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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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38作目 特訓の成果

季節は巡り、厳しい冬と訓練を乗り越えて春になった。"見えざる番犬(シェルドッグ)"は完璧にモノにし、ある程度なら攻撃も当てれるようになった。今日は訓練の最終日で、数日後にはミストレアに発つことになっている。


「かなり良くなったわね」

「お陰様でモノにできた、ありがとう」

「その通りよ、まぁでもあんたの弛まぬ努力のおかげでもあるわ。そこは自信を持ちなさい」


最初にやった基礎訓練、長所の引き伸ばし訓練、そして進化した俺の"沈黙(サイレンス)"のおかげで俺はかなり強くなったと自負できる。

現に今は雑談を混じえながら蜘蛛の巣での訓練をこなせるレベルだ、最初に比べて糸の本数や攻撃速度、回数が増えたが難なく対処できるようになった。息もきれず、脳の疲労もほぼない。長時間展開し続けることは不可能だが、短時間の局所的な運用なら問題ない。

不穏な気配が森の中からし、俺とアラクネは動きを止める。


「…訓練中止よ、気づいてる?」

「オーガのような気配…それも複数体いるな」

「気配察知も上々、倒せるわよね?」

「勿論だ」

「なら任せるわ、私は加勢しないから。先に帰ってるわよ」

「分かった」


蜘蛛の巣から飛び出し、気配のする方向に走る。

座学で学び、俺は前回以上にオーガの知識がある。ゴブリンの上位種のひとつで力に特化させた進化を果たした魔物だ。魔物特有の魔法を使うシャーマンや、狡猾さに特化したシーフなど様々だ。

進化、というのは魔物に見られる突然変異で特別な経験や環境により魔物の強みが引き伸ばされ、全体的なスペックが底上げされたものだ。進化を果たした魔物は群れのリーダーなどになり、倒すのが困難になる。

問題なのはそれが複数体いることで、かつ俺たちの住処の周りにいることだ。進化した魔物はそれだけで環境に悪影響を及ぼす、生態系の破壊や自然の破壊など数え上げればキリがない。

なぜ急に現れたのか?という疑問は頭の片隅に置きながらひたすら走る。途中、背後から駆け抜けるように弾ける音が聞こえた。慌てて振り返り、飛ばされる拳を食い止める。


「手荒な挨拶だな」

「こんなもん止められなかったら失望してたよ、オーガ倒しに行くんでしょ?オレも行くんだ」

「なるほどな、ところでそのローブは?」

「師匠から免許皆伝の印!あげないよ」


新品の灰色のローブを身に纏ったアストラは格好だけでなく明確に前と違うと実感する。毎日顔を合わせてるはずなのに今日だけ明確に見違えて見えるのは湧き上がる自信からだろうか。


「そっちも随分変わったね」

「そうか?」

「目つきがキリッ!って感じ」

「なんだそれ」


両手に輪っかを作り、目元に当てる。俺の方を向いて凄まじいスピードで動いているというのに全く重心がブレていない。お互い変わったということだろう。

目的地が近づいてることに俺たちは気づく。


「手助けなしでいこう、どっちが多く倒せるか競争ね」

「望むところだ」


俺がそう答えると彼は笑顔になり、一気に見えなくなるほど加速する。速さ勝負…か、なら俺も負けてられない。

"沈黙(サイレンス)"を発動し、サイズを大きくする。その上に乗り、弾丸を加速させる。サイズを大きくすれば速度は落ちるが後ろに複数弾丸を追加することで速度を上げる。操作に気を使うから長時間使用はできないが短時間であれば問題は無い。目的地に辿り着くとアストラは既にオーガを何体か倒しているところだった、俺が弾丸を直接オーガにぶつけ、派手な音を立てながら飛び降りると驚いたようにアストラが叫んだ。


「すっご!なにそれ!」

「乱発できない超必だ、それよりいいのか?全部倒しちまうぞ」


着地する前に空中で弾丸を生成する。身体を半回転させ、弾丸の操作に気取られないように長く細く伸ばす。動き回るアラクネに攻撃を当てるために編み出した新しい技だ。


「"鬼葬の猟犬(エクセハウンド)"、避けろよアストラ」


眼下にいる全てのオーガを対象に細く引き伸ばされた弾丸が発射される。音もなく、ただ冷徹な殺意を持って頭部に向かって放たれた弾丸は全ての頭蓋を貫いた。


「シャーマン、やはりいるか」


オーガの陰から頭蓋骨が括り付けられた杖を持った腰が曲がったゴブリン、シャーマンが這い出でてくる。ゴブリン族が使う魔力の盾を使ってギリギリ生き残ったシャーマンが俺に弱々しい魔法を放つが"見えざる番犬(シェルドッグ)"でそれを弾く。倒そうと思ったがその前にシャーマンの前を青白い先行が通り抜ける。


「あとシーフもいるけど、ね!」


微かに閃光が見えたあと、切断され焼け焦げたシーフが出てくる。身につけているカモフラージュ用の草木も焼けていた。これで全滅だ、地面に降り立つと特に荒れている様子もなく、オーガなどの死体が散乱しているだけだった。


「今のは?」

「"轟雷帝(フォルバラク)"っていうただの自己強化だよ。ちょっとだけ前より速くなったけどね」

「ちょっと?」


そう言いながら彼は長剣を鞘に収めた。アストラの周囲はぱちぱちと電気が迸り、髪が少しだけ逆立っていた。なにはともあれ上位種の殲滅は完了し、俺たちは帰路に着いた。これ以上の情報交換は手合わせに支障が出るとお互いに察して、無言だった。

なぜ上位種が急に複数体現れたのか、疑問が残った。

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