最速ギャルと最強オドオド娘
登校二日目。
―――普通に動ける。
それも、拍子抜けするくらいに。
昨日あれだけズタボロだったのに。
朝起きたら身体は軽いし、通学路も問題なく歩けている。
家に着くころにはケロッとしてたし、回復力がおかしい。
過藤先生のオペが神業なのか。
それとも……僕の身体が、そもそも変なのか。
どっちにしても、帰宅が遅くなって妹にはガチギレされた。
いや、ほんとごめん。
悪気はなかったんだって。
―――それはさておき。
頭から離れない。
軀方さんのことが。
昨日の戦い方。
異様なまでの動き。
普段のオドオドした雰囲気との、致命的なまでのギャップ。
オーパーツの能力。
イレブンギアNo.1という肩書き。
情報量が多すぎる。
正直、意味が分からない。
そもそも、イレブンギア全体がおかしい。
敵襲の真っ最中だっていうのに、全員が妙に落ち着いてた。
もしかして、ズレてるのは僕のほうで、あれが〝イレブンギアの日常〟なんだろうか。
―――だとしたら、笑えない。
考えすぎて、頭がパンクしそうになる。
だからこそ―――
まずは、軀方さんを知りたい。
今日の放課後、イレブンギアの研究室に行って、資料を漁ってみよう。
少しでも手がかりがあればいい。
そんなことを考えながら校門をくぐった、そのとき。
校庭に、やたらと人だかりができているのが見えた。
なにこれ。
なにごと?
気になって近づいた瞬間―――
「今日こそ!ウチが勝つかんねー!」
ツインテールをぶんぶん振り回し、ドヤ顔で叫んでいるのは貝柱先輩だった。
その視線の先には―――軀方さん。
猫背気味なのに、百八十センチ近い高身長。
嫌でも目立つ。
なのに、相変わらずオドオドした雰囲気は健在で。
……例えるなら、猫に睨まれて固まってる巨大ハムスター。
―――ちょっと可愛いの、ズルい。
「ちょっとー!無視しないでよ!」
「ほ、ほたてちゃん、朝からそんなのやめよ……」
「〝ほたてちゃん〟言うな!ウチらライバルでしょ⁉馴れ馴れしいの禁止!」
「で、でも……」
「いいから勝負!今日こそ絶対タッチしてやるんだから!」
……あ、これ鬼ごっこだ。
前にも見たな、この光景。
あのときは、時の解明者で時間を止めて、なんとか逃げ切った。
そういえば、軀方さん。
「実験体の動きが見える」って言ってたっけ。
この鬼ごっこ、観察する価値がありそうだ。
僕は人混みに紛れて、そっと様子を見る。
「ルールはいつも通りでオッケーっしょ!」
「えっと……本当にやるの?」
「やるに決まってんでしょ!ウチだって夏休み、ずーっと特訓してたんだから!」
「……じゃあ、五分だけ。それ以上は遅刻しちゃうから」
「カッチーン!そんなに時間気になるなら、さっさと終わらせてやるし!」
次の瞬間。
貝柱先輩が、視界から消えた。
砂埃だけを残して、いなくなった―――そんな感じ。
昨日の実験体より、はるかに速い。
音だけが、遅れて届く。
―――これが、学園最速。
一方で、軀方さんは。
背筋を伸ばし、身体をふわりと揺らす。
前後左右に、軽やかなステップ。
踊ってるように見えて、実際は―――
すべてのタッチを、紙一重で避けてる。
砂埃の中で、彼女だけが静かに舞っている。
……どうやって見てるんだろ。
あの長い髪。
顔、ほとんど見えないのに。
素顔も、動体視力も、全部が謎だ。
五分後。
「ぐやじいぃぃぃ‼なんでアンタにタッチできないの!」
貝柱先輩が地団駄を踏む。
ギャルの地団駄、初めて見た。
……なんかシュールかも。
「見えてるから避けてるだけで、見えなかったらタッチされてるよ」
軀方さん、悪気ゼロで言う。
―――完全に煽ってるのに、無自覚だ。
