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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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15作目 泥棒猫

「ハァ…ハァ…!」


この街は俺の庭だ。薄汚い孤児を見下す目も、吐き気を催す偽善にも慣れてる。獣人である俺たちに居場所なんかない。生きる術も、寄りかかる相手もいない。

全部、全部取られたから。

俺には2人の姉がいた。ひとりはよく分からん貴族に誘拐された、もうひとりは目が覚めたら消えていた。裏路地にしか俺には居場所がない、2人の姉しか俺にはいなかった。

何度もやっている盗みで俺は久しぶりにヘマをした、浮かれたやつが噴水でうなだれていたから楽勝だと思ってた。だというのに


「ハァ…ハァ…畜生…畜生…!!」


俺は今必死の逃走劇をしている。

金の入ってそうな袋を盗み出し、そのまま去れば問題なんかなかった。俺と同じか少し年上くらいの男が持つには少し重たい袋だ。さぞかし大金が入ってると睨んだ。なのに、途中までバレていなかったはずなのに一気に悪寒が走った。慌てて振り返ると人混みの中なのに真っ直ぐ暗い瞳で俺を見てた。

一瞬で直感した。あれは、手を出しちゃいけない類のものだ。現に今もずっと追いかけてきてる。この街は俺の庭のはずなのに、徐々に追い込まれている感覚だ。距離を離しているはずなのに一向に悪寒が消えちゃくれない。

時々音が消える、いなくなったかと思って振り返ってもまだ追いかけてきて来やがる。噂に聞く勇者ってやつかもしれない、捕まったら良くて奴隷にされるか最悪殺される。1番上の姉が誘拐された時につけられた右目のキズが傷んだ。あのときは抵抗しただけで右目を失った、回復魔法を受けようにも金がなかったから腐敗して眼球が腐り落ちた。あんなのはごめんだ。

なら盗んだ金を捨てるか?いやだめだ、この大金があれば姉を探す資金になる。なんとしてでも奪って生き残らなくちゃいけない。

表通りを抜け、裏路地に逃げ込む。俺のような孤児から浮浪者まではぐれ者のゴミ溜めの間を通り抜け、水たまりを踏み抜く。

弾ける水の音と、知り合いの孤児が話しかける声が聞こえる。


「あ、おいミケ!そんな慌ててどうした」

「話は後だ!またな!」


質問に答えたせいで息が余計に苦しい。身体は自分のものじゃないみたいに熱くなり、心臓はバクバクうるさくて周囲の音も聞こえにくくなる。

被っていた形見のローブがバタバタ靡いて、フードが外れる。周りの人間に見られたらまずいけど、構ってる余裕なんかない。

散乱している荷物を蹴り飛ばして、いくつもある壁を飛び越えてどんどんと裏路地の奥の方に入り込む。気付けば追いかけてきていた黒い男は見えなくなっていた。

巻けた…のか…?

その場に倒れ込み、息を整える。心臓が破裂しそうなくらい痛いし、頭の中はガンガンと煩い。汗が額を伝って、何度も滴った。震える手で袋を開き、中に入ってる金を確認する。

重さ的に大金かと思ったが、やはりそうだった。


「ハァ…ハァ…金貨2枚…こんだけあれば…」


水が弾ける音と、箱やら何やらをぶち壊す音がした。何度も聞いた足音と、不気味な悪寒が背筋を凍らせる。猫の獣人である俺の本能が何度も警鐘を鳴らした。


「う…そだろ…」

「返せ、それは大事な金だ」


ドスの効いた低い声が精神を萎縮させる。真っ黒い髪の隙間から見える光のない黒い瞳孔が俺を見ている。あれだけ走ってたはずなのに息ひとつあげずにゆっくりと俺の元に近づいてくる。

逃げ場はない、かなり奥まで入り込んでしまったし四方は壁と男に阻まれている。震える脚を何度も殴り、動くよう鼓舞する。

動け、動け、動け!!

何度も叩き、ようやく俺の足は動き始めた。腰につけていたナイフを引き抜き、男に向かって走る。

頭や肩、胴体など様々な場所を突いたり刺さそうとしたりするがどれも直前で腕を当てられ軌道を逸らされる。仮にも獣人である俺の攻撃は尽く回避され、慌てて右から左へと大振りの攻撃を仕掛けるとナイフを持っている手を蹴り上げられ、俺は地面に組み伏せられた。抵抗できないほどの馬鹿力で拘束される、しかし男はなにかに気づいたのか拘束を緩め、質問をしてきた。


「お前、姉か母親はいるか?」

「…は?」

「俺と同じ…あぁ14歳くらいで…茶髪の…」


俺の髪と獣人特有の獣の耳をじっと見て、男は質問をする。俺の種族になにか心当たりがあるのか?それとも俺ではなく家族を奴隷にしようとしたのか?


「あんたと同じくらいなら、2人目の姉ちゃんがそうだ」


質問に答えると男は完全に拘束を解いて、袋をポケットにしまいながら俺に追加で質問をする。


「…ひとつ聞きたいんだがお前ら獣人に首輪をつける趣味とかはないよな?」

「馬鹿にしてんのか!!」


怒号を浴びせても一切の驚きなく、男は目の前で顎に手を当て、少し思考を巡らせたあとに再び俺に向かって話しかける。


「お前の姉らしき人物に心当たりがある、ちょっと付いてこい。情報を聞きたい」

「そうやって奴隷商人にでも売り飛ばす気だろ!それとも姉ちゃんのときみたいに無理やり連れてく気か!?」


そう言うと男と目が合い、少しだが額に青筋が浮かんでいるのが見えた。まずい、感情に任せてぶちまけ過ぎた。こいつは俺より何倍も強い、俺の命くらいどうとでもなるんだ。


「俺は掟に従う、お前に危害を加える気はない。姉についての情報が欲しい、ついてきてくれないか」


そう言って男は手を差し伸ばし、握手を求める。

警戒して立ち止まっていると男は悲しそうに、苦しそうに押し殺したような声で言った。


「…姉がいなくなるのは苦しいよな」


そう言われると俺は無意識に男の手を取った。怪しい人物に見えたし、誰も信用出来ない路地裏育ちなのも相まって警戒心はとれなかったが最後のあの顔を見ると嘘をついてるように見えなかった。

それに掟と気になる単語も言っていた。つまり無秩序の輩ではないし、組織に所属しているということだ。

この男の手を取るべきだ、姉を助けるためには。


「なぁ、あんた名前は?」

「…バルバトス、お前は?」

「俺ぁミケ、この街のことならなんでも聞いてくれよ」

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