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2作目 白髪の男

「で?リーダー、こそこそしてなにしてるんじゃ?」


そう言って老人は振り返ってドアの方を見た。

するとドアが不気味な蝶番の音を立て、影から一人の白髪の男が顔を出した。

困惑し、警戒していると男は困ったように笑って喋り始めた。


「はは、やっぱバレてた?」

「当たり前じゃ、まぁお前さんが本気になって隠れてなかっただけじゃがな」

「そんなことないよ、それにその子にもちゃんと話を聞いてみたい。先にみんなのとこ行ってて」


白髪の男がそういうと老人は軽く返事を返し、部屋を後にした。白髪の男が先程老人が座っていた椅子に腰を下ろした。

俺はリーダーと呼ばれた男に気づくことが出来なかった、信用はできない。ただ勇者が本性を表したときの感覚はなかった。


「あんな目にあったのに混乱させてすまないね、怪我は大丈夫?」

「あんたがここのリーダーか?なら頼みがある」

「おお元気だね、大丈夫そうでよかった。それで?頼みって?」

「俺を強くしてくれ、あのクソ野郎を殺すためならなんだってする」

「へぇ、なんだって…ね」


男は意味ありげな微笑を浮かべ、顎に手を当てて口を開いた。先程まで鳴いていたカラスは沈黙を貫き、手には汗が流れ始めた。悪寒がした。


「それは、悪魔に魂を売りに出してもいいということかな?死神に寿命を差し出しても?」

「勘違いするな、俺は死にたいわけじゃねぇ。もう俺だけの命じゃない。死なずにあいつを殺すために強くしてくれって言ったんだ」

「…いいよ。向こう見ずだってあの人は言ってたけどなかなか冷静だね。ようこそ"英雄の墓標(ノーネイムグレイブス)"へ、歓迎するよ」


そう言って男は黒い手袋を外して手を差し出した。

この男は飄々としていてどこか掴めないが、少なからず今すぐに俺を殺すということはなさそうだ。利用して、強くなってやる。


「そういえば自己紹介がまだだったね、僕はエース、今はそう名乗っている」

「俺の名前は」

「本名は言わなくていいよ、ここではみんなコードネームで呼びあっているから」

「はぁ…なら俺のコードネームはなんなんだ?」

「まぁそれを決めるのは後にしよう、少し動けるかな?みんなを紹介するよ、それとここのルールも」


エースと名乗ったその男はそう言って音もなく立ち上がった。布ズレすらしないほぼ無音に近い状態で立ち上がった彼とともに部屋を後にした。

建物内は結構清潔かつ広いようでかなりの数の部屋があった。階段を降り、いちばん大きな扉を開けるとその部屋の中には大きな机を囲う男女と、地図と複数人の絵が貼られた掲示板が見えた。

俺たちが入ってくるのを確認すると全員が一斉に俺の方を向き、その中で1人の女性が俺の元に駆け寄ってきた。ぼさぼさの長い赤髪にボロボロの白衣を着た女性が煙草を吸いながらしゃがみこみ、俺の左腕をじっと見たあと口を開いた。


「おい、怪我は大丈夫か?あたしが治したんだ、勝手に死ぬなよ」

「あ、あぁ。ありがとう」


戸惑いながら礼をすると、女は少しの間の後俺の頭をぐしゃぐしゃと撫で、踵を返して元いた場所に戻っていった。

少し悲しそうな目をしていたのがやけに印象に残った。

手を何度か叩き、エースは歩き始める。


「みんな、新しい仲間だ。まだコードネームは決めてないんだけど仲良くしてやってくれ」

「なぁなぁリーダー、そいつ強いの?使えんのー?」

「それよりエース、クソ勇者の野郎が王国に戻って行ったみたいだ。ドラゴン(・・・・)が出た情報はそこのガキの村以外で出てないぜ」

「ほらほらお前さんたち、そういっぺんに話すな。さっきぶりじゃの、小僧。とりあえずこっち来て座れ」


短剣、大槌、そして大斧。各々が武器を持ってる。

俺でもわかるほど全員強い。

老人に誘われるまま椅子に座り、エースが全員の前に立った。


「これで観測できるだけで八度目の暴走だ。勇者は殺さなければならない、死んで行ったものたちのためにもこの世界の平穏のためにも。しかしその為には情報と、何より力がいる。そこで、ここより北へ2日ほど歩いたところにあるレント北部都市に少数で遠征に出てもらいたい」


エースが掲示板に貼られてある地図の上側をペンで囲い、1枚の絵を貼る。顔に丸みを帯びた、少し毛髪の寂しい中年の男性だ。


「ブルムス・レント公爵。勇者と繋がっている裏の住人だ、北部都市で潜入中のアラクネと合流し、とある帳簿を入手してきてもらいたい」


レント北部都市は大きな城塞都市だ。

ごく稀にレントから来る冒険者、いわゆる何でも屋が村に寄ることがある。


「ならオレはパース、アラクネ嫌い」

「もうメンバーは決めてある。ラーマと新入りで行ってもらう。いいよな?」

「よしきた。よろしくな小僧」

「俺は小僧じゃないが、了解した」


ラーマと呼ばれたのは唯一この中で関わりのあった老人だった。座っているラーマを見ると笑顔で手を振ってくる。


「一週間後、新入りの傷が癒え次第向かってもらう。それじゃ、新入り着いてきて」

「あ、あぁ」


全員が集合している部屋を後にし、再び階段を下りる。冷えた空気と土の匂いが微かにするその地下の部屋には無数の武器が置いてあった。


「ここにある武器は好きに使っていい。商人に伝手があってね、安く高品質な武器を仕入られるんだ」

「なんでもいい、俺を強くしてくれ」

「休まなくていいの?」


休んでる暇なんか1秒もない。一刻も早く強くなってあいつを殺さないといけないんだ。武器なんかどれでもいい。

エースの方を見ると、彼は優しく微笑み部屋の奥から1本の金属の棒を取り出す。その棒は黒く、禍々しく感じられた。ただ、墓標のみんなが持っているような武器と同じような感覚がある。


「短期間で強くなる方法は基本的にない、覚悟はあるんだろうね?」

「あぁ。で、それはなんだ?」

「これはとある祠に奉納されてた1本の遺物だ、詳しくは触れば分かる。ただ命の危険を僕が感じたら即座に中断だ」

「分かった」

「死んで欲しくないし、死なせない。僕はみんなより弱いけど君を守るくらいはできる。安心しなよ」


エースはそう言って余裕そうにしていた。

深呼吸をして、遺物を手に取った。

すると一瞬で別世界に飛ばされたような感覚がして俺は倒れた。ここ最近気絶してばっかな気がする。

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