表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

25/79

23作目 重ねて

それから少し話したあと彼はエースと一緒に地下室に向かっていった。広間に残されたオレたちは次第に自分の部屋に戻っていった。オレと同じくらいの歳の男の子だった。ここに来る人達はオレを含めてみんななにかしら過去にあった人達だ、掟に従って詮索しないことになっているがそれでも気にはなる。

彼もその口だろう、ドラゴンが出たって勇者が嘯いたということは村ごと破壊され、故郷は火の海にになってしまったはずだ。オレはその惨状を何度も見たことがあるから。部屋に戻ってしばらく経った、何度も寝ようと寝返りを打つけどなんだか眠れなくて誰かと話したい気分になった。

少しだけ暗い廊下を歩いて広間に向かった、扉を開けるとエースが牛乳を温めていた。部屋の中にふんわりと漂う甘い香りが少しだけ心を落ち着かせる。最初からオレに気がついていたのか、振り返らずに「アストラも飲む?」と尋ねてきた。小さい声で返事をしてソファに座って待っていた。火の弾ける音と微かに沸騰する牛乳、エースの服が擦れる音が部屋の中を満たしてきた。ほどなくして湯気の立ったコップをふたつ持って隣にエースが座った。


「眠れないのかい?」

「うーん、まぁ…」

「そっか、僕もさ」


ホットミルクを口に含むとほのかな甘さが広がって、温かい液体が喉を通る感覚にほっとした。エースはそれ以上何も喋らず、オレも喋らなかった。心地よい沈黙がしばらく続いた。ホットミルクが少しぬるくなってきた頃、エースは立ち上がって「おやすみ」と一言声をかけて部屋に戻って言った。

オレもおやすみと返そうとしたが言葉より先に欠伸が滑った。内側に残るホットミルクの微かな温もりが眠気を誘い、目蓋は徐々に重たくなった。

次の日、朝食を食べている時にバルが同い年なことを知った。ただ年齢に似つかない態度や喋り方、雰囲気が不気味だった。なんだか気味が悪くて、弱いと一瞥した。

その後にバルと手を組んでラーマと戦い、先走って足を引っ張った。バルは戦闘の心得がないように見えた、ナイフの持ち方は不格好だし、明らかに慣れてないように見えたから少し驚かせてやろうと思って能力を使った。それでも簡単にあしらわれて、その後のバルは少し異常だった。顔色一つ変えずに流れを組み立てて、ラーマやお父さんみたいに考えながら戦っていた。悔しくて、突っ走って足を引っ張った。

重りをつけて行動するよう言われたときもバルは顔色一つ変えなかった、全然動けないはずなのに諦めずに一歩を踏み出した。どれだけ時間が経っても、振り返っても目の色を変えず、歩み続けた。

きっと彼は無茶をする、その目が死んでしまったお父さんによく似ていたから。誰かを恨み、殺意に呑まれた暗い瞳が。だから仲良くなってやろうと思った、お父さんが死んでしまった時逃げ出したから今度こそ向き合ってやろうと思った。案外彼とはウマが合った、退屈で苦しい走り込みも肩を叩いて一緒にこなせた。

稽古の最終日、オレにはシーサーペントという水棲の魔物を当てられた。水中ではオレは能力が使えない、天敵とも言える相手だ。ラーマに突き飛ばされ、深い湖に入る。四肢に付けている重りのせいで緩やかに沈んでいき、慌てて体を動かすと息苦しくなった。どれほど水を飲んだか分からないがなんとか水面に浮かび上がり、空気を取り込んだ。霞む視界をなんとか開き、眼前には水場の頂点である巨大な海蛇が縦長の瞳孔を開いてオレを見ていた。なんとか食べられる前に移動し、渡された短剣を緑色の鱗に向かって突き刺した。金属音にも似た音がなり、短剣は弾かれる。目の前で巨大な海蛇がそのしなやかな体を捻り、大きな渦が湖に広がった。流れに抵抗することもできずに、徐々に水底に引きずり込まれていく。

このままじゃ死ぬ、薄れゆく意識の中で最も大きく声を上げた本能は「死にたくない」だった。死にたくない、死ぬわけにはいかない、暗い、怖い。脳の中を埋め尽くすほどの恐怖に、理性で使わないようにしていた能力の抑止力が壊れる。

パリパリッという弾ける音が鳴り、暗い水底に光が走る。オレの四肢から迸る青白い雷光が液体に伝播して湖に広がる。身を焦がすほどの熱が身体に走り、痛みが駆け巡る。

雷は液体を駆け巡り、発動者本人であるアストラに痛みと熱を持って還元され、そしてそれはこの湖にいる全ての生物に例外なく適応される。アストラが今まで小さな雷を四肢に纏うことで爆発的な瞬発力を産んでいたそれは、液体という媒介を介することで大きな雷へと変貌する。時間にして僅か数秒、巨大な音が鳴り響き湖の中にいた全ての生物は死滅する。このひとりと一匹を除いて。そして小さな電気信号は、アストラの意識を再び引き戻す。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