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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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25作目 寝ても覚めても夢を見る

家に帰り、カクエンに汗臭いといわれお風呂に入った。浴槽に身を沈め、温かい液体に身を包むと気持ちが落ち着くのと同時に様々な考えが浮かんでしまう。ラーマの稽古は厳しいものだが、あのレベルの魔物ははっきりいって行き過ぎなものだ。オーガやシーサーペントは本来中堅かやや上位の冒険者のパーティでないと倒すことが出来ないものだ。どちらも魔物の上位種で経験豊富な個体が肉体的成長を伴って進化するものだ。それをオレはまだしも1週間前までただの子供だったバルにやらせるのは焦りすぎに感じた。

それにあの斧についていた血は誰のものだろうか、魔物…にしてはラーマが時間をかけすぎな気もするし人間がこの山にきて、ましてそれをラーマが排除するとも考えにくい。

どれだけ考えても答えは出ず、代わりに浮かぶのはバルのことだった。怪我はしてなかったがあれほど大きな戦闘をこなし、かつなんの恐怖も抱いていないのは不自然だ。まるで今までそういう行為をしてきたか、もしくはなんの感情も持たないような不気味さを感じさせる。

考え続けていたせいでずっと湯船に浸かっていたことに気がつき、慌てて浴槽から飛び出る。お湯は火の精霊と水の精霊がずっと喧嘩している状態らしく、生物がずっとそこにいると巻き込まれ、倒れてしまうらしい。そんなことで誰かに風呂場に来られたらたまったものじゃない、オレの身体は女だが女扱いされるのはごめんだ。

若干ふらつきながら着替えを済ませ、バルの部屋に向かった。ノックをしても返事がなく、ドアを開けるとどうやら寝ているようだった。寝ている時の顔はいつもみたいに険しくなく、同い年だということを改めて実感させる。少し眺めていると目を覚まし、またいつもの表情に戻っていった。


なぜこんなことを急に思い出したのか、それは任務から帰ってきたバルの様子が少し変だったからだ。任務終わりに疲れが顔に出るのは普通のことだがそれ以外にも言葉にできないがずっと考えているような表情をしていた。手を引いて館に引き入れ、話を聞こうと思ったが階段を上っていると途中で急に手を離された。自分でも無意識のうちに再び手を繋ぎ直し、そこで自分のした事に気がついた。

一気に顔に火がついた感覚になり、任務の話を聞く予定だったが適当に会話を切り上げて部屋に戻ってしまった。扉を閉めてその場に座り込んだ。

友人がいなくなって寂しく感じていたのか、それともあんな表情をしていたバルに哀れみの感情を持ったのか理由は分からないけどとても恥ずかしく思った。気持ちを沈めるために館を飛び出してひたすらに動き回った。そこら辺にいる魔物に手当たり次第で八つ当たりをした、オレは仲間に持っちゃいけない感情を抱いている。その感情の名前は分からないが少しでも抱いた自分に腹が立った。

気がつくと日は暮れ、茜色に染まる空の下でカラスが鳴いた。手を振ってカラスに返事をして、急いで館に戻った。館の中はいい匂いがして、少しお腹が空いた。広間に行ってもバルはいなくて、部屋に行ってノックをした。相変わらず返事がなくて、恐る恐る扉を開くとちょうどバルが起き上がったところだった。


「…バル?」

「あぁ、アストラか」


窓から差し込む茜色の光を背にしているせいでバルがどんな顔をしているのか分からなかった。ただ声は震えていて、とても悲しんでいた気がした。ゆっくり近付いて、椅子に座った。

カラスの鳴き声は止んでいて木の軋む音とお互いの呼吸音がやや暗いオレンジ色の部屋からしていた。


「大丈夫…?」

「いや…大丈夫…大丈夫だ」


よく見ると彼の頬には一筋の跡が残っていた。


「任務で嫌なことあった?それとも変な夢でも見た?」

「幸せな夢を見た、それで少し色々と思い出してしまってな」

「そっか、良かったらその夢教えてくれない?」

「所詮夢の話だ、決して手に入ることのない水面の月のような夢だった」


そこから彼はぽつぽつと夢の話をしだした。

想像するだけでも幸せな、温かな夢だった。でもきっとそれは過去の彼にとっては間違いなく現実だったものだ。その話をしている彼の表情は穏やかで、きっと昔はそんな表情で暮らしていたはずだった。

任務での出来事も語ってくれた、獣人の三姉弟の話や感情が抑えきれなくなった話、騎士と戦った話。消え入りそうな小さな声で、粛々と語り出したそれらは彼の無念感をより一層強く感じさせた。それに対してオレは自分が思っていたことが滑らかに口が動いた。


「ふたりで強くなろうよ、誰にも負けないくらいさ」

「…あぁ、そうだな」

「勇者を殺して、その綺麗な畑を見に行こう」

「もうどこにもないんだ、あの小麦畑は」

「作ればいいじゃん」


そう言うと彼は驚いたように目を見開いて、そして優しく笑った。その顔を見ると音が消え、まるで世界にふたりしかいないような錯覚に陥った。


「…そうだな、生きていたらな」

「絶対死なせないよ、ほら下に行こ?みんな待ってるよ」

「すぐに向かう」

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