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右手に強欲を、左手に憤怒を。-異世界で全てを奪われた俺が全てを奪い返すまで-  作者: イカネコ
"英雄の墓標"編

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13作目 情報と幸福の共有

アラクネとの情報共有で得たことは以下の点だった。ブルムス・レント公爵が取り仕切っている違法娼館があり、そこは会員制で限られた人しかいけないということ、会員は帳簿に記入されどこかに厳重に保管されてること。そしてそれにもしかしたら勇者の名前があるかもしれないことだ。

勇者が色狂いなのは確実でそんな人物ならば違法な娼館にも入り浸っているかもしれないことからエースは目をつけたらしい。

窓から差し込む月明かりと、机の上に置かれた小さなランプのみが照らす暗い屋根裏部屋で俺たちは各々座って会議を始めた。机の上にあるメモや書き込まれた地図を所々指差しながらアラクネは話し続ける。


「まぁ〜、今のところクソ勇者が入っているところは見てないわね。ただきな臭いのは確かよ」

「帳簿の目星はついてるか?」

「娼館か、もしくはブルムスの私室かしら。それ以外は何度か潜入してるけどそれらしきものは見つかってないから」

「ふぅむ…潜入したところはどこじゃ?」

「ブルムスが保有する建物、ブルムスの息がかかってる商会、ないとは思うけど一応冒険者ギルドもね」

「永世中立を謳う冒険者ギルドがそうだったらこの世も終わりじゃな」


そうね、と言いながらアラクネは爪を噛んだ。


「娼館の場所はわかってるけど中にはまだ入れてないわ、あそこ完全に会員制で警備も厳重だもの」

「場所は?」

「この街で1番でかい教会ね」

「…そりゃまた難儀なところじゃな」


地図のミストレア教会レント支部と書かれている部分に大きくペンで丸をつける。

ミストレア教会は、確かこの世界で主に信仰されている宗教だ。といっても国教にして大切に扱っているのは隣国のミストレア神聖国のみで、それ以外はあくまで知識として取り入れてるだけだ。この国にも支部はあったのだな…

そして街の中でも一際目立つその教会は地図で見る限り相当広い。こんなに正確な地図は見たことがない、思えば広間の掲示板に貼られていた地図もこれくらい正確だった。どこから入手しているのだろうか、疑問だ。

そしてアラクネは教会に隣接している孤児院にも丸を書き始める。


「そう、だからあんた達が呼ばれたんでしょ。少なからずカトレアとカクエンには絶対無理だわ」

「そうじゃな、してこの孤児院との関係性は?」

「時折夜中に神父が子供数人を連れて教会に入っていくのよ」

「粗方察しはついたわい…バルバトス、初任務じゃが嫌なものを見ることになるぞ」

「だろうな、支障はない」

「今日はもう遅いから、情報の共有だけにするわ。詳しいことはまた明日話すから」


そう言ってアラクネは手際よく鎧を脱ぎ、髪紐を解いてそのままベッドに倒れた。あっという間に規則正しい寝息しか聞こえなくなった。

そういえばアラクネに聞きたいことがいくつかあったが聞き出す前に寝てしまったな、明日聞いてみるとしよう。

俺は長剣をベルトから外し、体の内側に抱き抱えるようにしてコートに包まって硬い床に寝転がった。ラーマも斧を壁に立てかけ、ポーチをベルトから外して眠る準備に入り始めた。ゆっくり床に腰を下ろし、月光を背にして俺に話しかけてくる。


「あのとき下でお主が会った獣人、なぜ何も報告しなかったんじゃろうな」

「さぁな、そういえば糸だの縄だのを放置したままだったが良かったのか?」

「あぁ…どうせ消えておるよ、詳しいことは本人に聞け。夜更かしは老骨にはちと厳しいわい」

「ハッ、まだまだ現役だろうに」


そう言ってその日は眠りに着いた。長旅の疲れか、緊張が解れたのかは分からないが一瞬で意識は暗い暗い底に沈んでいった。

次の日、ラーマに起こされる形で目を覚ました。屋根裏部屋は相変わらず薄暗かったが朝日が入っているおかげで夜より幾分かマシだった。

アラクネから服を投げつけられ、着替えるように命じられる。シワにならないようにハンガーにスーツとコートをかけて渡された服を着る。

理由を尋ねると俺たちには身分証がないためスーツのようなカッチリした服を着込んで衛兵に目をつけられたら厄介になるからだと説明された。

窓から飛び降り、壁を伝って路地裏に降り立ち大通りに出た。

眼前に広がる光景は多くの人たちが往来を繰り返し、騒がしく活気があった。初めて見るその人通りの多さに若干気圧されていると背後からアラクネに小突かれる。


「田舎者丸出しよ、もっと堂々としなさい!」

「すまん…こんなに大きい街に来たのは初めてで…」

「はぁ…とりあえずはぐれないでついてきなさいよ」


アラクネに案内され、到着したのはお洒落な喫茶店だった。食欲を唆るいい匂いに、紅茶の香りが合わさってすごく落ち着く。店員に案内され、窓際の席に座ると手際よくアラクネが注文をする。


「モーニング3つお願いします」

「かしこまりました。おや、今日はお連れ様とご一緒なんですね」

「はい、あぁそれと…」

「もちろんミルクはお付けしますよ、それではご注文は以上でよろしいですね?」


はい、と愛想良く笑顔で返し店員は俺達の席を後にする。俺が今まで見てきたアラクネとは別人のように対応し、その豹変ぶりに思わず目を開いた。思わず隣に座るラーマを見ると少しニヤついた顔で返す。


「こやつ演技上手いじゃろ、なぜか礼儀作法がワシらの中で一番綺麗なんじゃ」

「冗談…じゃないみたいだな」

「生意気よ、あとで覚えておきなさい」

「して、わざわざここに来た理由…まぁ粗方察しは着いてるんじゃが、教えてくれぬか」


俺もラーマも方角から大体察しは着いていた、初めてくる街では地理情報に疎いが正確な地図と現在地が分かったためここから見える場所、つまり教会に用があるということは辛うじて分かる。

この喫茶店は二階建てだ、朝方はほとんど一階にしか客はいないし二階にある小窓から教会は見下ろせる。こんな絶好のポジション、使わない手はない。

俺とラーマの前には日差しを受けたアストラが顎膝を付いて外を見る。


「3つ理由があるわ。1つ目は教会がよく見えること、2つ目はこの喫茶店は教会関係の利用者が多いこと、そして3つ目、ここが一番大事と言っても過言じゃないわね…」

「ほう…?なんじゃ言ってみぃ」

「…ここすっごく朝ご飯が美味しいのよ!カクエンにも負けないくらい!」


差し込む陽光に負けず劣らずの眩しい笑顔で彼女は言った。一瞬沈黙したあとラーマは声を押し殺して笑った。俺は呆然とし、少し天井を見た。

…アラクネという人物は思ったより単純かもしれない。

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