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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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14作目 雑踏を踏んで

「で、昨日の夜にあんたが会った獣人の女だけどやっぱり疑問が残るわね…」


テーブルの上に並べられたパスタをフォークで小突きながらアラクネは言う。


「身なりからして衛兵の類ではないとは思うけど…あんな人物見覚えないし、誰なのかしら」

「分からない…縄を意図的に隠していたように感じる。そういえば昨日の縄とか糸は回収しなくてよかったのか?」

「1時間もすれば溶けてなくなってるわよ、痕跡残すなんてヘマするわけないでしょ」


あの糸は全てアラクネの能力に由来しているのは分かるが時間経過で消えてなくなるなら証拠の心配は無いだろう。


「年は俺と同じくらいだったし首輪もつけていた。奴隷なんじゃないか?」

「奴隷ならあんたを庇う理由がないじゃない、しかもあの眼、猫型の獣人でしょ?きっと気づかれてたわよ」

「今のところ敵対の意思はないように見えるが、もし任務に支障が出るなら俺が責任を取る」

「生意気言うんじゃないわよ、そりゃもし情報共有されてたら大幅な修正がいるけど今のところ衛兵が活発な様子はないし、駐在してる騎士が出張ってる様子もないわ」


衛兵と騎士の違いは様々だが、最も特徴的なのはその強さだ。騎士というのは国に直属している精鋭のことでこの国、シェンムルグ王国では多数の騎士団を所有している。

戦争が何年も起きていないのは魔物の影響によるものだが、この国では騎士団を所有している点も大きい。剣術、体術、魔法、どれをとっても一級品だから騎士なのだ。衛兵と騎士では天と地の差がある。

その2つともに大きな動きがないことからアラクネはまだ大丈夫だと判断しているのだろう。

大きなパンを齧りながらラーマも続けて話し始めた。


「とはいえ、悠長に時間をかけてる余裕なんかないじゃろう…考えてる作戦は?」

「今日の深夜、あんたらで教会に侵入して。多少手荒になるけれど仕方ないわ。中の地理は把握できてないけれど隠された入口なら分かってるもの」

「お主は?」

「ブルムスの家に行って書斎や私室を漁るわ。ようやく人手が増えたことだし手早く行きたいもの」

「分かった、任務が終わったら隠れ家で合流してすぐにこの街を出よう。なにかあったらワシらを見捨ててすぐに街を発つんじゃぞ」

「…なにもないでしょ、絶対に」


何度もフォークでパスタを巻き続けてアラクネは外を見た。とりあえず地図と周辺の地理を照らし合わせるために俺とラーマは金を置いてアラクネと別れた。

階段を下りるとシスターだの神父だのがテイクアウトを注文していた。ラーマに目を見るなと言われ、押される形で店を出た。


「関係者の目を見るな、変に勘づかれるからの」

「あ、あぁ…すまん」

「さて、とりあえずこの辺りを見て回るかの。じゃあワシはこっち、お主はそっちじゃ。なにかあったら呼んでくれ」

「あ、おい…」


ラーマはそのまま雑踏の中に消えていき俺は唐突にひとりになった。なんか、雑じゃないか?とも思うがいちいち構ってる暇なんかないことに気がついた。

元はと言えば俺があの獣人に気付かれなければ時間を巻く必要もなかったのだ。とりあえずこの近辺を見て回ろう、幸いラーマから渡されてる金は自由に使っていいことになってる。

王国金貨2枚、生まれて初めて見る金額だ。この金があれば俺は村でしばらく贅沢できるほどのものをポンと軽く渡された時は驚いた。まぁ使うことは無いだろうし、今はとにかく歩こう。

レント北部都市は綺麗な街だ、道は舗装されてるし周りの人が着ている服も大抵清潔だ。武器を持ってる人もいるが冒険者と道行く衛兵くらいで、貿易の要の都市なだけあって商人も多い。

教会は大通りを逸れた脇道にある、一度通ってみたが真っ白い建造物は生まれて初めて見た。庭には花が植えられており、中から時折鐘の音がなる。

隣接している孤児院も白い綺麗な建物で、中から子供の笑い声がする。煙突からは煙が上っているし、庭では数人の子供がはしゃいでいた。幸福そうで、満ち足りてる空間な気がした。教会と孤児院との関係に違法性はないように見えた。

教会の周りは高い建物が多く、建物間の幅は狭い。逃げる時はこういうところを使うと良さそうだ。その後も歩き回り、慣れない人混みに少し気分が悪くなり近くにある噴水に腰掛けて休んだ。

頭の中でずっと昨日の獣人が気になっていた。そもそも獣人は珍しい、いないわけではないが俺は生まれてこの方見たことがない。

特徴的な点は種族由来の体力と俊敏性、そして筋力だ。獣人の中でも様々な種族がいるが昨日出会ったのは猫型獣人、詳しい名前は分からないが猫にできることの大半が出来る。

つけていた首輪はなんだ?衣類はボロボロだったし、夜でよく見えなかったが体に傷跡がいくつもあった。誰かに服従させられてるとしか思えないが、だとすると俺を庇う理由がない。

頭を抱えてグルグルと思考を巡らせていても結論は出なかった、地図と周辺地理の擦り合わせは済んだが如何せん気になってしょうがない。

思考に気を取られていたからか、金の入った袋に手を伸ばされていることに気が付かなかった。右ポケットにあった金貨の重みがなくなり、慌ててその方向を見るとボロボロのローブを被った俺より小さい人影が走っていくのを見た。

…考えるのは後にしよう、今は金を取り返すのが先だ。

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