「クールぶりやがってぇ!チョームカつく‼」
「えっ、え、なんで?怒るの?」
……だめだ、この人。
「じゃあ、行くね?ほたてちゃんも遅刻しないようにね」
運動音痴なダッシュで去る軀方さん。
ギャラリーも散っていく。
収穫なし。
僕も教室に行こうと思った。
ガシッ。
肩、掴まれた。
振り向くと、満面の笑みの貝柱先輩。
……あ、これ詰んだ。
◇
結論から言うと、僕は朝礼に遅刻した。
鬼ごっこ再戦は五分逃げ切った。
でも、朝礼まで残り一分。
時の解明者は無呼吸発動。
時間停止中は、空気も止まる。
水の中を走るみたいに、身体が重い。
必死に息を止めたけど―――間に合わなかった
それでも、後悔はしていない。
だって、勝利報酬は〝軀方さんのことを教えてもらう〟だったから。
それがなきゃ、朝礼に遅刻するリスクを負ってまで、鬼ごっこには付き合わなかったと思う。
少しでもいい。
今は、軀方さんについての情報が欲しかった。
貝柱先輩は新聞部だから、きっといろんな情報を持ってるはずだし。
◇
―――昼休み。
学食の広場で、貝柱先輩と向かい合う。
カツ丼とミニそば。
ガッツリすぎる。
「大食いとか思ってんでしょ?ウチ、走るからこのくらい食わなきゃマジヤバいし!」
「いえ、別に……」
「で?唯一君は、軀方魑瑠の何が知りたいわけ?」
丼ぶりを手にしながら、貝柱先輩がニヤッと笑う。
「何が、っていうか……貝柱先輩が知ってること、全部知りたいです」
「ふーん……唯一君、ああいう背高くてスレンダーな女がタイプってワケ?」
「いや、そういう意味じゃなくて……!」
「まぁ、別にいいけどさ!」
貝柱先輩は肩をすくめると、箸を握りながら話し始めた。
軀方魑瑠。
特待生No.1.
学園最強。
無敗。
オーパーツ発動シーン不明。
孤立気味。
過藤先生とだけ、やたら仲がいい。
交際経験はなし。
……情報が濃い。
「―――んあ、貝柱に唯一じゃねぇか!」
「あれ、蓮田先輩が学食とかチョーめずらしい!」
手に僕と同じサンドイッチとパックのミルクティー。
蓮っ葉な感じなのに女の子らしい。
「珍しいのは、お前らが一緒にいるとこだろ」
「えー、ウチら仲良いですよー」
そうだったのか!
僕と貝柱先輩って、仲良かったのか!
蓮田先輩が空いてる場所にドカッと座った。
「んで、二人で何の話ししてたわけよ?」
「えっと、唯一君、軀方魑瑠について知りたいとかで、教えてました!」
「ほぉーん、唯一が魑瑠について、知りたかった、と。ほぉーん……」
なんだろう、その意味深な「ほぉーん」は……。
「唯一、魑瑠が好きなら早く告白しちまえよ!」
「いえ、そういうのじゃないんで……」
女の子って恋バナ好きだよな。
そういえば、貝柱先輩からの情報に―――
〝交際経験なし〟とか意味不明なのもあった。
僕が軀方さんを好きって勘違いされてるのか!
「いや、唯一がそうだとしても、魑瑠はわかんねぇぜ?」
「多少は好意的かもしれませんけど、そういうのとは違うと思います!」
きっぱり!
確かに軀方さんの距離感はちょっと近い。
でも、そういうのじゃないと思う。
「てか、気になるなら直接聞いたらよくね?」
「いやいや、ですから僕は―――」
貝柱先輩の言葉を否定しようしたとき、閃いた。
そうか。
分からないなら―――
本人に直接、聞いちゃえばいいんじゃない⁉
そう思った瞬間、視界が少し明るくなった気がした。
残りのサンドイッチを一気に平らげる。
明日だ。
明日、軀方さんに聞こう。
こうやって一つ一つ、僕の一学期分の空白を埋めていけたら良い。
二人の先輩にお礼を言って、僕は自分の教室に帰った。




