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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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20作目 任務完了

ラーマは大地をえぐるほどの脚力で地面を踏み締め、アレンに突撃する。弟子であろうと関係なく、その両手に持った大斧を振り下ろす。アレンは両腕を頭の上に出し、斧を受け止める。刃は当たっているはずだがアレンの腕に傷はなかった。

すかさずアレンは蹴りを繰り出し、ラーマを弾き飛ばす。空中で一回転し、あるはずのない地面を蹴って再びアレンの元に飛びかかる。


「中々やるようになったのう!小童!」

「腕が落ちたんじゃないか?」

「ハッ!言いよるわい!」


再びアレンとラーマの間で衝突が起きる。しかし決してアレンの体に大斧が当たるも依然として傷は受けなかった。


「鍛えた…にしては硬すぎるのう」

「…チッ」


アレンはバックステップを踏み、距離を離す。体内にある魔力を循環させ、言葉を発する。それはこの世界において自然現象を意のままに操り、脆弱な人間が太古より脅威であった魔物に抗うために創り出した剣に並ぶ大発明、魔法であった。


「土ノ段 七行目 螺旋の槍」

「!?」


たった一文の言葉だがそれは絶大な威力を誇る。アレンの周囲に土塊が4つ浮かび上がり、それはやがて長く、太く、螺旋を巻いた槍になる。凄まじい速度とともに回転し、発射される4本の土の槍をラーマは驚きながらも冷静に俯瞰していた。

人間が魔法を発動する以上、同時に発射されることは有り得ない。1本ずつ丁寧に、されど圧倒的な力を持ってして粉砕していく。


「まだ若いくせに七行まで至ったか、鍛錬しているようじゃの」

「元師範の貴様と違って魔法が使えるんでな、更に行くぞ。土ノ段 六行目 岩石の雨」


魔法とは各属性ごとに段落があり、行数が小さければ小さいほど魔法の根幹に至る。アレンは若くして六行目まで行使できるのはたゆまぬ鍛錬もあるが、類を見ないほどの圧倒的な才能がそこにはあった。

詠唱を終えるとラーマの上から質量を持った岩石が無数に落ちてくる、大きさは様々で範囲は直径20メートル。この魔法の真に恐ろしいところは一瞬でも上に意識を裂けることにある。

そしてこの2人の間でその一瞬は致命的。瞬きするほどの刹那の時間、アレンはラーマの前に現れる。左腰に差してある剣を抜こうと手をかけた瞬間、自身の足元に糸のようなものが貼ってあることに気がつく。

本来であれば気づかないはずがない見え透いた罠だが、押し迫る時間と元師範との相対が致命的な凡ミスを誘発してしまった。剣術に置いて重要度の高い踏み込みができないアレンは恨めしそうに糸を睨みつけた。


「なにしてんのよラーマ!バルバトス!逃げるわよ!」

「よっしゃ!」


ラーマは唖然とするバルバトスを抱え、身動きの取れないアレンを放置して一目散に走り去った。粘着力の高い糸を地面ごと抉って追いかけようとした時、時計の針の音がする。

5分、アレンにとっての約束の時間が来たのだ。恨めしそうに彼らが居なくなった方を一瞥したあと城壁の元まで走る。そこには首輪をつけた獣人の少女と、自身の部下が待っていた。


「おせぇっすよアレンさん」

「すまん、こいつが例の?」

「あ、はい!初めましてアレン…さん、ミクです」

「ふむ…くだらん子爵の手元に置いておくには勿体ない逸材だな。とっとと帰るぞ、国王陛下に顛末を報告しなければならん」

「うっす、馬車なら用意しといたんでさっさ行きましょう」


そうしてアレンら3人は馬車に乗り込み、レント北部都市を後にした。向かうは王都、アレンの所属する騎士団の本拠地であり、国王陛下の住まう土地。そして勇者が召喚された場所でもある。

彼らの背後にある街では、深夜だというのに騒がしかった。ミストレア教会の地下に娼館があったとなればブルムス・レント公爵は失脚するだろう、被害にあった少女達の穏やかな安寧を望み、アレンは眠りについた。


一方でバルバトスら3人は目的のものを入手して帰路についていた。北部都市から離れ、山の中腹に位置したところで一度止まった。ラーマは抱えていたバルバトスから手を離し、一同が座って話し合っていた。


「さて、バルバトスよ。潜入という言葉の意味は分かるかのう?」

「バレないで隠密に潜り込むという意味…だと思う」

「お主がしたことはなんじゃ?」

「貴族をボコボコにして、騒ぎを起こして騎士と一戦交えた」

「バカよ!こいつ本物のバカよ!」


申し訳なさそうにするバルバトスと、ため息を付くラーマ、そして誰よりも激怒しているアラクネが暗闇の森林の中で大騒ぎしていた。

アラクネは後ろのポケットから一冊の小さな本を取り出して叫んだ。


「わ・た・しが見つけたから良かったものの、本当に邪魔しかしてないわね!エースに言うから!」

「本当にすまない…」

「まぁまぁ、一応帳簿は手に入ったんだからカリカリしなさんな」


月夜を背に、3人の死神はゆっくりと帰路に着いた。ある者は元弟子が成長してることを密かに喜び、ある者は怒り狂い、またある者は無力さに打ちひしがれていた。

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