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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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24作目 爆ぜ狂う雷鳴

…どれくらい経ったかは分からないが少しの間だけ意識を失っていたみたいだ。腕は震えるし、足は突っ張ったように伸びている。体の至る所は痛いがなんとか生きているみたいだった。硬く、分厚く、滑らかな鱗を持つシーサーペントのみ電撃が効かずにオレの前にいた。

オレの能力、"雷帝(バラク)"は小さな雷を操るものだ、操るといっても体に少し纏わせることしかできないがそれによって爆発的な加速を得ることが出来る。そして水中で雷を大きくしてもシーサーペントには効かなかった。もう一度使えば倒せるかもしれないがオレも死ぬ。能力は使わず、鱗を貫く手段を持たないオレにはシーサーペントを倒す方法はひとつしかない。

怒り狂ったシーサーペントが咆哮を上げ、その怒りのままに口を大きく開いてオレを飲み込もうとする。

優秀な戦士であったお父さんの言葉を思い出して、オレはそのまま口の中に入った。勢いよく水飛沫が上がり、明るかった視界は一気に暗くなる。蛇というのは噛み砕く歯を持っておらず、食事方法は丸呑み一辺倒だ。勢いよくオレを飲み込もうとする口腔内で舌に短剣を突き刺し必死に抗う。口の中でオレが短剣を突き刺す度にシーサーペントは大きく上下左右にのたうち回り、口腔内は激しく揺れる。

口の中であれば、オレは"雷帝"を使える。魔力を込め、内側にある熱いものを手足に伝播させる。死への恐怖をお父さんの言葉を何度も口にすることで紛らわせた。


「死に向かう我らは勇…敢な…戦士…」

「死に向かえど…魂は…不滅…」

「故に我らは安寧を託し…地獄へ一歩…さらに一歩…」


舌に突き刺した短剣を握りしめ、暴れ狂う大蛇の中で必死に抗っていたその時暗闇の口内に青白い閃光が走った。バチッという今までより強い弾ける音が鳴り、何度も何度も口の中を切り裂いた。やがてシーサーペントは耐え切れず、オレを空中に吐き出した。太陽を背に、シーサーペントを見下ろした。

口にするは最後の一小節、手足に迸るは蒼き電撃。

唸る湖の大蛇を眼下に据え、驚くほど穏やかに雷鳴は爆ぜた。


「我らは人に非ず竜に成りて妻子を守り死に給う」


短剣を真下に構え、そのまま一直線に圧倒的な速度を以てただ落下した。水飛沫が飛び、一瞬水底にアストラは立った。ほどなくして水が元に戻ろうとした瞬間にシーサーペントは絶叫を、アストラが通った場所には雷鳴が鳴り響いた。

点滅する意識をなんとか保ちながらなんとか湖から脱出し、アストラはその場に倒れた。身体中が悲鳴を上げ、息も絶え絶えだった。ぼやける視界でなんとか立ち上がり、服を脱いで外傷を確認した。


「………」


へその辺りからやや膨らんだ胸を通り、鎖骨辺りまでに雷のような火傷の跡があった。背中や腹の辺りの刺傷、かつて食らったであろう外傷の跡はあれど、この戦闘で新たに増えた傷は火傷だけだった。

服を絞り、大きなため息をつきながらしばらく休んだ。どれだけ否定しようと、目を背けようと自分の身体が真反対に成長していくのをオレは実感していた。お父さんが何度も口遊んでいた詩の一小節を口に出すと勇気を貰えた、力が増すような気がした。故郷では戦士になれなかったが今のオレを見るとお父さんはなんて言うだろう、女は戦うなと怒るだろうか。


「…それは無理だよ、お父さんの子供だもん」


そう、オレはいちばん強い人の子供だ。戦わず死ぬのは不可能だった、そういう意味でもオレとバルは似ているんだ。誰に何を言われようと戦う以外でこの胸の思いは晴れない、オレと同じように誰かの屍の上にきっと彼も立っている。

バルと別れたところへ向かう途中、巨大な爆発音が鳴り響いた。それはオレの目的地の方から聞こえた。嫌な予感がして走ると想像以上に身体が軽かった。若干残る痛みを堪えて目的地に辿り着くと首のないオーガの死体と、倒れているバルとラーマがいた。

オレ以上にボロボロであちこちから血を流していたバルは満身創痍で、何度も名前を叫んだ。すると宥めるように落ち着いた声でラーマは話しかけてきた。


「落ち着け、気絶してるだけじゃ。死んではおらんよ」

「…よかった」

「シーサーペントは倒したようじゃな」

「まぁなんとかだけど…」


気絶しているバルを木の麓で寝かせ、ラーマは死体を調べていた。この辺りは至る所で破壊の跡が目立ち、岩は砕け木はへし折れていた。オレはバルが心配で横から一歩も離れることが出来なかった。

詳しくバルを見ていると血は止まっていて、骨はどこも折れていなかった。周りの状況からきっと激しい戦闘をしていたはずだ、それなのに不思議なほどバルに傷はない。まるで誰かが治したみたいにだ、当然ここにいる誰もそんなことは出来ない。回復魔法はどっかの教会が独占しているから、オレたちの中で使える人はいない。ラーマもそんなことに気がついているはずだがそんなことよりオーガの死体が気になっているようだった。よく見るのラーマの斧に血がついているのをオレは発見した、誰の血か尋ねる前にバルが目を覚ましオレたちはそこから帰路に着いた。

気になることは残れど、今は考えないことにした。バルが生きていることが嬉しかった、もう友達を失いたくなかった。

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