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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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30作目 剣術と異能

借り物の魔力が底を尽き、俺が魔法を止めてからもアストラはしばらく魔法を唱え続けた。


「魔力量がかなり多いな…アストラ、まだ余裕はある?」

「全然疲れてないよ」

「そう、ひとまず慣れてきたみたいだから一旦打ち止めにして次はラーマのところに行きな」

「はーい」


そよ風が止み、次に俺たちはラーマのところに行った。斧ではなく剣を地面に突き刺し、岩肌に腰を下ろしてラーマは待っていた。


「実践でおしえるのがワシのやり方じゃ、死ぬ気で受け止めろ」


そう言って俺たちに剣を投げ付け、殺気に当てられ肌が少しヒリついた。拾って構えるやいなや一気に俺たちの元まで間合いを詰める。上段からの大振りを剣の腹でなんとか受けるが、俺のことを剣ごと蹴りつけ、そのまま流れるように逆手に持ち替えてアストラを切り上げる。


「今のが騎士流、まぁ正統派の綺麗な剣術じゃな」


そう言ったあと剣を真正面に構え、切っ先を天に掲げる。その後、凄まじい速度で切っ先を俺たちに向け、何度も突きを放つ。速度によって舞い上がった草木が落ちるよりも先に穴が空き、真っ二つになった。不規則なリズムでフェイントを混じえながら何度も放つ瞬閃の突きは俺とアストラに浅く傷をつけた。


「今のが貴族流、手数重視の突き技主軸の流派じゃな」


そう言ったあと、鞘に剣を納め重心を深く落とした。前傾姿勢から1歩、大きく踏み込んだ後に衝撃が走る。なにも見えなかった、ただ横一列に大きな衝撃が走ったのち、俺とアストラは吹き飛ばされていた。

鞘に剣を再び納め、金属の小気味いい音が鳴った。


「今のが東風流、ヒノクニっていうまぁ遠い東の国から伝わった流派じゃな。とにかく速く、威力があるがその分隙も多い」


そう言って彼は鞘を地面に置き、俺たちに尋ねた。


「これが所謂剣術御三家じゃ、この内どれかを納めてもらう。好きなのを選べ」


オーソドックスな騎士流か、手数の貴族流、一撃の居合流…どれも魅力的で強力だった。


「なぁアストラ、お前はどれにするんだ?」

「うーん…騎士流かなぁ、なんとなく動きがオレに似てるんだよね」


そう言って目の前で剣を何度か振るう。風を切る音が鳴り、確かに言っている通り様になっている。


「別にこれ一つと決める必要も無い、ただ寄り道をすればするほど目的地は遠のくぞ」

「ふむ…」


少し思慮を巡らせ、自分に足りないものを補うものを考える。俺の"沈黙(サイレンス)"は火力が売りだ、一撃の威力は既に足りている。必要なのは小手先の技術と引き金に指をかけるまでに時間を稼ぐ術だ。


「貴族流でいく」

「えぇ〜貴族流〜?」

「なにをそんなに驚いている?いちばん俺に足りないものだ、小手先の技は」

「だって貴族だよ?き、ぞ、く!」

「名前はあまり気にしていない」

「そうじゃぞ、名前で判断するのは最も愚かじゃぞ」


そこから俺とアストラは少し別れ、別々に鍛錬に励んだ。俺がやったのはひたすら樹木に剣を穿ち続けるものだ、単純だが中々に難しかった。

鍛錬用に渡された剣は薄っぺらく、きちんと樹木の中心を狙って力を込めなければひしゃげて刺さらない。次の指示が入るまで何回も突き技を放つがきちんと刺さったのは数回程度だった。膝に手を付き、肩を震わせて少し呼吸を整えている最中、視界の隅にアストラの姿が映る。ラーマと何度も剣を打ち合い、楽しそうに笑っていた。速度は速く、動きは綺麗だった。揺れる金髪の合間に、剣閃が鈍く光って見えた。

まだまだ、届かない。休んでる暇は無い、荒れる呼吸を無理やり整えて再び突きを何度も放った。魔法の才能はなく、剣術でもアストラに遠く及ばない。それでも二人で進む鍛錬の道は心地よかった。

程なくして、ラーマから制止の声がかかりアラクネの元へ向かうよう指示される。二人で獣道を歩いた。


「特訓していたのか?」

「ん?まぁね、剣が好きだからさ」

「そうか、綺麗な剣だった」

「そう?なら特訓した甲斐があるなぁ」


木の葉の隙間から漏れる光を手で覆いながら嬉しそうにアストラは言った。よく見れば手には無数の剣タコが見えた。つくづく彼我の差を実感させられた、俺の左腕は相変わらず無機質でツルツルだ。どれも自分の力ではない、ただ借りてるだけで己のものにできていない。真っ黒な左腕を握りしめ、アストラの後を歩いた。

指示された場所に向かうと岩や木が無数に垂れ下がった空間に出た。中央には不機嫌そうに腕を組んだアラクネが仁王立ちして待っていた。俺たちが到着したのを確認すると荒く鼻息を鳴らし、大きな声で叫んだ。


「遅い!」

「うるさい、これでもずっと動きっぱなしなんだよ」

「知らないわよ、任務なら動き続けるのは当然。常に一定の出力を出せるようにしなさい!」


やかましそうに耳に手を突っ込み、聞こえないふりをするアストラを他所にアラクネは続けた。


「異能については2人とも知ってるわよね?ならひたすら反復練習!マトは用意してるわ!」

「へいへーい」


アストラからパリッと弾ける音が鳴った直後、マトが何度も揺れる。響く轟音や微かに舞う土埃から、既に彼は特訓を始めたようだった。

俺も左手から銃を取り出し、何度もマトに向かって弾丸を放った。最初にラーマと戦ったあのころに比べて随分速くなってる、彼はもう既に錠前を何度か開けたころなのだろう。牛歩だが、俺も進んでいると思いたい。

森の中に衝撃音と弾ける音がひたすらに響いた。それは日が落ちてもなお続き、カラスの鳴き声が聞こえるまで続いた。

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