26作目 晩餐会
アストラに夢の話をした。
彼はそれを笑うわけでも否定するわけでもなくただ頷いて聞いていた。やがて、それは将来の夢の話になり小麦畑を復活させる話にまで膨らんだ。たしかにそれは魅力的だしなにより俺自身も成し遂げてみたいと思った。話はそこまでにして区切り、部屋を出て広間に向かった。
階段を下りる途中からすでに香ばしい匂いが広がっており、扉を開けるとカクエンが料理をしている最中だった。他の仲間はソファに座っていて談笑をしていた。ラーマの元まで一直線に歩き、頭を下げた。
「ラーマ、俺をもっと強くしてくれ」
「ふむ…もちろんそのつもりなんじゃがお主が例えば強くなったとして、前みたいに感情のままに暴れられたら困るんじゃよ」
「分かってる、反省している。あんなことはもうないようにする」
そう言って頭を下げたままにしていると誰かに頭をすごい勢いで叩かれる。すると横にいたアストラが怒りの声を上げた。
「アラクネ、なにやってんの?」
「アストラは黙ってて、この馬鹿が任務で何したか知ってるの?」
「…知ってる…けどそれは…」
「仕方なかった?任務が失敗して誰かが死んでも同じことを言えるかしら」
刺々しい言葉が胸に突き刺さる、彼女が言っていることは紛れもない事実だ。俺はあのアレンという騎士に手も足も出なかった、たまたま運良くラーマとアラクネがいて、向こうに時間制限があったから誰も失わなくて済んだだけだ。
「…はぁ、この馬鹿の特訓は私がやるわ。それでいいわよね?ラーマ」
「ふむ、まぁそれでもいいがお主はいいのか?」
「私が1番遺物の能力を使いこなしているわ。この馬鹿に戦い方と、墓標の心構えをきっちり叩き込んであげる」
「すまん、よろしく頼む」
「うっさい、明日ボコボコにしてあげるから覚悟してなさい」
そう言って彼女は腕と足を組んでソファに座り直した。どこまでも自分の不甲斐なさが情けなかった。アストラにも庇ってもらって、本当に情けない。
手を叩く音が聞こえ、エースが仕切り直すように声を発した。
「まぁまぁそこまでにしてさ、ご飯にしよう」
「そりゃいいな、もうそろ出来上がるからバルバトス少し手伝ってくれ」
「分かった」
カクエンに呼ばれ、キッチンへと向かう。グツグツと煮えたぎる鍋には大きな具材が浮かんでおり、とてもいい匂いがした。指定された戸棚から陶器の綺麗な深みのある皿を人数分取りだし、調理台に並べる。
「アラクネはあぁ言ってるが、みんなのこと心配してるだけなんだ。あんまり思い詰めんなよ」
「…彼女が優しいのは知っている、気を使わせてすまん」
俺がそう言って等間隔に皿を並べているとレードルを持ったカクエンが俺の背中を勢いよく叩いた。
「分かってるならシャキッとしろ、反省点はあるかもしれねぇが誰も怪我しなかったんだから儲けもんだ」
「…」
「やることが明白ならその分成長すればいいじゃねぇか、まだガキなんだ。ゆっくり焦らず行こうぜ」
「だがもっと強くならなきゃ駄目なんだ、じゃないと」
「勇者が殺せない?俺たちはそんなに頼りねぇか?」
そうカクエンに言われるとハッとして頭にかかっていたモヤが晴れたような感覚になった。隣には俺より何倍も屈強な男が、振り返ると食卓には仲間たちが料理を心待ちにしていた。
「…すまん、俺が間違っていた」
「ガキなんだからもう少し大人を頼れ、お前より何倍も人生を歩いてる。ほら運んでくれ」
「あぁ、分かった」
よそられた煮込み料理を食卓に持っていき、仲間の元に置く。小さく感謝を述べられ、やがて全員の分を運びだし、俺とカクエンも席に着くとエースが豪勢な食事をまえに立ち上がり、大きく口を開けた。
「色々あったみたいだけど、ひとまず3人ともお疲れさま。特にアラクネには苦労をかけたね、ありがとう」
「エースに言われたらなんでもするわよ」
「はは、少し頑張りすぎだけどね。さて、これからもみんなにはたくさん苦労をかけるし、きっと道のりは険しい。けれど僕らは仲間だ、ゆっくりと焦らず1歩1歩進んでいこう。じゃあこれからも、よろしくね」
そう言って彼は杯を掲げて、他のみんなが近くの人と杯をぶつけた。カクエンの料理に舌鼓を打ち、話題はやがて潜入していたアラクネの話になっていった。彼女は長い間いたらしく目立たないように生活していたみたいだ。
「でね、その冒険者がしつこく私に話しかけてくるもんだからもううんざりしちゃって」
やや頬を赤らめながら彼女は話し続けた。俺としても冒険者の話は気になったし、彼女の話はとても面白かった。それにカクエンの作った煮込み料理は食べたことの無いものでそちらも気になった。シチューのようにも見えるがそれにしては色がやや茶色く、味も全然違うものだった。
これがとても美味しく、あっという間に平らげてしまいおかわりを何度も貰った。
「気に入ったか?」
「カクエンの料理はどれも好きだがこれは特に好きだ、食べたことがないがどこの料理なんだ?」
「俺の自作料理だよ、やっぱり舌に合ったか」
やっぱり?
やや不自然な接続詞に違和感を覚えたがなんとなく踏み込んでは行けないような気がして思い留まった。自分の席に戻るとカトレアに話しかけられた。
「無事で良かった、なにかあったらすぐに言いなよ」
「分かった、その時はよろしく頼む」
「まだ子供なんだから、たくさん迷惑かけていいんだ。一人で思い詰めるのだけはやめなよ」
「あぁ」
食事会は夜遅くまで続いた、アラクネの酔いが回りカトレアに介抱されながら広間を後にしたことでようやく終わった。俺とアストラ、エース以外は酒を飲んでいて少しふわふわとした雰囲気が広間の中に漂っていた。アストラはラーマは少し離れたところで話していて、カクエンは片付けを始めていた。
必然的に俺とエースのみ食卓に残っていて、少し話をした。
「アラクネから話を聞いたよ、アレンと戦ったんだって?」
「あぁ、知っているのか?」
「まぁね、強かったでしょあの人」
「あぁ、手も足も出なかった」
少し誇らしげに笑ったあと、顎肘をつきながら彼は続けた。
「でも生きて帰ってきた、君は強くなってる」
「そうだろうか、イマイチ実感が湧かないんだ」
「髪や爪が伸びてることに一々気づいてる人はいないさ、努力ってそういうものでしょ?」
「その通りだな」




