だった。なにより驚いたのは俺とアストラの誕生日が同じだということ。かなり前に魔王と勇者の戦いが終わった日のことを学んでいたときに俺がポロッと口に出したことではあるが俺ですら忘れかけていたのによく覚えていたなと思った。こういったサプライズをされたのも久しぶりで本当に心底驚いた。
「なんじゃ、イマイチ驚かし甲斐がないやつらじゃのう」
「きっと私のせいだわ、あらゆる状況に対応できるよう訓練してたもの」
「もし本当にそうならあとでだれかアラクネを殴ってちょうだい、あたしが治すから」
「なら俺がやりやすよ姐さん。喜べ2人とも、今日はいつもより腕によりをかけて作った、気絶するほど美味いぞ」
「あはは、バルってほら基本的にあんま驚かないから」
「僕より情報収集が上手いかもしれないね、もしかして気付いてた?」
アストラに手を引かれ、俺たちは食卓に座った。机の上には所狭しと並べられた料理があり、特に目に入ったのは白いシチューだった。姉さんが作ってくれたものと見た目はほぼ遜色がなく、それを見た途端一気に感動の波が押し寄せた。別に抑えてた訳でもないが、姉さんとの思い出が蘇り、同じように祝ってくれる人達に囲まれていることにようやく気がついて溢れた。喉の奥が少し苦しくなり、吐き出すように言葉を紡いだ。
「上手く…言えないんだが…その…本当に嬉しい、ありがとう…」
俺が消え入るような声でそう言うと、一切に声が上がった。
「可愛いところあるのう」
「どういたしまして!でも甘やかさないからね!」
「あたしほんとこういうの弱いんだ」
「俺もです、色々思い出しちまう」
「良かったね、バル」
「いい顔するようになったね、バルバトス」
ラーマは豪快に笑い、アラクネは照れ隠しをし、カトレアとカクエンは子を見るような目で見守っていた。アストラは俺の隣で手を握って笑いかけ、エースも優しく微笑んだ。
やがてエース以外の全員が席に着き、唯一立ち上がっているエースが手を叩いて口を開いた。
「僕たちから君たちに送る最初の誕生日おめでとうだ、そしてそれはこのあと何十年でも送り続けられるものでもある。辛く苦しい日があっただろう、けれど忘れないでね。僕たちはどんな事があっても何十回だって同じ言葉を紡ごう、だからその時は君たちに必ず聞いて欲しい」
「…あぁ」
「うん…」
「…良かった、それと2人にプレゼントがあるんだ。きっと役に立つと思う」
そう言うとエースは自分の椅子の上からふたつの大きな箱を取り出して、俺たちに渡してくる。
「ありがとう、開けてもいいか?」
「もちろん、アストラも開けていいよ」
「ありがとう、開けるね」
開けると中には黒い鞘に収められた剣が入っていた、鞘から引き抜くと鈍く光る片刃の剣が現れた。持ってみてわかるがとてつもなく軽かった。
「アラクネからのアドバイスでね、近接戦闘のときに頼れる得物があった方がいいってことでバルバトスの方は長剣にした」
「ヒノクニの有名な鍛冶師が打った名刀よ、ただ軽くよく切れるらしいわ。あんたはすぐ異能に頼るから、いざって時使えるでしょ」
「こんな良い物、もらっていいのか?」
「もちろんよ、あんたのために買ったんだから」
「ありがとう、大事にする」
「当然よ、家宝にしなさい」
鞘に収めるとカチンと小気味いい音がなり、少しだけ心が落ち着いた。握りやすく、手に馴染んだ。まるでずっと昔から使っているような感覚がした。床に置きたくなくて、ベルトに差し込んだ。するとズレていた重心が元に戻ったような安定感があった。
アストラの方を見ると俺と似たような長剣だった、藍色の鞘に収められた両刃の長剣だ。宝物を見つけたように瞳を輝かせて白い刀身を天井に掲げ、光が反射した。
「アストラのはラーマからのアドバイスだよ、騎士流に最も合う剣らしくてさ一目見たときに決めたんだって」
「これもヒノクニの一級品じゃ、短剣の方は大切なのがもうあるじゃろ、あとはもう言わんでも分かるな?」
「うん、オレに足りなかったもの全部この剣に備わってる。ありがとうラーマ、ひとつの武器ってこれのことだったんだね。大切にするよ」
「心得の方も大切にしろ、剣士としてな」
「勇気、献身、自信。絶対に忘れないよ」
鞘に収め、大事にアストラは抱え込んだ。
「本当はもっと沢山渡したいんだけど、あんまり渡しすぎても良くないからね。さぁ、ご飯にしよう」
そう言いながらエースが手を叩くと全員で杯をぶつけた。成人するとお酒を飲んでもいいらしく、俺とアストラの杯にも赤紫色のワインが並々注がれていた。だが酒よりも先に今はシチューだ、食べたくてたまらなかった。スプーンですくい、一口食べると甘く優しい味がした。姉さんのものと似た様な、けれどそれとはまた少し違った優しい味がした。お腹だけではなく心も膨れるような、美味しい料理だった。夢中になったひと皿をあっという間に平らげ、カクエンにおかわりを頼む。
「すげぇ食べるな、美味いか?」
「あぁ、カクエンの作る料理はどれも好きだがこれがとびきり大好きだ、本当に美味しい」
「そんな顔して貰えるなら一端の料理人としてこれに勝るものはねぇよ、沢山あるからいっぱい食べろ」
「全部俺が食べる、悪いが誰にも渡さない」
「あ、ずるい。カクエン、オレにもちょうだい!」
「はは、たくさんあるって言ってんだろ」
そう言いながら空になったふたつの皿を持って、カクエンはキッチンに向かった。待っている間に他の料理を食べながら生まれて初めての酒に口をつける。葡萄の酸味や甘さが濃縮されたような、けれど決して葡萄だけでは出せない美味しさが口に広がった。
「お、バルバトスは結構行ける口かの?」
「分からん、けど美味い」
「飲み過ぎは体に毒だから気をつけな」
「飲みの席で医者の言うことは聞かんでいい、いっぱい飲め飲め」
空になった杯に再びワインが入れられる。綺麗に照り焼きされたローストチキンを食べながら、再びワインに口をつける。少し身体がぽかぽかして、頭がふわふわするような初めての感覚に身を包まれる。やや顔が熱くなってきた。大盛りのシチューが入った皿をふたつ持ってカクエンが戻ってくる。
「クソ弱いじゃねぇか、あんま飲ませんなよ」
「いや、俺は強くなってる」
「そういう意味じゃねぇよ、もう酔いどれか?」
「バルってばめっちゃ弱いじゃん、こんなので酔うの?」
「酔ってない…酔ってない…」
得も言えぬ多幸感に身を包まれながら、美味い料理を口に運んでその日は夜通し飲み明かした。4杯目のシチューを食べ終えたあたりから俺の記憶はなくなった。最後に朧気に聞こえたのはアラクネとアストラの大きな笑い声とラーマの寝言、そしてその他の心配する声だった。




