27作目 機織り美人
次の日、俺とアラクネは山の中に移動し異能の特訓を始めた。切り株の上に座り、彼女は口を開く。
「まず、異能についての知識を深めなさい」
「そうは言っても俺は何も知らん」
「はぁ…いい?私たちは遺物に触れて過去の力を引き出しているの。そして、それは触れた時点から手足のように動かせるはずよ」
そう言って彼女は手から糸を出したりしまったりしている。手足と言われても俺はいまいちピンと来なかった。どれだけ銃を捻り出そうとも、取り出せなかった。
「遺物に触れた時どう感じた?異能を使えた時あんたは何を思ったの?」
「理解の及ばない存在、異能を使えたときは…」
俺は異能を使ったときのことを思い出す。1度目はオーガのとき、そして2度目は娼館のときだ。どちらも不条理に対する強い怒りの感情を抱いていた。俺の左腕のようにドス黒い怒りだ、何も考えられなくなるほどの強い感情をトリガーに俺は異能を引き出していた。
そのことに気がつき、勇者の顔を思い浮かべた。貼り付けていた薄ら笑いが剥げ落ち、俺の姉さんを襲った時の獣のような顔を。火が灯るような熱い何かが胸の中に広がり、そしてそれは徐々に左腕に移動していく。やがてそれは質量を持って手の中に収まる。
「…ひとまず第一段階は終わったみたいね」
「あぁ、今思えば簡単なことだった」
「ところでその武器みたいなのが異能なのね?効果は?」
「この武器、銃が俺の異能"沈黙"だ。効果は見たら分かる」
俺はそう言って近くにある大木に向かって引き金を引く。大きな爆発音が鳴り、大木に穴が空いて音を立てて倒れた。
「魔法を飛ばすのかしら、それにしたって威力は高いわね。森での音の正体はそれだったのね」
「その節は申し訳ない、で次はどうする?」
「疲労や副作用はないのね、ならひたすら異能を使い続けてとりあえず慣れなさい。そうね、例えるなら三本目の腕のように扱えたらいいわ」
「分かった」
そこから俺は銃を撃ち続け、分かったことがいくつもあった。インターバルや疲労は一切なく、ほぼ無限に撃てるということ、また音を抑える手段はなく威力のブレはなく一定ということだ。
ある程度撃ち続け、異能の把握もある程度済んできたところでアラクネが静止をかけた。
「異能の把握はある程度済ませたみたいね、疲れてない?」
「あぁ、疲労もない」
「となるとかなり相性がいい遺物だったみたいね」
「…そういえば遺物ってなんなんだ?」
「はぁ???」
俺が遺物について尋ねると彼女は心底驚いていた。そして呆れたような顔をして説明を始める。
「遺物っていうのは太古の時代に封印された力の塊よ、人間が使用するために物質に封じ込めて世に出ないようにしてるものね。それは遺跡に残っていたり、貴族が保管していたり様々ね」
「俺のやつは遺跡から持ってきたやつだ」
「そう、それでその遺物に触れると異能を得られるよ。エースは私たちの身体自体が遺物そのものになることで封じられていた力が使用できると言っていたわ」
改めて、自分はとんでもないものと契約してしまったことに気がついた。俺が死んだら身体を明け渡すということにしていたが、そうなるとあの黒い男がなにをするか分かったものじゃない。
第二の勇者になるのだけは勘弁だ、どうにか対策する手段も並行して探さなければいけないな。
「例えば私が触れたのは蜘蛛の遺物、貴族が持ってたらしいけれど中々に綺麗だったわ。宝石の中に蜘蛛が入っていたの、それに触れたら本当に蜘蛛みたいな異能を得ちゃったってわけ」
そう言って彼女は手から糸を出し、俺が撃って倒した大木を糸で繋ぎ止める。
「これが私の異能、"機織天使"。硬い糸と粘着性の糸の2種類を自由に使えるわ」
「便利だな、それに強い」
「便利な点は認めるけど、殺傷能力は低いわ」
「そうだろうか、むしろ色んな殺し方があると思うが」
「まぁ解釈次第ね、とにかくあんたは異能についての理解を深めなさい。私は最初こんなに早く糸を出すこともできなかったし、柔らかい糸しか出せなかったわ」
「どうやってそこまで?やっぱり特訓か?」
「それもあるけど、なんていうのかしらね。錠前みたいなものが最初はかかっているのよ、理解を深めたり、手に馴染ませたりするとある日突然鍵が頭の中に浮かぶの」
ふむ、すごく気になるしできることが増えるのはすごく嬉しいが魔力のない俺に出来るのだろうか。いや、やるしかない。
「ひとまず使い続けて錠前を探しなさい、そうすれば自ずと鍵は見つかるわ。どちらもあんたの中にあるんだから」
そう言って彼女は俺の胸を軽く拳で殴った。
そうして俺は日が暮れるまで銃を撃ち続けた、響く振動音と爆発音が耳にこびりついて離れなくなるまで延々と撃ち続けた。錠前と鍵を求めて。




