36作目 見えざる番犬
「遅い!」
「ぐっ…」
蜘蛛の巣での訓練だが、あれから何日経っても攻撃に転じることが出来ずにいた。四方八方から来るアラクネの糸玉と見えにくい糸が脳裏にチラついて神経がすり減る。相変わらず体にアザはできる一方だった。
「相手はどこから攻撃したいのか、見える糸以外にも気を使って回避行動を取りなさい!予測と反射!」
「あぁ!!」
アラクネは死角を狙うこともあれば正面から堂々と打ってくるときもある。予測と言われてもランダムに攻撃してくる相手は難易度が高かった。糸に触れることで出てくる岩はなんとか破壊できてはいるが、このままではいずれ当たる。
「少し休憩するわ、アドバイスの時間よ」
「はぁ…はぁ…分かった…」
「全てワンテンポ遅れてる、あんた目がいいんだからきちんと捉えなさい」
「分かってはいるんだ、だが攻撃に転じるには遅すぎる」
「予測っていうのはこう来る、と確定させるものではないわよ。来るかもしれない、の思考を持ち続けなさい。そして来たら迎え撃ち、来ないのであればその次の択を取るのよ」
思考を続けるべきなのは分かっている。だがどうにもそっちに脳のリソースを割き続けていて常に二者択一を選ばされている。この蜘蛛の巣はよく出来ている、俺がどこに行動するのか予測された無数の糸が張り巡らされている。
ふと視界の端で、蜘蛛が巣にかかった虫を捕食しているところが見えた。蜘蛛は罠にかかるのをじっと待っている、それは他の虫の動線であったり行動したがるところに巣を構えているからこそできる芸当だ。
なにかがピタリとハマる感覚があった、それは予測だ。来るのを待ち構え、自動で捕える罠が俺にも必要だ。左腕を振り払い、弾を6発生成する。サイズを少し大きくし、木の枝ほどの弾丸が俺の周囲に浮遊する。
「それだ、それなんだアラクネ」
「なにか掴んだみたいね」
「俺に必要なのは予測を手助けしてくれる蜘蛛の巣だ」
「その状態、どれほど維持できる?」
「集中すれば常にだ、だが少し散漫になれば解ける」
「休憩終わりよ、試してみなさい」
再び蜘蛛の巣に戻り、深呼吸をする。
アラクネから糸の玉を発射されるが、回避行動を取る前に既に俺の周囲にある弾丸を少し操作し、体に当たる前に弾く。
「どこまでの速度なら迎撃できるか、やれること全て試すわよ」
「分かった」
そこから俺は訓練を続け、終わる頃には脳の疲れが尋常ではなかった。焼き切れるほどに疲労し、いつもより何倍もすり減った神経が立ち続けることを困難にしていた。
「ある程度の速度なら迎撃できるけど、あくまであんたの視界に捉えられる程度。防御力はそれなりだけどそれに脳みそを使いすぎて攻撃に転じれてないわ」
息が荒れ、返事をすることすら難しかった。
「並列思考を出来るようになったら予測はできるようになるわね、それにその〜」
「"見えざる番犬"だ、今考えた」
「その"見えざる番犬"を使用している間、あんたは動けてない。これでは致命的よ」
「あぁ…そうだな…」
「その力を使いこなすにもやはり予測と反射ね、徹底的に伸ばすわよ」
"見えざる番犬"は半自動迎撃システムだ。周囲に浮遊する弾丸を用いて飛び道具の類を弾いて無効化する。分かっていることは俺の視界に捉えられなければ弾くことが出来ないのと、移動がまだ出来ないこと、そして攻撃に転じようと意識を向けた途端能力が止まることだ。課題点は多いがこれができるようになれば思考の幅が広がり、より多くの選択肢を取れる。
アラクネに手を貸してもらい、何とか立ち上がって館に向かって歩いた。もっと自由に、この能力を使いこなさなければいけない。"沈黙"の強みは手数と無数の選択肢、生かすも殺すも俺次第なのだから。
あと足りないのは攻撃に転じる力だ、どうにかして新しい糸口を探さなければならない。
「"見えざる番犬"はモノにできたらかなり手強い力になるわ、明日からもっとキツくなるから覚悟しなさいよ」
「分かった」
「アストラに負けたら承知しないわ、私に教えてもらった以上敗北は許さないから」
「あぁ、絶対勝つ」
「負けたらぐるぐる巻きにして逆さで天井に吊るしあげるから」
「…絶対に勝つ」




